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カネも人も増やしたくない中教審特別部会の月45時間上限指針は痛々しいばかり

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 大きな問題になっている小中学校などの教員の長時間労働について、中央教育審議会(中教審)の特別部会は6日、公立校教員の残業時間についての指針案を了承した。残業時間を原則月45時間以内とするものだ。

 文部科学省(文科省)の「教員勤務実態調査」(2016年度)によれば、残業時間が月45時間を超える公立小学校教員の割合は81.8%、公立中学校教員では89.0%にものぼっている。中教審特別部会が了承した指針案が守られるようになれば、教員の働き方改革は大きく前進することは間違いない。

 問題は、これが実現可能なのかどうか、ということだ。上限を決めて、「これ以上、働くのはダメよ」というのは簡単である。それだけで仕事の量が減るならば、何の苦労もないだろう。上限を決めただけでは仕事が減らないことは、誰にでも理解できる。

 もちろん、そこは中教審特別部会も理解しているらしい。この日の同部会では、教員の仕事量を減らすための案を盛り込んだ答申素案も示されている。「こうすれば長時間労働を縮減できる」というもので、これがあってこそ月45時間の上限が守られるというものだ。

 その縮減策とは、1.登校時間の見直し2.学校徴収金管理などの事務負担軽減3.休み時間や校内清掃への地域人材参画4.成績処理などに校務支援システム活用5.部活動への外部指導員の活用6.サポートスタッフ配置や留守番電話設置、などである。これらを見ての感想は、「痛々しい」の一言に尽きる。

 3と5は「外部人材の活用」なのだろうが、いわゆるボランティアに期待しているにすぎない。外部人材の「善意」にすがって、安上がりに仕事を肩代わりしてもらおう、という案でしかない。それで人が集まるのか?質の確保はできるのか?さらには、そうしたボランティアの管理を誰がやるのか?結局は教員の新たな仕事が増えるだけではないのか?

 1の登校時間の見直しも、「早く学校に来るな」と言っているに過ぎない。用もないのに早く登校する教員はいない。早く登校しなければ片付かない仕事を、いったい誰がやるのだろうか?

 つまり、縮減策といいながら、どこにも有効策はない。机上の空論でしかない。それを中教審特別部会も承知しているからなのか、月45時間の上限は決めても、それが守られなかった場合の「罰則はなし」としている。縮減策は机上の空論でしかないのだから、罰則を設ければ、処分者が続出する。そんな事態を避けたかったからにちがいない。

 月45時間以内という上限を決め、長時間勤務の縮減策を示してみても、そこに透けて見えるのは、「カネも人も増やしたくない」という本音である。それでいて、教員の長時間労働是正に取り組んでいる体裁だけを取り繕っているにすぎない。

 上限を押しつけられて、短時間で仕事を終わらせるプレッシャーばかりが強まり、教員の仕事は減らないうえにストレスを増大させることになるだろう。学校そのものがストレスの塊になる。そんな学校で子どもの教育ができるのか。ますます心配になってくる。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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