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避難せよ:避難勧告・避難指示・避難命令:私達の命を守るために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

避難勧告と避難指示

今さら人に聞けませんが、「避難勧告」と「避難指示」って、どっちが強く「避難しなさい」っていっているの? と言う人、います。大丈夫、あなただけではありません。「勧告」なんて普段使わない言葉だし、「指示」だってそんなに強い言葉だとは感じないですし。いろいろある「避難を呼びかけるお知らせ」について解説します。

避難準備情報とは

避難勧告の前に、まず「避難準備情報」。これは、これから場合によっては避難勧告や避難指示が出ることになるかもしれないから、避難の準備をしましょう、と呼びかけるものです。

「情報」と言っても、「災害時要援護者」など一人では避難できない「災害弱者」の避難は始まります。

避難勧告とは

避難勧告とは、避難を勧め、促すものです。「勧告」とは「ある行動をとるように説きすすめること」。「こういう訳だから、こうしましょう」と勧め、助言し、アドバイスすることです。

勧告は、使われる文脈によっては、「肩たたき」「引導をわたす」といった強い意味でも使われます。たとえば、「辞職勧告」といった場合には、法的強制力はないものの、かなり強い力になるでしょう。

公務員の給与に関する「人事委員勧告(給与勧告)」は、法的拘束力はありませんから、そのまま通るわけではありませんが、人事院は完全実施するべきと考えています。

「勧告」は、お勧め、助言、アドバイスですが、聞き流せば良いものではありません。

避難指示とは

避難指示が出るときは、避難勧告の時より、緊急性が増しています。危険が迫っています。勧告より拘束力が強くなっています。強制まではしませんが、「避難しなさい」という指示です。

「指示」とは、国語辞典によれば、「指図すること」「命令」です。それぞれの人には様々な事情がありますから、避難指示には法的強制力はありませんが、個人としてはやはり「避難しなさい」と命令されていると考えるべきでしょう。

実際には、災害の種類、状況によっては、「遠くの避難所より近くの2階」ということもあるでしょうし、各自が「自分の命を守る行動」を取る必要があります。

自主避難とは

避難勧告や避難指示は出ていないものの、自分から進んで避難するのが「自主避難」です。高齢者、障害者など、事態が切迫してからでは避難が難しくなる「災害弱者」ほど、早めの自主避難を考える必要があるでしょう。

実際、早めに自主避難してくる方は、高齢者が多いようですね。とても賢明な行動だと思います。

避難命令とは

外国には「避難命令」のある国もありますが、日本には法律に基づく「避難命令」はありません。国家や行政が人を動かすことは、安易にするべき事ではありません。「避難勧告」も「避難指示」も、それぞれ法律に基づいて出されますが、日本には法的強制力のある「避難命令」はないわけです。

「警戒区域指定」「立ち入り禁止」「退去命令」

「避難命令」はありませんが、「警戒区域指定」され「立ち入り禁止」「退去命令」が出された場合には、従わないと罰則もあります。強制力があるわけですから、簡単には出ません。

「避難せよ」

法的に発令されるとなると、ややこしい問題がありますが、状況によっては「逃げろ!」と伝えるべき時があります。「避難勧告」「避難指示」が出ていますと言っても、実際にはその中でも緊急度に違いがあるでしょうし、心理学の研究によれば、私達は「正常性バイアス」(きっと大丈夫と思い込む)、「オオカミ少年効果」(前回も前々回も大したことなかった)などのせいで、しばしば逃げ遅れます。

「緊急避難命令、緊急避難命令」。

「大至急、高台に避難せよ」。

これは、東日本大震災の時に、茨城県大洗町が行った防災行政無線放送の「命令調」の言葉です。

今回大洗町で防災行政無線の放送に携わった消防長は、「いざ災害が発生してしまったら、大勢の人を避難させるのには、もう『ことば』しか残っていない」と語る。効果的な呼びかけ方だけですべての人が避難するわけではないが、災害対策のあり方を再検討する際に、国や自治体にはぜひ参考にしてほしい事例だ。

出典:大洗町はなぜ「避難せよ」と呼びかけたのか(NHK放送文化研究所)

人は、法律だけでは動きません。時には、「DJポリス」のような、やさしい言葉がけに人は従いますし、時には厳しい命令口調が必要なときもあります。

東日本大震災の時も、自分は避難するつもりはなかったが、「津波が来る、避難しよう」と近所の人が必死になって勧めてくれたので、しぶしぶ従って命拾いした話を何人もの方から聞きました。

1986年の伊豆大島、三原山の噴火での全島避難の時には、このときも法的な強制避難ではありませんでしたが、避難を渋る高齢者の救出に地元消防団の青年が活躍しました。「ばあちゃんが避難してくれなかったら、俺も逃げられない!」。

法律でもなく、警棒でもなく、地元青年のことばが、高齢者を動かしました。

パニックにならず、逃げ遅れず

タイタニック号に沈没の時が迫る中、この巨大な豪華客船は、明るく暖かく、音楽が流れ、ご馳走がありました。そこから、暗く寒い真っ暗な海に、小さなボートで出ていくことは、簡単なことではなかったでしょう。危険が迫っている情報も不十分でした。

情報を待つのではなく積極的に情報を集め、迅速な行動が取れた人々は、難を逃れました。多くの人が逃げ遅れ、パニックになり、被害が大きくなる。こんな事態にならないように、各自が命を守る行動を取り、助け合いたいと思います。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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