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ゼロコロナ政策抗議デモは、「市民意識」が持続中であることを示している:中国を見つめなおす(25)

麻生晴一郎ノンフィクション作家
各都市でPCR検査が中止され始めている(成都空港での光景。筆者の友人が撮影)

 2022年11月、河南省の鴻海精密工業の工場で大規模な労働者デモが起き、前後して複数の都市で市民や学生によるゼロコロナ政策への抗議デモが起きたが、これらは起こるべくして起きたものだと考えている。

 ぼくは、もっと早く起きるのではないかと思っていた。そう思ったのは2つの理由からであり、第1に、中国のゼロコロナ政策があまりにも酷いからである。すでにいろんな所で報じられているので、詳細は省く。

 もう1つの理由は、2000年代に台頭した市民社会化の機運、すなわち政府に意見したり、抗議活動をしたりする中国公民の台頭が挙げられる。中国や日本の専門家の中には、こうした機運が習近平政権下の度重なる弾圧・規制によって消滅したと考える人がいるが、正確には、主に西側世界の財団・基金・社会団体などと資金援助などの交流がある活動が休止に追い込まれたと考えるべきであり、消滅したとする見方は正しくない。

 げんに、この連載でも取り上げた佳士工人維権事件(「佳士工人維權事件と中国の大学生たち」「なぜ中国の大学生は立ち上がったのか」)のように、抗議デモは発生してきたのである。

 また、西側世界の価値観の上に立つか否かを問わず、中国共産党の一党独裁や習近平の極権を批判して声を上げる人は少数ながら健在なのであり、デモの際にそうした主張が出てくるのも、ある意味当然である。

 そうした党・習批判をする人たちが、今回のデモの中でどれだけの割合を占めていたのかはわからないが、おそらく政府側は少数であると判断したのではないか。というのも、デモの映像を見ると、警官が参加者が活動したり撮影したりするのをスルーしている光景がしばしば見られるからである。

 ぼくが知る限りでは、抗議デモが発生しそうな時の政府・警察の対応は、2011年のジャスミン革命の時のように厳重に行動を阻止し、撮影しようとする者も力ずくで押さえつけるようにするか、あるいは大勢の警官が配備されるものの、事態の展開を眺めているような場合のいずれかであり、今回は後者のように見える。

 もしそうだとすれば、今後は市民たちが納得できる解決案を示してデモの収束をはかり、そうしながらデモの中心に立つなど一部の人を捕らえるという流れになると思う。「やみくもに阻止する」か「静観する」かの2つの線引きがどのようになされているのかを知るよしはないが、要は一党独裁を守ることに主眼が置かれているわけで、静観する場合で言えば、政府は統治の正統性を守るためにも、「政府が普通の庶民を虐げている」との印象を何としても避けたく、へたに押さえつけて大混乱を引き起こすのではなく、独裁に危機が及ばない範囲で抗議活動を許しているのだろうと思う。もちろん、本当にそうなるかは今後の状況次第でもあるが。

12月に入って、各都市でPCR検査が中止され始めている(成都空港での光景。筆者の友人が撮影)
12月に入って、各都市でPCR検査が中止され始めている(成都空港での光景。筆者の友人が撮影)

 かような制約の中で繰り広げられたと考えられる今回のデモだが、21世紀以降に一般の公民が政府から自立して社会に働きかけようとする市民社会化の傾向が、今なお持続中であることを示したと言っていいのではなかろうか。21世紀に入って、いったん権利意識や社会参加意識が芽生えた人たちが、そうやすやすと元の沈黙する羊に戻るとは考えにくい。

 もちろん、2000年代に比べて2010年代以降にそうした活動に陰りが出ていたことは確かであり、それは、よく言われるような弾圧や規制の強化のためばかりではなく、若い人たちによく見られる愛国や西側世界への反発が、政府が快く思わない活動の壁になっているからではないかと思う。

 その意味では、愛国や西側世界への反発と矛盾しない抗議活動は、先に挙げた佳士工人維権事件のように起こり得るのだし、そのことは同時に、今回のようなデモの参加者が、たとえ政府や警察と対立するポジションにあっても、そのことが必ずしも西側世界との親和性を持つことを意味しないことにもなる。

「「普遍的価値」から中国政府批判をすべきではない(上)」「同(下)」でも述べたが、中国政府の課題や問題を批判的に見る際にも、もっと中国国内の動向に目を配るべきだと考える所以である。

ノンフィクション作家

1966年福岡県生まれ。東京大学国文科在学中に中国・ハルビンで出稼ぎ労働者と交流。以来、中国に通い、草の根の最前線を伝える。2013年に『中国の草の根を探して』で「第1回潮アジア・太平洋ノンフィクション賞」を受賞。また、東アジアの市民交流のためのNPO「AsiaCommons亜洲市民之道」を運営している。主な著書に『北京芸術村:抵抗と自由の日々』(社会評論社)、『旅の指さし会話帳:中国』(情報センター出版局)、『こころ熱く武骨でうざったい中国』(情報センター出版局)、『反日、暴動、バブル:新聞・テレビが報じない中国』(光文社新書)、『中国人は日本人を本当はどう見ているのか?』(宝島社新書)。

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