金丸信にますます似てきた二階幹事長の政治手法
フーテン老人世直し録(428)
弥生某日
二階俊博自民党幹事長の動きが不気味である。3月4日に突然小池東京都知事の再選に協力すると発言して自民党に冷水を浴びせ、続いて12日には安倍総理の4選もありうると発言し自民党内に波紋を広げた。
いずれもあまりにも早いタイミングの発言で、二階氏の真意がどこにあるかを巡り様々な憶測を呼んでいる。文字通り小池支援の発言と捉えて反発する者もいれば、自民党に「早く強力な候補者を見つけろ」と発破をかけた発言と捉える者もいる。
安倍総理4選を巡っても、早くから安倍総理支援を表明し見返りに幹事長ポストを手放さない意思の表明と見る向きもあれば、「安倍一強」の影に隠れ存在感の希薄な総裁候補者に奮起を促す狙いがあると見る人もいる。
あるいは4選されれば2024年9月までの超長期政権になることから、「いくらなんでも長すぎる」と国民に思わせ、むしろ国民の「安倍離れ」を狙ったと見ることもできる。いずれにしろ二階氏がいかようにも解釈できる発言を繰り返すのは政局の主導権を握ろうとするためである。
フーテンには、かつて田中角栄と中曽根康弘という稀代の権力者を相手に五分の戦いを仕掛け、名勝負を演じてきた金丸信の記憶が蘇る。金丸も最後まで真意を見せずに政局を引っ張り、最後に政治の主導権を握ることがあった。
2016年8月、二階氏が総務会長から幹事長に就任した時、山梨にある金丸の墓参りをしたことが報道された。金丸も総務会長から幹事長に上り詰めたが、おそらく二階氏は金丸と自分とを重ね合わせ、金丸を政治の師としてその政治手法を継承していくつもりだとその時フーテンは思った。
国民は金丸が東京地検特捜部に脱税容疑で逮捕され、自宅の床下から金の延べ棒が見つかったと報道されたことから、金権腐敗の象徴として悪のイメージでしか金丸を捉えていないと思う。
しかしロッキード事件で逮捕された田中角栄が、無実を証明するため数の力で日本政治を裏から牛耳り、田中の意向でしか日本の政治が動かなくなった状況に風穴を開けたのは金丸である。
大の中曽根嫌いを公言しながら、田中の意中が中曽根総理続投にあると知るや、中曽根続投に協力して幹事長ポストを握り、竹下登の背中を押して田中派を分裂させた。派閥分裂の衝撃で田中が病に倒れると、返す刀で田中なき後の権力を巡り中曽根総理と対峙した。
中曽根が仕掛けた衆参ダブル選挙の大勝で中曽根3選が確実な情勢になると、幹事長ポストを投げ打って3選を阻止し、竹下に幹事長ポストを譲って日本政治に世代交代をもたらした。
池田勇人の首席総理秘書官を務め、大平正芳のご意見番となった伊藤昌哉氏からフーテンは、「人間には年と共に能力が落ちる者と上向く者がいる。宮澤喜一は若い時は切れたが年と共につまらぬ政治家になった。その逆が金丸だ。60歳を過ぎてからの金丸の政治勘は凄い。政治記者なら金丸のキンタマを握れ」と言われたことがある。
その金丸には政治の重大局面で、どちらの意味にもとれる発言で周囲を煙に巻き、最後は金丸の思う方向に政治を引き寄せる能力があった。最近の二階発言はその頃の金丸を彷彿とさせる。フーテンが見た金丸の例を紹介する。
金丸は「郵政族のドン」と呼ばれ、旧郵政省が最も頼りにする政治家だった。当時は300万円までの預貯金の利子を非課税にするマル優制度があり、それを悪用して脱税をする者がいた。そこで税逃れを防止するため「グリーンカード」を発行し、預貯金を透明にする仕組みが考えられた。旧郵政省や金融機関は「グリーンカード」に反対だった。
「グリーンカード」が実現する直前、突然金丸が「マル優制度反対」をぶち上げた。驚いたのは旧郵政幹部である。すぐ幹事長室に押しかけ発言を撤回するよう金丸に迫った。すると金丸は「俺の発言でグリーンカード反対運動に火が付くんじゃないか」と平然としていた。マル優を守ると思われる金丸が逆のことを言ったことで、そのまた逆の結果になるというのである。
キツネにつままれたような顔をして旧郵政幹部は引き下がったが、それを目の前で見ていたフーテンはこれが官僚と政治家の違いだと思った。反対運動が高まれば撤回されるが、高まらなければ実現する。金丸は一石を投じただけに過ぎない。しかしそうやって主導権を自分の物にしていくのである。
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