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人が逃げ遅れる時、パニックになる時:避難勧告とは?避難指示とは?:熊本地震と水害・土砂災害

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:避難警報用のスピーカー)(写真:アフロ)

■熊本県各地に避難準備情報、避難勧告

4月16日午後6時現在、熊本・八代市、崖の周辺など1万900世帯余に避難勧告が出ています。阿蘇市の一部には、土砂災害の恐れによる避難指示や避難勧告が出ています。

ツイッターで、「避難勧告」がトレンドに入っています。ツイート内容を見ると、自分の町に避難勧告が出たと述べた後で、様々なことがつぶやかれています。

「友達や家族と一緒に避難した。少し安心した」

「避難勧告とか知らないし、死にたくない」

「ついに避難勧告出た。ほんとにこわい」

「避難勧告出たので避難所に直行」

「避難勧告が出たので逃げます」

「避難勧告出たけど、年寄りがいるので自宅待機」

「聴きなれない警報が鳴ったと思ったら、避難勧告だった」

「避難勧告された。でもどこへ行けばいいか、誰か教えて」

「避難勧告出ちゃった。でも避難所いっぱいなんだって」

「避難勧告。もう既に暗いけど真っ暗になる前に移動しないと」

「避難勧告が出ています。食料もなく電気も通っておらず、テレビも見れないため頼れるのはラジオとSNSのみです」

いつもなら、しばしば無視される「避難勧告」ですが、今回は怖がっている人々がたくさんいるようです。でも、避難勧告ってよくわからないという人もいます。

■避難準備情報とは

避難準備情報とは、この後避難勧告や避難指示が出るかもしれないから、準備しましょうという意味です。赤ん坊、高齢者、障害者など、「災害弱者」の人たちは、この段階で避難することが勧められます。

■避難勧告とは

避難勧告とは、避難の勧めです。ただ、一般的な「おすすめ」とは意味が違います。聞き流せば良いものではありません。ただ、かなり広い地域に避難勧告が出されるので、どのような行動をとるのが良いかは、その時々に判断することが必要です。最も良いのは、雨が激しくなる前に、暗くなる前に、水害や土砂災害から安全な場所へ避難することでしょう。

どこが安全な場所なのかは、その方々が住んでいる場所や状況によって異なります。声を掛け合って、今どうすれば一番安全なのかを、考えなくてはなりません。

■避難指示とは

避難指示とは、避難勧告よりも緊急性のある場合で、「避難しなさい」ということです。ただし、日本には法律に基づく「避難命令」はありません。だからこそ、避難指示は強い意味を持つと言えるでしょう。ただ、どう避難したら良いかは、状況次第です。

避難指示は、各自が「自分の命を守る行動」をとりなさいという意味です。

■パニックとは

パニックと言われるものには、二つのものがあるでしょう。

一つは、心のパニックです。大慌てしてしまい、冷静さを失うことです。突然の出来事で冷静さを失うことは、無理はないと言えるでしょう。

でもそれで命を失ったり、怪我をしては困ります。

解決策の一つは、慌てている時でも適切な行動ができるような、事前の準備です。緊急持ち出しの避難袋を事前に用意し、目に見えるところに置いておくなどです。

あるいは、心の準備、心のリハーサルをしておくことです。地震が水害が起きた時、その瞬間、1分後、1時間後、1日後、自分はどう行動すべきか、シミュレーションしておくことです。

もう一つのパニックは、群衆の混乱状態です。逃げようとする大勢の人が、階段や救命ボートに押し寄せ、かえって被害者が出るような状況です。映画には、よく出てくるシーンです。

ただし、実際にはパニックは簡単には起きません。早い者勝ちで、一部の人しか助からないような、特殊な場面でしか起きません。人々はパニックを恐れますが、実は人はパニックよりも逃げ遅れによって犠牲になります。

特に水害は、逃げ遅れの出やすい災害です。

■逃げ遅れないために:みんなの命を守るために

水害、土砂災害は、わかりにく災害です。火山の爆発はすぐわかりますが、堤防決壊や土砂崩れの危険が目の前に迫っていても、なかなかわかりません。津波でさえわかりにくことを、私たちは東日本大震災から学びました。

最悪は、逃げ遅れたために、パニックに陥り、危険な行動を取ってしまうことです。

状況によっては、暴風雨の中で遠くの避難所に向かうよりは、2階に行ったり、近くの鉄筋の建物に行くことかもしれません。状況が悪くなる前に、適切な判断をすることが必要です。

ただ体力のある人は、無駄足になるかもしれないと思っても、元気に移動することもできるでしょう。しかし赤ん坊や高齢者の場合は、避難行動は大きな負担になることもあります。

だから早めの避難が求められます。そして油断して逃げないのは困りますが、総合的に考えた危険回避行動が求められます。

臆病なくらいの高齢者の気持ちが、みんなを救うかもしれません。体力と実行力のある若者の行動や言葉が、みんなを救うかもしれません。

災害心理学の研究によれば、自分の命だけではなく、人のことも考えることが、冷静さや迅速な避難行動につながり、結局自分の命を救ううことにもなると言われています。

みんなの力で災害を乗り越えて欲しいと、祈っています。

気象庁のホームページより
気象庁のホームページより

気象庁:土砂災害に関する防災気象情報の活用

避難せよ:避難勧告・避難指示・避難命令:私達の命を守るために

水害と逃げ遅れとパニックの災害心理学:命を守る行動を:正常性バイアスの心理

逃げ遅れの心理学

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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