国民民主党の躍進は石丸伸二氏の支持層に支えられたのか?
10月27日に投開票が行われた結果,立憲民主党が躍進し与党が過半数割れするという結果になりました.その中で,自民党とも立憲民主党とも距離を保つことでキャスティング・ボートを握る存在になった,国民民主党が注目されているようです.
ところで,そんな国民民主の躍進の裏に,石丸伸二氏の支持層があるのではないかという話があります.例えば,選挙期間中には,メディア研究者の中村氏の以下のXへのポストが話題になりました.
また,11月3日には東洋経済に,大飛躍の国民民主「石丸伸二支持層」が支えた根拠という記事が掲載されました.この記事によれば,
とのことです.
その傾向は確かにありそうな気もする一方で,選挙終盤に石丸氏が国民民主党の応援に登場したことに関して党首の玉木氏が投稿した以下のポストに対しては,批判的な返信が多くついていました.
これをみると,石丸氏の支持層と国民民主党の支持層が一致していないようには見えます.
さて,どちらが正しいのでしょうか.というわけで,分析を行ってみました.
Xのデータ
分析には,
・都知事選が行われた時期(2024/07/01-2024/07/10)に「石丸」を含むX上のポストとリポストをベストエフォートで取得した574,189ポスト
・衆議院選挙が行われた時期(2024/10/15-2024/10/25)に「国民民主」を含むX上のポストとリポストをベストエフォートで取得した346,675ポスト
の2つを用いました.
これら2つのデータについて,リポストに基づくクラスタリングを行ってみました.まず石丸氏に関するポストのクラスタリング結果が以下の通り.
次に,国民民主に関するポストのクラスタリング結果が以下の通りです.
ここで,得られたクラスタはおおむね以下のようになりました.
・A1,A2:石丸氏に批判的なクラスタ(石丸批判:47,413アカウント,41,294アカウント)
・B:石丸氏を支持するクラスタ(石丸支持:9,369アカウント)
・C:国民民主党に批判的なクラスタ(国民民主批判:46,336アカウント)
・D:国民民主が含まれているが支持も批判もしていないクラスタ(国民民主中立:49,042アカウント)
・E:国民民主党を支持するクラスタ(国民民主支持:14,872アカウント)
なお,各クラスタに所属するアカウントは,各クラスタ内のポストをリポストし,かつ他のクラスタのポストをリポストしていないアカウントとしています.つまり,石丸氏に対して支持と批判と両方に関連するポストを拡散しているアカウントは,支持でも批判でもないというカウントをしています.
石丸氏クラスタと国民民主党クラスタとの関係
各データセットのクラスタに共通するアカウントをカウントし,その割合を調べてみました.
まず,国民民主を含むポストから作ったクラスタ(C~E)に,石丸氏支持または石丸氏批判クラスタ(A~B)にも所属するアカウントがどのくらいいたのかを見てみます.
このグラフでは,縦に国民民主党に関するクラスタをとって,横に石丸氏に関するクラスタがどのくらいの割合含まれていたのかを示しています.
これを見ると,国民民主に批判的(C)では石丸氏に批判的なクラスタのうちA1にいたアカウントが多く,中立(D),支持(E)のクラスタでも石丸氏へ批判的なクラスタのうちA2にいたアカウントが多いことが分かります.一方で,いずれのクラスタでも石丸氏支持クラスタ(B)に所属するアカウントは少なかったことが分かりました.ここから,国民民主を支持するアカウントの大半が石丸氏を支持していたアカウントというわけではないことが分かりました.むしろ,石丸氏を批判していたアカウントが多かったといえるでしょう.
ちなみに,石丸氏批判クラスタが二つに分かれており,それぞれが国民民主党に対する態度が異なるというのは興味深いですね.同じ批判派でもクラスタが分かれていたのには意味がありそうです.
次に,石丸氏に関するクラスタに所属していたアカウントが国民民主党関連クラスタにどの程度所属していたのかを見てみます.
横軸に石丸氏関連クラスタを取って,それぞれのクラスタにいたアカウントが国民民主に関するどのクラスタにどのくらいの割合で行ったのかを見ています.
これを見ると,石丸氏批判クラスタA1に所属していたアカウントの多くが国民民主党に対して批判的なクラスタCにいることが分かります.または同じく石丸氏にたいして批判的なクラスタA2の多くが国民民主党に中立的なクラスタに所属しています.そして,石丸氏支持クラスタBは国民民主党批判クラスタCと支持クラスタEに分かれたことが分かります.ただし,国民民主党支持クラスタ(E)の方が多そうなので,石丸氏を支持していたアカウント(クラスタB)は国民民主党支持クラスタ(クラスタE)に回ったとは言えそうです.ただし,その数は多くなく,石丸氏支持クラスタ(B) の3.3%にすぎません.むしろほとんどのアカウントは国民民主党関連の特定のクラスタには所属していなかったといえるでしょう.また,割合で行くと,石丸氏批判クラスタ(A2)の7.8%が国民民主支持クラスタに所属しているので,こちらの方が多いようです.これは,先の分析とも合致する結果です.
では,なぜ石丸氏支持層が国民民主党支持に回ったという言説が多くあったのでしょうか.ここで,石丸氏支持層や国民民主支持層のアカウント数に偏りがあることに注目しましょう.すなわち,そもそも石丸氏批判派の人数が多かったことを考えると,国民民主党支持クラスタの大半を占めているのも当たり前ということもできます.
そこで,石丸氏関連のどのクラスタのアカウントがどの程度「予想以上に」国民民主党のクラスタに所属しているのかを調べてみます.ここでは,それぞれのクラスタに所属するアカウントがお互いに独立だったと仮定した場合と,実際のアカウント数との違いを確認してみます.全くの予想通り(期待値通り)だった場合1になり,予想より少ないと1以下,予想より多いと1以上になるオッズ比を求めてみました.
得られた結果から,石丸氏支持クラスタのアカウントは予想よりも5倍ほど国民民主党支持クラスタにいたことが分かります.この動きを見ると,確かに石丸氏支持クラスタが国民民主党支持クラスタに移った割合は高かったといえるでしょう.ただ,国民民主党支持クラスタの中では一部に過ぎなかったということのようです.
まとめ
以上をまとめると,
・X上では国民民主党支持クラスタのアカウントには石丸氏支持クラスタよりも石丸氏批判クラスタに所属していたアカウントが多かった
・石丸氏支持クラスタと国民民主党支持クラスタに所属するアカウントは期待値の5倍程度いる.ただし,全体に占める割合は少ない
・国民民主党支持クラスタにおける石丸氏支持クラスタの影響は限定的だった
といったところでしょうか.
石丸氏の支持者が国民民主の支持に回ったのではないかというYouTube分析の結果とはやや異なるものとなりましたが,そもそもYouTubeとXとで利用者が異なることや,そもそものプラットフォームとしての性質の違いがあるのではないかと思います.東洋経済の記事ではそもそも石丸氏にポジティブな言及が多かった中で,ポジティブなユーザがどうなったのかを分析しているため,それが国民民主支持に流れ込んだという結果自体は本分析と同じ結果です.
一方Xでは批判的な言説も多く存在したため,石丸氏にネガティブなユーザの影響を合わせてみることでより解像度が上がったという点が異なる結論になった要因かなと思います.
もちろん,これはあくまでもX上とYouTube上での話ですので,実態としてどうだったのかについてはさらにデータを集めて分析する必要があるとは思いますが.
なお,以上の分析についてYouTubeの結果と異なるものとなったため「違う結果が出たYahooに書いてよいか」と聞いたところ,快くOkしてくれた東洋経済の記事の著者である福馬智生氏に感謝いたします.