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最も大切なのは人々の意識変化・・・中国での植林・緑化事業:中国を見つめ直す(5)

麻生晴一郎ノンフィクション作家

アンバランスな形が踏襲されてきた民間交流

日本政府は中国で植林・緑化事業を行う民間団体を支援する「日中緑化交流基金」に対し100億円を拠出する方針を固めた。12月4日の読売新聞の記事によると、「民間交流を通じ、両国の関係改善につなげる狙いがある」のだそうだ。だが、ここで言う「民間交流」とは一般にイメージされがちな市民交流とは異なる。同基金のホームページで紹介された助成事業の活動報告を見ると、中国の農村で現地政府の手配のもと、日本の民間団体の関係者が現地の人とともに植樹活動に精を出している。つまり、日本側が現地政府に働きかけ、現地政府の指導にもとづいて物資および人的に植林・緑化を支援する活動である。

実は日中間の民間事業の大方が、日本側は民間であるが中国側は政府が主導するというアンバランスな関係にあり、同基金の助成事業もこの枠から外れない。これまでさんざん同じような支援活動が行なわれながら日中関係に与える影響は少なく、しかも中国の環境汚染が年々ひどくなる中で、日本人の多くが「今さら中国の環境問題に援助する必要などない」と反感を強めてしまう可能性もあるだろう。

中国は都市と地方の格差、政府関係者と庶民の格差が激しい国である。今日の日中間の力関係を見れば、支援は中国の政府にではなく、むしろこれまで日本の経済援助の恩恵をあまり受けられず、経済成長からも取り残されてきた地方の庶民に重点を置くべきなのだ。その方が「日中関係の改善」にも有効に違いない。

中国内陸部の農村。このような光景によく出会う
中国内陸部の農村。このような光景によく出会う

植林・緑化事業の最も評価すべき点

ただし、そのことは同基金の助成事業を否定することにはつながらない。たとえ現地政府を通じての関係で、参加する庶民が政府に動員された人ばかりであったとしても、庶民に働きかけることは十分にできるからだ。同活動内容を見ると、これらの事業の大いに評価すべき側面も見られる。それは、何年も活動を続ける中で、現地の庶民の中から積極的な参加者が出てきていることだ。環境事業の成否は現地の人がいかに環境に対して自覚を持つかという点にあるはずであり、現地の庶民の意識が変わってきたことは、何本の木が植わったとか、日本人がいかに汗を流したかなどよりも重要である。

中国でまずやらねばならないのは、環境改善が重要であること、町や村をきれいにすることがカネ儲けと同じぐらい重要であることを政府・企業・市民・農民の間で浸透させ、彼らがまず環境問題を深刻に受けとめるようにすることにほかならない。そうでなければ何を植えようとも環境悪化は食い止められない。同基金の助成活動は現地の庶民の意識をいかに変えるかにいっそう重点を置くべきだと思う。

山東省南部の農村で。民間団体が主宰する村民による村作りの会合
山東省南部の農村で。民間団体が主宰する村民による村作りの会合

中国の民間団体にも目を向けるべき

中国には「自然之友」、「北京緑十字」、各大学の環境サークルなど、環境改善に携わる民間団体が多数ある。これらの民間団体が環境改善に取り組む現場を見ると、村民の意識向上に重点が置かれている。すなわち、現地の人に無農薬農業、汚染防止、村の美化を心がけてもらうために、村民との会議や共同の村作りを重ねなから、公共意識を持たせる取り組みが行なわれている。このような活動は実現に数年以上かかり、植樹に比べると目に見える効果が出ずらく、したがって資金難に陥りやすいが、必要不可欠なものである。日本の援助によって有効な活動ができそうな団体も数多い。

ところが、このような団体を訪ねるたびに、ぼくは欧米や香港などとは違って日本の財団や民間団体が彼らに冷淡であるという話を再三聞かされる。この点からしても、民重視の姿勢をもっと打ち出すことが日中関係の上でも環境改善の上でも欠かせないと思う。

ノンフィクション作家

1966年福岡県生まれ。東京大学国文科在学中に中国・ハルビンで出稼ぎ労働者と交流。以来、中国に通い、草の根の最前線を伝える。2013年に『中国の草の根を探して』で「第1回潮アジア・太平洋ノンフィクション賞」を受賞。また、東アジアの市民交流のためのNPO「AsiaCommons亜洲市民之道」を運営している。主な著書に『北京芸術村:抵抗と自由の日々』(社会評論社)、『旅の指さし会話帳:中国』(情報センター出版局)、『こころ熱く武骨でうざったい中国』(情報センター出版局)、『反日、暴動、バブル:新聞・テレビが報じない中国』(光文社新書)、『中国人は日本人を本当はどう見ているのか?』(宝島社新書)。

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