備蓄食や飲用水「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 食料危機や非常時の命綱、どう確保する #知り続ける
コロナ禍は、フードサプライチェーン(食料が生産者から消費者まで届く一連の流れ)に大きな混乱をきたした。それに加えて、穀物の二大輸出大国であるロシアとウクライナの戦況が、世界的な食料不足と食料価格の高騰を招いている。
ある飲食店では食材の価格が3倍以上に値上りしているという(2022年3月11日現在)。学校給食の現場でも同様のことが起きている。
日本は、カロリーベースの食料自給率が37%。食料の6割以上を海外に依存している。膨大なコストとエネルギーをかけて輸入した食料だが、年間570万トン以上の食品ロスを出している。世界の食料援助量420万トンの1.4倍にあたる食料を捨てているのだ。
では、何ができるのか。今ある食資源を使い尽くし、できる限り無駄にしないことだろう。
ペットボトル水の賞味期限は「内容量が担保できる期限」
毎年3月22日は国連が定めた「世界水の日(World Water Day)」。水が大切であること、安全な水を使えるようにすることの重要性について、世界の人が一緒に考えるための日だ。
日本では、企業や行政、家庭で飲用水の備蓄として使われる、ペットボトル入りのミネラルウォーター。ガラス瓶と違って、ペットボトルの容器は通気性がある。容器を介して水が蒸発するため、長期間保管しておくと、内容量が少なくなる。明記してある内容量と実際の内容量との差が、許容された誤差範囲を上回ると「計量法違反」になり、販売できない。そのため、ペットボトルのキャップや本体には、その内容量が確実に入っていると担保できる「期限」が書いてある。計量法違反にならない期限、ということだ。
つまり、ペットボトル入りのミネラルウォーターに書いてある期限は、おいしさのめやすである「賞味期限」ではない、ということだ。そもそも殺菌して濾過(ろか)してあるので、すぐに劣化するものではない。
自然災害で被災した場合、何らかの理由で食料が手に入らず、ペットボトルの水しかない場合、たとえ「期限」が過ぎていたとしても、捨てる必要はない。開栓して、中身を確認し、大丈夫だったら十分飲むことができる。
全国紙(1)の取材に対し、日本ミネラルウォーター協会は、次のように答えている。
計量法に抵触する水を販売してはいけないが、飲むのは問題ないし、寄贈や譲渡も問題ない。
缶詰・びん詰・レトルト食品「賞味期限が過ぎたらすぐ食べられなくなるわけではない」
また、缶詰は、真空調理してあるので、保存性が高い。缶それ自体の品質保持期限が3年間のため、ほとんどの缶詰は賞味期限を「3年間」と設定しているが、直射日光にあてない、高温高湿の場所を避けるなど、保管方法に注意して保管しておいたものは、期限を過ぎても十分食べることができる。
日本缶詰びん詰レトルト食品協会は、「賞味期限が過ぎた缶詰、びん詰、レトルト食品は食べられますか?」という質問に対し、次のように答えている(2)。
アルファ米の賞味期限は5年以上
アルファ米は、炊きたてのご飯のおいしさを保ったまま、急速乾燥させたものだ。
アルファ米を製造している尾西(おにし)食品株式会社は、「消費期限を教えてください」という質問に対し、公式サイトで次のように「賞味期限は5年6ヶ月」と答えている(3)。
食品の水分量が多いとカビなどのリスクがあるが、極度に乾燥させたものは保存性が高くなる。
消費者庁「賞味期限の切れた災害備蓄食」
消費者庁は、2020年7月22日付で、賞味期限の切れた災害備蓄食について、「食べられなくなる期限ではない」と、次のように通知している(4)。
賞味期限切れ食品スーパー「マルヤス」は食・環境関連の賞を受賞
賞味期限切れなど、訳あり食品を扱うスーパー「マルヤス」を首都圏で運営する合同会社ファンタイムは、2021年12月8日に「気候変動アクション環境大臣表彰」を、2021年12月24日に「食品産業もったいない大賞審査委員会審査委員長賞」を受賞した(5)。いずれも、従来は、「おいしさのめやす」に過ぎない賞味期限が切れただけで廃棄されてきたものを、捨てないで、資源として活かしたことが評価された。
世界的にはデンマークで始まったwefood(ウィーフード)が、賞味期限切れなど、余剰食品を扱うスーパーとして知られている(6)。wefoodの公式サイトでも、「2016年2月、世界初の余剰食品を扱うスーパーをオープンした」とある(7)。
府省庁は賞味期限過ぎた備蓄も含めて活用
府省庁は、賞味期限が多少過ぎた缶詰などの備蓄食品も含め、処分しないで活用する取り組みを始めている(8)。
これは、消費者庁の公式サイトでも掲示されている、賞味期限はおいしさのめやすであること(9)を受けてのことだ。
食品ロス削減推進法には「賞味期限と消費期限の違いの理解促進」
2019年に施行された食品ロス削減推進法では、基本的施策のところに、
とあり、次のように説明されている。
全世界の誰もが食料支援を受ける/行う可能性がある
食料支援を受ける人は、一部の特定の人だけではない。
食料支援を行う人は、NPOだけではない。
賞味期限は、品質が切れる日付ではなく、「おいしさのめやす」である。
ペットボトルのミネラルウォーターの期限は「内容量が減らない期限」に過ぎない。
食料自給率37%、食料の60%以上を海外に依存している日本は、コロナ禍、かつ、ロシア・ウクライナ情勢によって世界的に食料が不足する今、食に対する敬意の気持ちを持ち、貴重な食資源をできる限り使い尽くすことが求められている。
関連資料
1)賞味期限を過ぎたペットボトルの水は飲めるか、飲めないか?(産経新聞、2018/7/3)
2)缶詰・びん詰・レトルト食品に関するよくある質問をご紹介!(日本缶詰びん詰レトルト食品協会)
4)賞味期限の切れた災害備蓄食品について(消費者庁、2020/7/22)
6)賞味期限切れスーパーの元祖 ヒュッゲの国デンマークの食品ロス年70万トン削減目指すwefood(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/10/1)
10)食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針(内閣府、2020/3/31)
なぜ賞味期限切れの水は十分飲めるのに賞味期限表示がされているのか?ほとんどの人が知らないその理由とは(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/7/30)
賞味期限切れの水は飲めるので台風など非常時に捨てないで!消費者・行政・メディア みな賞味期限を誤解(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/9/13)
警視庁が「飲料水としてダメ」とした水は飲用可能 ペットボトル水の賞味期限は飲めなくなる期限ではない(2019/12/17)
備蓄食品や飲用水「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 災害時の命綱、どう確保するか(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/7/8)
賞味期限切れの備蓄の水や食料は地震などの非常時にはすぐ捨てないで!(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/2/14)
たとえ「賞味期限切れ」でも国は災害備蓄食品を有効活用 なぜ民間では使わない? #知り続ける(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/3/14)