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米国版亀田3兄弟が台頭中! 父はカリスマ世界王者フェルナンド・バルガス

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
左からバルガスJr.、バルガス父、右端がアマド(MarvNation P)

三男坊エミリアノ

 “エル・レジェンド・コンティヌア”(伝説は継続する)。このスペイン語のフレーズは文字どおりメキシコのレジェンド、3階級制覇王者フリオ・セサール・チャベスの長男フリオ・セサール・チャベス・ジュニア(元WBC世界ミドル級王者)が王座に君臨した当時、メディアが好んで使った語句だった。二世ボクサー、チャベス・ジュニアは残念ながら度重なるウエートオーバーや私生活の乱れで失墜してしまったが、今また同じキャッチフレーズで父が到達した領域を目指そうとしている若者がいる。

 元IBF・WBA世界スーパーウェルター級王者フェルナンド“エル・フェロス”(英語ではフェローシャス=どう猛な)バルガスを父に持つエミリアノ・バルガス(米)だ。プロキャリアがまだ2勝2KO無敗、弱冠18歳のエミリアノを今ピックアップするのは時期尚早かもしれない。だが彼はアマチュアでナショナルゴールデングローブをはじめ、全米レベルの大会で7冠に輝いた俊英。何より一度そのファイトぶりとチャーミングなルックスを目にすれば、ファンは虜になってしまうだろう。アマチュア戦績は110勝10敗。プロではライト級でリングに上がる。

 昨年5月、初回KO勝ちでプロデビューしたエミリアノは10月に大手プロモーションのトップランクとサイン。11月ラスベガスで行った2戦目はフリオ・マルティネス(米)に2回、鮮やかな左フックを見舞ってKO勝ち。当日のメインで行われたWBO世界ミドル級タイトルマッチに匹敵するインパクトを与えた。同時にヘビー級3団体統一王者オレクサンドル・ウシク、3階級制覇王者でライト級でタイトル奪回を目指すワシル・ロマチェンコ(ともにウクライナ)らビッグネームを擁するエギス・クリマス・マネジャーと契約。万全のサポート体制で頂点を目指す。

アウトロー・ヒーロー

 現在45歳になる父バルガス氏を現役時代に取材した。デビュー後15勝全KO勝ちでIBF王者に就き、2度の防衛戦もストップ勝ち。18戦目で初めてフルラウンド戦った相手が2階級王者ウィンキー・ライト(米)。次戦も判定勝ちだったが、これも相手は超がつく強豪アイク・クォーティ(ガーナ)。筆者がバルガス氏に会ったのは続く5度目の防衛戦となるロス・トンプソン(米)に備えてキャンプ中の時だった。

 専門誌に書いたレポートを見返すと筆者はバルガス氏を「笑顔を見せない突っ張り小僧」と記している。イメージしていた通りのキャラクター。「トンプソンのことを研究しているか?」と質問すると「そんなことはヤツがすることで、なんで俺がしなきゃいけないんだ!」と吠えた。そして「アウトローのヒーローと言われているが……」と聞くと「俺が悪人で性格が悪いって?知ったことじゃないよ」と一蹴されてしまった。

 その後WBA王者でレジェンドの一人フェリックス・トリニダード(プエルトリコ)とダウン応酬の激闘を繰り広げ、最終12回KO負けで無冠。マッチメイクに恵まれてWBA王者に就いたが、宿敵オスカー・デラホーヤ(米)にこれも統一戦で11回TKO負けで2度目の黒星。最後は3階級制覇王者シェーン・モズリー(米)に2度、暴れん坊リカルド・マヨルガ(ニカラグア)にも敗れ3連敗でグローブを脱いだ。トータル戦績は26勝22KO5敗。高いKO率と4つのKO負けが激闘マンだったことを克明に物語る。

引退後は良き家庭人に

 キャラクターとは反対にアトランタ五輪米国代表選手だったバルガス氏は洗練されたテクニックに定評があった。それでも自身で「俺はメキシカンだ」と公言してはばからないようにファイティングスピリットあふれる打撃戦に身を投じるシーンが目立った。そしてデラホーヤやトリニダードといったベビーフェース系選手に敢然と立ち向かう姿勢が感動を呼び、多くのファンを惹きつけた。

 同時に現役時代から引退後の人生設計を怠らなかった。ラスベガスに家を購入したのがその表れ。1歳年下の妻と仲睦まじい様子が伝えられた。いつの間にか家族思いの良きパパに変身したバルガス氏がテレビの料理番組に出演した時はさすがに驚いてしまった。

エミリアノ(左)をコーチするバルガス父(写真:BoxingScene.com)
エミリアノ(左)をコーチするバルガス父(写真:BoxingScene.com)

長男バルガス・ジュニア&次男アマド

 さて、エミリアノはバルガス夫妻の三男で長男フェルナンド・バルガス・ジュニア(米)、次男アマド・フェルナンド・バルガス(米)もプロボクサー。父と同じスーパーウェルター級のバルガス・ジュニア(26歳)は7勝7KO無敗。フェザー級のアマド(22歳)は5勝2KO無敗。2人は先日、昨年船出したマーヴ・ネーション・プロモーションズと契約を交わし、キャリア進行に追い風が吹いている。3人のトレーナーは父バルガス氏が務める。

 ファミリービジネス、ボクサー3兄弟。これは日本の興毅、大毅、和毅の亀田3兄弟を想起させる。とはいえ二組の3兄弟は背景が異なる。亀田兄弟はすでに上の2人が引退、ウエートクラスもそれぞれ違う。それでも長男の興毅氏とバルガス・ジュニアは、そのしっかり目のキャラクターが似ている気がする。兄弟の牽引者、リーダーというところか。

 また次男のアマドは一番騒々しく、ラテン系の陽気さを前面に押し出す男。ムードメーカーと言ったらいいだろうか。これは大毅氏の性格に共通するものが感じられる。そして3人の中でもっとも実力評価が高く、期待が大きいのがエミリアノ。これまで2階級を制し、3度目の世界王座獲得を狙う和毅と通じるのではないだろうか。

 ちなみにバルガス兄弟には年少の妹がおり、これも亀田家と共通している。亀田家の棟梁、史郎氏と父バルガスを比較することはできないが、トレーナーとして3兄弟を導いたところは類似していると思う。

和毅はメキシカンと世界前哨戦

 それぞれのスケジュールだが、まずエミリアノが2月3日、米アリゾナ州グレンデールで行われるエマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)vsリアム・ウィルソン(豪州)のWBO世界スーパーフェザー級王座決定戦の前座でプロ3戦目を予定している。一方バルガス・ジュニアとアマドは2月11日、ロサンゼルス郊外のポモナでマーヴ・ネーションが開催するイベントでリングに登場する。昨年11月、同プロモーションの興行第1弾(メインはレジス・プログレイスvsホセ・セペダのWBC世界スーパーライト級王座決定戦)に出場した2人。メインに出場した両者に破格のファイトマネーを支払った同社だけにバルガス・ジュニア、アマドとも一段と張り切っている。

 そして2月25日、亀田和毅(TMK)が大阪市住之江区のATCホールで世界前哨戦と銘打ってリングに立つ。WBAスーパーバンタム級2位を占める和毅(31歳)は同級13位ルイス・ヘラルド・カスティージョ(メキシコ)と56キログラム契約の10回戦(8回戦という報道もあり)を行う。

 今回、スパーリングパートナーとして招へいしたのがWBC・WBOバンタム級1位ジェイソン・マロニー(豪州)。2020年10月ラスベガスで当時バンタム級2団体統一王者だった井上尚弥(大橋)に挑んで7回KO負けした選手だが、復帰すると再びトップランカーに上り詰め、井上が返上したベルトに狙いを定めている。豪華なスパーリング相手と切磋琢磨する和毅は今後にかける意気込みが伝わってくる。

 以前ユーチューブで存在をアピールしたバルガス3兄弟。「俺たちはチャーロ兄弟(スーパーウェルター級4団体統一王者ジャメールとWBCミドル級王者ジャモール)、クリチコ兄弟(元ヘビー級王者のビタリとウラジミール)の上を行く。なぜなら3人だから。ボクシング界で有名な3兄弟は他にいるか?」と自問自答していた。軽量級で3人が世界チャンピオンに就いた亀田3兄弟は彼らの大きな目標になる。カリスマの父に指導される出世争いが楽しみだ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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