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日本はすでに「中年独身大国」であり、100年前の大正時代より母親の数が減った

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

独身人口5000万人

メディアは出生数や出生率の話ばかりで「少子化が…」「人口減少が…」と危機感を煽っているが、そんなことは「何十年も前から分かりきっていた当然の話」に過ぎず、今更騒いだところでどうにかなるものではない。

それよりもすでに、独身者がマジョリティになりつつある事実や、やがて「人口の半分が独身者になる」という決して外れない未来予測については、メディアはあまり報道しない。

この連載上では何度も同じ話をしていて昔からの読者には「耳にタコ」の話で恐縮だが、2020年国勢調査での日本の15歳以上における独身人口は約4930万人となり、ほぼ5000万人である。これは、日本史上はじまって以来、独身がもっとも増えた最高記録を打ち立てたことになる。そちらついては、過去記事でも詳しく書いている。

独身者5000万人。建国以来、史上最大の独身人口となった「ソロの国・ニッポン」

未婚化が始まったのはいつ?

事実を正確に認識している人はいいのだが、急にこの話を聞いた人は「最近の少子化のせいだ」と思ってしまいがちだが、こんなことは一朝一夕に起きる現象ではない。

生涯未婚率があがったのは1990年代以降のことで、それは事実だが、だからといって1990年以降に独身者が増え始めたわけではない。

1990年以降に生涯未婚率が増えたからといって、未婚化原因をすべてバブル崩壊の経済的要因と断じるメディアもあるが、そんな単純な話ではないし、それは因果の時間性を無視した話である。

そもそも、生涯未婚率とは50歳時の未婚率であって、1990年に50歳だった人の未婚率があがり始めたということは、その対象者が結婚最頻年齢値である20代半ばから後半だった年は、1970年代にあたる。まさに、第二次ベビーブームの真っ最中に、今の未婚化の芽が作られていたのである。

その後の1980年代は、恋愛至上主義とも言われだが、1985年当時に25歳だった独身男性が2010年に史上はじめて生涯未婚率20%を突破した層(今の丁度還暦世代)である。その後の世代も順調に未婚率を伸ばしている。

増えているのは中年独身

「独身人口が増えている」というと勘違いしやすいのだが、若い独身男女の人口が増えているのではない。もはや、若い独身者より中年独身の方が人口で上回っている。独身大国というが、すでに「中年独身大国」となっているわけで、決して「最近の若いのは結婚もしないのか」という話ではないのである。

写真:イメージマート

かつて若者だった人たちが結婚しなかった(できなかった)がゆえの現状の「中年独身大国」化なのであり、これはやがて、間違いなく「老人独身大国」へと移行する。

日本の独身人口の長期推移を見ればそれは明らかである。

20-34歳のいわゆる「若者」の独身人口がもっとも多かったのは、1990~2005年あたりの範囲で、2010年ごろには、若者より中年独身の方が多くなった。すでに、2020年には若者独身人口と、65歳以上の高齢独身人口がほぼ同じになっている。

2030年頃には、中年独身人口を老人独身人口が追い抜くだろう。これの大部分を占めるのは、かつて既婚者であった夫と死別した高齢女性の人口増加による。

そして、その間も、若者独身人口はどんどん減り続ける。出生数が減り続けているのだから当然である。今更出生数云々いったところで遅い。人口の構造変化には何十年もかかるのだ。

グラフでわかる通り、若者の独身人口がマックスだったのは、20年前の2000年頃である。その頃に何があったかといえば、就職氷河期である。結婚どころか仕事を見つけるのも大変だった時期で、そうした雇用環境の影響が大きかった点は否めないが、それだけではない。

45年前から始まっていた少母化

「たられば」で2000年当時に何かやっていたら、今の未婚化や少子化は起きなかったか?と言えばそれも違う。この時点でも厚労省の官僚は、現在に至る約25年間の出生数をほとんど誤差なくピタリと予測している。

出生数の激減はすでに25年前に誤差なくピッタリ予測されていたという事実

なぜ1997年の時点で、出生数が減り続ける推計ができたかといえば、もうその頃には「少母化」の傾向が顕著にあらわれていたからだ。

前掲のグラフに、20-39歳有配偶女性人口の推移を付加してものを見ていただきたい。

合計特殊出生率は15-49歳の全女性が対象であるが、実際に出産をしているのはその9割が20~39歳の有配偶女性である。その母親となるべき人口が減り始めたのは、1975年以降の第二次ベビーブーム直後からであることがわかる。

日本でもっとも婚姻が多かった1970年代前半の直後から、若者が結婚しなくなり始めていた。1990年代後半から2000年代前半にかけては、理論上第二次ベビーブームで生まれた子どもたちが結婚・出産をする第三次ベビーブームが起きるはずだった。しかし、それは到来せず、独身人口だけが大きく膨らむ山となった。この山が20年を経て、今「中年独身人口」増となっている。

改善するには50年以上かかる

私は常々「少子化ではなく少母化だ」と言っている。一人当たりの母親が産む子どもの数はたいして減ってはいないのに、出生数だけが激減しているのは、そもそも産む母体の数が減っているからである。そして、この「少母化」の潜在的起点は、1975年にある。つまりは、今から45年前から現在の状況が始まっていたのだ。一人以上の子どもを産んだ母親の数でいえば、2020年は100年前の1920年(大正時代)よりも少ない。

提供:イメージマート

約50年もかけて今の状況が生まれているわけで、これを是正するには少なくとも同じくらいの50年以上を要するだろう。何か予算をつけたくらいで変わるような簡単なものではない。子育て支援を充実させて、今の既婚女性が全員3人産めば少子化は解決できるなどという論法がいかに間違っているかがわかると思う。

「2人産んだ母親がもう一人子どもを産めば少子化は解決」などという説の嘘

同時に、皆婚を実現させていた結婚のお膳立てシステムの崩壊の影響も大きい。1975年以降、20-39歳の有配偶女性人口の減少の推移と、お見合いと職場結婚の減少の推移とは完璧に一致している。

ちなみに、若者の恋愛率がもっとも高かったのは2000-2005年時期で、若い独身人口がもっとも多かった頃、若者は恋愛を謳歌していた。しかし、もっとも恋愛率が高かった世代が、もっとも未婚率が高い結果になるとはなんという皮肉だろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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