Yahoo!ニュース

M-1決勝効果で出場芸人への言及ツイートはどの程度増加したか?

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
錦鯉(写真:イメージマート)

M-1グランプリ2021が錦鯉さんの優勝で幕を閉じました.おめでとうございます.

M-1グランプリについては採点の分布についての分析や,Twitter社自らツイートの分析を行っていたりと,分析界隈も盛り上がっていますので,流行りに乗ってツイート分析をしてみたいと思います.

本記事の結論

・決勝の放送中はオズワルドへの言及数がもっとも多かった

・錦鯉は決勝後平均ツイート数が26倍になったが,インディアンスも10倍になった

・ランジャタイにはコアなファンがついている

データについて

今回は,準決勝が終わった12月2日から決勝の12月19日,その後の12月22日までのデータを分析してみたいと思います.

収集キーワードは各コンビ名とそのハッシュタグを利用しました.例えば,「錦鯉」「#錦鯉」と言った感じで,決勝進出したすべてのコンビのデータを集めています.

なお,「もも」については長期にわたる分析の対象から外しています.これは,「もも」で検索するとほかコンビの10倍くらいのツイートが取れてしまうためです.この季節に桃が!?と思ったのですが,よくよく見ると,かなりのツイートが「ももクロ」に関するものでした.ももクロおそるべし.なお,決勝の日だけであればノイズの影響は少ないと考え分析対象に入れています.

事前ツイート数

準決勝から決勝前日までの1日平均言及数(著者作成)
準決勝から決勝前日までの1日平均言及数(著者作成)

これは,準決勝から決勝前日までの各コンビへの1日当たりの平均言及数です.ここではリツイートは対象とせずオリジナルツイートのみを使っています.決勝進出したコンビについてはおおよそ一日300以上のツイートがあったようです.特に言及数が多かったのはランジャタイオズワルドです.意外なことに敗者復活のハライチもそれなりに言及されていたようです.

一方で,決勝前日までを見る限りでは,錦鯉はそこまで注目されていたとは言えなそうです.

決勝放送中のツイート数

さて,続いて決勝当日について見てみましょう.まずは決勝のテレビ放送が始まってからの各コンビへの言及数を一分刻みで見たものです.

一分ごとの言及数(著者作成)
一分ごとの言及数(著者作成)

まずは,各コンビが漫才をしているタイミングでピークが来ていることが分かります.また,優勝が決まった瞬間に錦鯉が跳ね上がっていますね.それ以外には,ハライチの敗者復活が決まった瞬間はツイートが多かったようです.

では,それぞれのコンビについて番組中に言及された数を見てみましょう.もちろん,優勝が決まった後は錦鯉がツイートされまくったに決まっているので,優勝が決まる前の22時までのデータで見てみます.

番組中の言及数.優勝決定前(著者作成)
番組中の言及数.優勝決定前(著者作成)

この結果から,言及数が最も多かったのはオズワルド(142,868Tweet),次いで錦鯉(135,251Tweet),ハライチ(105,409Tweet)という順になりました.ツイッター上ではオズワルドの言及数の方が錦鯉より多かったようです.

決勝進出組,ハライチを除くとインディアンス,ランジャタイの言及数が多く,それ以降の組とは割と言及数に差があるようです.

決勝出場による言及数の変化

さて,M-1と言えば芸人さんにとっては顔を売る絶好のチャンスなわけで,優勝しなくても名前が売れるようになった芸人さんは過去にも大勢いるように思います.というわけで,M-1決勝前後でどのくらい一日当たりの言及数に差が出たのかを見てみましょう.

言及数/日の増加率(著者作成)
言及数/日の増加率(著者作成)

やはり錦鯉は一気にツイートされる回数が増え,なんと平均ツイート数が決勝前と比べて26倍になりました.やはり優勝はすごい.

一方2位になるとだいぶ増加率が減りますが,それでもインディアンスは10倍ハライチが8倍くらいになりました.もっともハライチは敗者復活組なので元々の言及数が少なかったという影響があるかもしれません.

また,決勝の間は結構言及が多かったランジャタイの伸び率はそこまで大きくない(4.7倍)のは,もともとツイッターでは結構話題になっていたからだろうと考えられます.

一方で,ゆにばーすは3.38倍と伸び悩んでいます.事前の言及数も決勝の間の言及数もあまり多くなかったので,ちょっと苦しい感じかなと思いますが,実際はどうなんでしょうね.

もちろん,決勝終了から3日分のデータしか使っていないため,これから先どうなるのかはわかりませんが,やはり優勝とそれ以外の差は歴然のようです.

ランジャタイの謎

さて,ここでちょっとランジャタイが気になってきました.もともとのツイート数が結構多めで決勝の間も割とツイートが多かったのですが,決勝後の伸び率があんまりよくない.そこで,いくつかのコンビとランジャタイで,一日に何パーセントくらいのツイートが「初めてランジャタイについて言及するアカウント」によってなされたのかを見てみましょう.この値が高ければ,常に新しい人が当該コンビについて言及していることになり,低ければ決まった人たちが言及している状態と言えます.

新規ツイートアカウント率の変化(著者作成)
新規ツイートアカウント率の変化(著者作成)

この結果を見ると,ランジャタイだけ新規アカウント率が他と比較して低いことが分かります.つまり,ランジャタイについて何度も言及しているアカウントが多いのではないかと推測されます.

そこで,決勝前のデータで各コンビについてツイートしたアカウントのうち「10回以上ツイートしたアカウント」の割合を見てみました.

10回以上ツイートしたアカウントの割合(著者作成)
10回以上ツイートしたアカウントの割合(著者作成)

この結果を見ても,ランジャタイだけ2.5%のアカウントが10回以上言及しており,他のコンビと比較してずば抜けて多いことが分かります.

ここから,ランジャタイについてはかなりコアなファンがついていて,ツイートの多くを担っていたということが分かりました.逆に考えれば,ランジャタイはコアなファンに支えられているということで,今後も安泰なのかもしれません.

おわりに

というわけで,色々な側面からM-1グランプリのツイートを分析してみました.やはりツイート数的には錦鯉が圧勝でしたが,視点を変えるとコンビごとの特徴が色々見えて興味深い.ランジャタイの謎が解けたのは良かったが,ゆにばーすがなぜこんなにツイッター上で言及されないのかも気になるところです.

それにしても「もも」みたいな一般名詞になるコンビ名があると分析が難しい!ニューヨークも決勝に残っていたら本当大変なことになっていた気がします.

来年は個性的な名前のコンビがたくさん出てきますように!

追記

ゆにばーすへの言及が少ない件について「川瀬名人のツイッターが怖いからではないか」という情報が寄せられました.う~ん,なるほど.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

鳥海不二夫の最近の記事