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苦戦するチャンピオンチームで気を吐く名手/リーグワンD1第3節ベスト15【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
開幕前に会見したウィリアムズ(筆者撮影)

 ディフェンディングチャンピオンはどうしたのか。国内ラグビー最高峰のリーグワン1部にあって、前年度王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイが今季開幕からの3戦で黒星先行。23日の第3節では、近年中位の静岡ブルーレヴズに19―23と敗れた(大阪・ヨドコウ桜スタジアム)。

 この日のスピアーズ側は、新加入でニュージーランド代表90キャップのデイン・コールズ、ウェールズ代表95キャップのリアム・ウィリアムズを初先発させていた。関係者の間では第4節でのデビューが濃厚も、前倒しした格好か。

 フラン・ルディケ。日本代表新ヘッドコーチ選考に関する面接を今季の開幕直前に設定されていたスピアーズの指揮官は、こう説いている。

「やってくれると想定して、エキサイティングなセレクションをしました。彼らが日本を経験できたのは、大きなことです」

 もっとも、元日本代表のスクラム担当コーチで現ブルーレヴズの長谷川慎アシスタントコーチは、自分たちの試合にコールズが出てくると見越して準備をしていた。本番2日前に証言した。

 スクラム最前列中央にコールズが入るのを前提にして、組む前の相手との距離感などを微調整したのだろう。この日のブルーレヴズはコールズらのパックを窮屈にさせ、よく押し込んでいた。

 ブルーレヴズは攻めても研究の成果を発揮。前に出る守備網の裏へキックを通し、その流れで反則を引き出した。スピアーズのファイターが接点で球に絡もうとした際によく笛を吹かれた。

「P」の数はブルーレヴズの「2」に対してスピアーズは「19」。敗れた田邉淳アシスタントコーチはこうだ。

「我々はレフリーに対し、調整をしなかったのが敗因になりました。自滅と言えば、自滅です」

 勝った側は今回初白星も、かねて台風の目になりそうだった。

 元日本代表ナショナルチームディレクターの藤井雄一郎新ヘッドコーチのもと、狭い区画でも果敢に球を繋ごうとするマインドセットを涵養していた。

 伝統の強力スクラムは、複数の目でチェック。おもに担当する田村義和アシスタントコーチを、長谷川が側面支援する。流行りの大物獲得とは異なる観点で、チームの底力を蓄えている。

 上位4強のプレーオフ争いはし烈だ。

 新年一発目の第4節は1月6日から各地でおこなわれる。

 スピアーズは7日、東芝ブレイブルーパス東京と対戦。近年4、5位のブレイブルーパスは、突出したキャラクターにデザインされた攻めをインストールしている。スピアーズにとっては、自軍の強みで向こうの強みを最小化させたいところか。具体的には、防御システムの微修正と適切なエリア管理で相手に攻めづらくさせられれば勝機を掴めるか。

 最後尾のフルバックでは、ウィリアムズが2戦連続で先発。ブルーレヴズ戦では防御ラインが前進していたのもあってスペースに蹴り込まれるシーンが多かったものの、攻守逆転された直後のキックを素早くカバーしたシーンもあった。

「試合の流れ上、キックが多くなっていたので予測したのです」

 蹴り合いのさなかに、相手の捕りにくい球筋を放つのも心憎い。

「相手の状況を見て、キックスペースがあればそこを狙う。10番(スタンドオフ)との連携のもと、(蹴りどころの指示について)いいコールがあれば、どんどん蹴っていきます」

 これに対し、ブレイブルーパスのウイングを担う濱田将暉は、「エリア獲りの攻防は激しくなる。その部分は、練習してきました。(ポジション上)外側から大きな視野で(全体を)見られるので、(蹴る位置、蹴られそうな位置について)コミュニケーションを取っていけたら」と決意を述べていた。ラグビーでは、誰もボールを持っていないシーンにも味わいがある。

リーグワン ディビジョン1 第3節 結果

埼玉パナソニックワイルドナイツ 44―17 リコーブラックラムズ東京

横浜キヤノンイーグルス 66―26 花園近鉄ライナーズ

トヨタヴェルブリッツ 54―40 三菱重工相模原ダイナボアーズ

三重ホンダヒート 16―34 東京サントリーサンゴリアス

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 19―23 静岡ブルーレヴズ

コベルコ神戸スティーラーズ 36―46 東芝ブレイブルーパス東京

(表記はホスト、ビジターの順)

リーグワン ディビジョン1 第3節 私的ベストフィフティーン

1,稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…余裕を持ったポジショニングから鋭いタックル。突進、流れのなかで防御を引き寄せてのパスも光った。

2,日野剛志(静岡ブルーレヴズ)…スクラムで優勢に立った。序盤、対面でニュージーランド代表のデイン・コールズにロータックル。ミスを誘った。

3,ヴァルアサエリ愛(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…自陣深い位置でハードタックルを放つなど防御を引き締めた。

4,ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)…アーディ・サヴェアからボールを奪ったり、終盤に自陣ゴール前でトライセーブを決めたり。終盤にもジャッカルを披露。コンビを組んだジェイコブ・ピアスも接点で奮闘した。

5,マリー・ダグラス(静岡ブルーレヴズ)…大戸裕矢とともにスクラムを支え、地上戦で献身。

6,シャノン・フリゼル(東芝ブレイブルーパス東京)…エッジを切り裂くラン。4トライ奪取。ブレイクダウンワーク。

7,山本凱(東京サントリーサンゴリアス)…走者を圧倒する鋭いタックル。

8,クワッガ・スミス(静岡ブルーレヴズ)…ラストワンプレーでの逆転を引き出すジャッカルをはじめ、効果的なターンオーバーを複数。

9,齋藤直人(東京サントリーサンゴリアス)…テンポ、スペースへのキック。

10,ボーデン・バレット(トヨタヴェルブリッツ)…14点リードで迎えた前半30分頃、自陣深い位置から計2本のキックで敵陣ゴール前まで侵入。直後に好位置からラインアウトを得るや、右から左奥へ弾道を通して追加点をおぜん立て。

11,リアム・ウィリアムズ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)…国内デビュー戦を落とすも多彩なキック、自ら蹴ったハイボールの捕球、バックフィールドでの迅速なカバーで気を吐いた。

12,ヴィリアミ・タヒトゥア(静岡ブルーレヴズ)…突進で反則を引き出したり、ゲインラインを切り裂いたり。スペースを射抜くキックも。

13,ダミアン・デアレンデ(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…キャリー、ターンオーバー。

14,ジェシー・クリエル(横浜キヤノンイーグルス)…わずかなスペースも速さと強さで切り裂く。

15,小倉順平(横浜キヤノンイーグルス)…相手のお見合いや背走を誘うキックでチャンスをおぜん立て。最後列からせり上がっての防御でターンオーバーを引き出すことも。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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