お番犬様がみかじめ料の値上げを迫ってくる前に考える
フーテン老人世直し録(427)
弥生某日
トランプ大統領はメキシコとの国境に壁を作るという選挙公約を巡り、57億ドル(約6300億円)の予算を要求したが、下院で過半数を占める民主党の抵抗で今年度は14億ドル(約1550億円)に抑えられた。
すると10日に複数の米国メディアが、トランプ大統領は来年度の予算教書に86億ドル(約9500億円)を壁の建設費として盛り込む方針であると報じた。トランプという人は選挙で公約したことを必ず実行しようとする人のようだ。
壁の建設は日本に直接関係はないが、選挙中にトランプは「日本は在日米軍駐留経費を全額負担せよ」と繰り返し叫んでいた。その米軍駐留経費を巡り、8日の米ブルームバーグ通信は、日米安保体制を揺るがすようなトランプの考えを伝えた。
そもそも米軍駐留経費を全額負担するとなれば米軍は日本に雇われた「傭兵」ということになる。それを本気でやるのか疑問に思っていたが、ブルームバーグ通信の報道はそれを上回るものだった。
日本やドイツなど同盟国に対し、トランプ政権は駐留経費総額の1.5倍の支払いを要求することを検討しているというのである。全額負担でも不足で、さらに5割を上乗せするという理由だが、上乗せ分は米軍が駐留することで得られる抑止力の対価だという。
さらに報道では駐留米兵の給与や空母、潜水艦が寄港する経費の負担も新たに関係国に要求するとしている。米兵の給与を全額日本政府が支払えば、在日米軍は「傭兵」以外の何者でもない。しかしトランプの考えはそういうことではない。
雇い主である日本政府が思い通りにできない仕掛けを作るようなのだ。それは割引制度を設け、米国の政策に協力する国には経費を割り引く。つまり米国に従順になれば割り引くという。そのうえで駐留経費の全額プラスアルファを同盟国に支払わせるのである。
昔、岸信介や椎名悦三郎は駐留米軍を「お番犬様」と呼び、飼い主は日本、米軍は日本を守る番犬だと言った。そして番犬にはエサを与える必要があり、そのエサが米軍基地だと言った。ブルームバーグの報道によれば、番犬が「みかじめ料」の値上げを一方的に決めようとする話である。
米国防総省が2004年に発表した「共同防衛に関する同盟国の貢献度報告」によれば、米国の同盟国27か国が02年に負担した総額は83億9700万ドル(約1兆2400万円)である。
そのうち日本が支出した金額は44億1134万ドル(約5382億円)で全体の53%を占め、ダントツのトップである。続くドイツは15億6400万ドル(約1900億円)で日本のおよそ3分の1、第3位の韓国は8億3400万ドル(約1017億円)で日本のおよそ5分の1となる。
駐留経費の米国との負担割合を見ると各国は50%程度、つまり半々なのに、日本だけは75%と負担率が高い。日本は米国にとってカネの吸い上げに協力するナンバーワンなのだ。なぜなら軍隊を持たずに平和憲法を持っている唯一の国だからである。
東京新聞の半田滋記者の試算によれば、平成27年度の在日米軍経費は総額7612億円だという。それが75%の負担割合だとすると、全額負担の場合は1兆217億円となり、さらに5割増しになれば1兆5325億円になる。従ってトランプ政権の方針が実現すれれば、在日米軍が駐留するための日本の負担はおよそ現状の2倍になる。
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