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宮内庁広報室新設の動きと雅子さま誕生日「ご感想」の語られなかった裏事情

篠田博之月刊『創』編集長
雅子さま誕生日の「ご感想」の裏事情とは?(写真:ロイター/アフロ)

宮内庁が発表した来年春の広報室新設

 宮内庁は2022年12月23日、2023年4月に広報室を新設すると明らかにした。日経電子版によると「広報室は10人程度の態勢となる見通しで、室員には民間人材の活用も検討する。宮内庁ホームページ(HP)のリニューアルなどを担当する予定」という。

 10人程度の広報室というのはなかなかの規模だが、恐らくホームページなどのネット対応にそれなりの労力が必要と考えたのだろう。どの程度のものになるかはふたを開けてみないとわからない。もともと宮内庁のメディア対応は、長らく「菊のカーテン」と言われてきたように、情報をどれだけ閉ざすかに腐心してきたと言ってよい。

 宮内記者会に対しても様々な制約を設けてきたし、ましてや記者会に所属しない週刊誌などの雑誌メディアに対しては門戸を閉ざし続けてきた。私もかつて宮内庁に取材申し入れをした時に、「記者会加盟以外は受けられない」と露骨に拒否された。ただ2022年に取材申し入れをした時には、対面取材は難しいが、質問を送ってくれれば対応するという返事をもらった。実際、こちらが送った質問にはファックスで回答が送られてきた。

 いつまでもカーテンを閉ざしているだけではいけないという認識はどうやら持ち始めているようだ。これまでも宮内記者会との間には定例会見など一定の情報公開の仕組みはできているから、そこに新たに広報室を設置するというのは、ひとつはホームページなどのウェブ対策、そしてもうひとつは記者会加盟以外のメディアへの対応を考えようとし始めたことの現れだろう。

 というのも、宮内記者会に対してはある程度コントロールがきいているものの、そこで書けない情報が週刊誌にわたって、ある意味、週刊誌が書き放題という状況が続いてきた。それが、眞子さんバッシングなど多くの問題につながっていることが明らかだからだ。恐らく今後は、週刊誌など記者会非加盟のメディアに対しても、放置だけでない何らかの対応を考えていくのだろう。

 私は小室圭さんと眞子さんへのバッシングが始まって以降、この4~5年でヤフーニュースや東京新聞のコラムで皇室問題について相当量の記事を書いてきたが、その際のスタンスは基本的に、宮内庁の閉鎖体質を批判すると同時に、バッシング報道の異常さも批判してきた。記者クラブメディアが宮内庁発表しか記事にしないため皇室情報が週刊誌の独壇場となり、ウラのとれていない情報が断定的に書かれるという、市民社会にとっても皇室にとっても不幸な状態が続いてきた。

 週刊誌にとって皇室ネタは売れるので、大した情報がない週でもとにかく記事にしろということで、曖昧な情報をセンセーショナルな見出しで書き立てる状況が続いてきた。断定的な見出しを見て記事を読んでみると、どう見ても羊頭狗肉なものも多いし、見出しだけを見て記事を読まない人の場合は、その煽情的な見出しだけが記憶されていくことになる。

 そうした状況に対して宮内庁がようやく重い腰を上げて、メディア対応を強化しようと考えたのが今回の動きだろう。

眞子さんは“日本を捨てたプリンセス”なのか

 確かに毎週、週刊誌の記事を検証していて、これはいくら何でも…という事例にぶつかることは少なくない。

 最近で言えば、例えば『女性自身』2023年1月3・10日号の「眞子さん、ブラジルVIP新婚旅行『内親王気分をもう一度』」だ。この見出しも突き放した感じなのだが、驚いたのはその見出しの上にこういう文句がついていることだ。

「“日本を捨てたプリンセス”が総領事館や日系人の協力で」

 つまり「“日本を捨てたプリンセス”が~ブラジルVIP新婚旅行『内親王気分をもう一度』」という見出しなのだ。

『女性自身』2023年1月3・10日号(筆者撮影)
『女性自身』2023年1月3・10日号(筆者撮影)

 眞子さんは確かに皇籍離脱してアメリカへ渡ったのだが、それは国内でのバッシングから逃れるためで、全て本人が望んだわけではないだろう。それに対して“日本を捨てたプリンセス”という呼称をつけるというのは、眞子さんにとっても、皇室にとっても耐えられないものではないだろうか。

 ただ記事では、「“自由を求めて日本を捨てたプリンセス”とも言われている眞子さんが~」と書かれていて、それはネットなどでそう言われていることを指摘しただけ、という言い方だ。しかし、見出し周りに大きく書かれたその表現が、一部で言われているかもしれないその悪意に満ちた表現を増幅し、拡散していることは間違いないだろう。

 ちなみにこの記事は、ニューヨークの日系社会が眞子さんを支援しているという事情を指摘し、2023年初めに予定されていると言われる小室夫妻のブラジル訪問についても日系人が支援予定であることを書いたうえで、”日本を捨てたプリンセス”がどうなのかと疑問を投げかけたものだ。静岡福祉大学名誉教授の小田部雄次さんが「都合のよいときだけ元皇族の肩書を利用しているようにも感じられます」と最後にコメントし、それが記事全体のトーンになっているのだが、小田部さん自身が積極的にそう話したのか、記者がそういう流れでコメントを求めたことに応じたものなのか、よくわからない。

 さて皇室情報が週刊誌の独壇場になっていると前述したが、新聞・テレビが宮内庁発表を伝えるだけになっている現実がある以上、週刊誌が一定の機能を果たしていることは認めないわけにはいかない。つまり、皇室で何が起きているか踏み込んだ情報を得るには、週刊誌を読んでみるしかないというのが現実なのだ。宮内庁発表の裏にはどんな背景があってどんな意味があるのか、玉石混交で解説してくれるのが週刊誌の皇室報道なのだ。

雅子さま誕生日「ご感想」の裏事情

 最近で言えば、その実例が、雅子さまの誕生日の「ご感想」だ。

12月9日に誕生日を迎えた雅子さまが宮内庁を通じて発表した「ご感想」が、新聞・テレビで発表された時には、無難な内容だとしてあまり話題にならなかったのだが、そこで語られたことでなく「語られなかったこと」に着目して大きく報道したのが週刊誌だった。

 例えば『女性自身』12月27日号は「お誕生日のコメントには例年と比べて“劇的な変化”があった」と書いている。そしてこう続く。「20年来闘い続けてきたご病気についての記述がなかったのだ」。

 これまでは「快復に努めて」といった一節が必ず記されてきたのに、今回はなかったというのだ。この記事の見出しは「雅子さま『国民に恩返しを』涙の全快宣言」。つまり、快復云々の言葉が消えたことは「全快宣言」だというわけだ。

そしてもうひとつ、「ご感想」で言及がなかったとして話題になっているのが、愛子さまに関することだ。『週刊文春』12月22日号は「雅子さまが闘った『悲しみの時』」という記事を掲げ、見出しの脇に「誕生日文書で愛子さまへの言葉が消えた」とわざわざうたっている。

 記事では宮内庁担当記者がこうコメントしている。「これまで“愛子さまファースト”を貫かれてきた雅子さまですが、今年のご感想には愛子さまに関する言葉が一言もなかったのです」

 これは愛子さまが成年を迎え、3月の会見で、かつて雅子さまがかけた「生まれてきてくれてありがとう」という言葉に対して「生んでくれてありがとう」という”アンサー“を返したといった経緯があるからだろうと記事は書いている。

 つまり、適応障害と愛子さまというふたつのことに言及しなかったのは、雅子さまがそれらのことについて最も厳しかった状況を乗り越えつつあると認識していることの現れだというのだ。

 最初、週刊誌1誌がそう書いていたのを読んだ時には、なるほどそういう見方があるのかと思ったが、幾つかの週刊誌が同じ見方をしているのを見て、ああこれは情報源である皇室関係者がそういう見方をしているのだとわかった。翌週の『週刊新潮』12月29日号も「『主治医』と『侍従』が代弁 『雅子さま』の『ウィズ適応障害』宣言」と題して同趣旨の記事を掲げているから、これは単なる特定の雑誌の見方ではないのだろう(ついでながら従来、皇室問題に強いとされてきた同誌が今回の件では1週遅れた印象があるのが気になるが)。

 この雅子さまの「ご感想」問題など、週刊誌の記事を読んで、舞台裏の事情を知ったということだ。本当なら、宮内記者会所属の新聞・テレビがもう少し、そういう裏話ふうの情報を伝えてもよい気がする。前述したように、新聞・テレビがほとんど発表内容を伝えるだけという姿勢だからこそ、週刊誌が裏情報を伝えて盛り上がるというこの構造は、いびつとしか思えないのだ。

 宮内庁が来年春に想定しているという新たな広報体制とはどういうものなのか。果たしてそれは現状のいびつな皇室報道を改善することにつながるのかどうか。

しばらく注視する必要がありそうだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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