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8月16日は「甲子園名勝負の日」! あの人も、怪物も投げていた! 今年は広陵と慶応に名勝負の予感

森本栄浩毎日放送アナウンサー
台風襲来で順延となった夏の甲子園。16日は名勝負が多かった。今年は?(筆者撮影)

 3回戦進出の16校が決まった夏の甲子園は、台風直撃で15日の3回戦4試合が順延となった。長い歴史を持つ大会では8月16日に、高校球史に残る名勝負が繰り広げられてきた。この16日には、広陵(広島)-慶応(神奈川)など、好カード4試合が予定されている。今年も名勝負の予感がする。

「奇跡」としか言いようのない箕島-星稜

 甲子園最高試合として、特に昭和の時代から高校野球を見てきたファンがまず挙げる名勝負が、昭和54(1979)年8月16日の第4試合、箕島(和歌山)と星稜(石川)の延長18回の死闘だろう。延長に入ってから箕島が2回、リードを許したが、いずれも2死から本塁打で追いつき、引き分け再試合寸前の18回にサヨナラ勝ちした試合だ。筆者もテレビに釘付けとなった。春夏連覇を狙う王者に挑む星稜の勢いに対し、2度も「奇跡」を起こした箕島の粘りには、ただただ感動しかない。箕島はこの試合に勝って8強入りしその後、春夏連覇を達成したが、公立校によるこの快挙は箕島だけだ。

「怪物」江川が雨中で散る

 その6年前、昭和48(1973)年の同じ日、剛腕・江川卓投手(元巨人)擁する作新学院(栃木)に対し、銚子商(千葉)が挑んだ延長の死闘は、降りしきる雨の中、大投手が敗れた試合として球史に残る。銚子商が優勢だった試合は、得点機で本塁を狙った銚子商の走者が、作新捕手のブロックにあって顔面から流血。手当てを受けて右翼の守備につく瞬間から、スタンド全体が銚子商を応援する雰囲気に変わっていた。最後は満塁から、銚子商がスクイズのサインも打者が高めの球を見送って押し出しの幕切れ。延長12回、昭和の怪物投手が敗れた瞬間だった。筆者はこの試合に感動し、銚子商のファンになった。

報道陣に「ご苦労さんです」と言った名投手

 筆者の生まれる前の昭和33(1958)年8月16日、準々決勝第4試合の徳島商魚津(富山)は両校無得点のまま延長18回で引き分けとなり、翌17日の再試合で徳島商が勝った。伝説の「板東・村椿の投げ合い」である。板東はのちに中日で活躍した板東英二さん(83)で、筆者はプロ野球中継で何度もコンビを組ませていただいた。延長18回引き分け再試合の適用第一号となった試合だが、そもそもこのルールは直前の春の四国大会で、板東投手が準決勝と決勝の2試合で、計41回を投げたことからできたのだった。試合終了は午後8時を回っていたが、報道陣への第一声が「遅い時間までご苦労さんです」だった。タレントとしても名高い板東さんだったので「さもありなん」なのだが、さすがに取り囲んだ大人たちに対する高校生の言葉とは思えない。真偽のほどはご本人に確認するしかないと思い「ほんまにおっしゃったんですか」と尋ねた。答えは「言うた」。やはり板東さんはすごい高校生だったのだ。

隠れた名勝負は工藤の名電と北陽の死闘

 これら3試合はいずれも8月16日の最終試合(作新-銚子商は雨のため第4試合は順延)で、延長のナイター照明の中での試合だった。筆者は、あまり語られていないが、昭和56(1981)年8月16日の第4試合、名古屋電気(現愛工大名電=愛知)と北陽(現関大北陽=大阪)の延長12回も印象に残っている。名電のエースは工藤公康投手(元西武ほか)で、1回戦で無安打無得点を達成していた。北陽が終盤に工藤を攻め1-1の同点に追いつくと、工藤と北陽の左腕・高木宣宏投手(元広島ほか)の投げ合いとなった。9回に北陽が好返球で名電のサヨナラを阻止すると試合は延長へ。最後は名電・中村稔選手(元日本ハム、NPB審判員)のサヨナラ本塁打での決着となったが、試合後に北陽の松岡英孝監督(当時)から「ありがとう。今日のお前は最高や」とねぎらわれて涙する高木投手の姿が忘れられない。

松井の5敬遠もこの日だった

 そしてこれは名勝負とは一線を画するが、平成4(1992)年の明徳義塾(高知)と星稜の試合も8月16日だった。「松井の5打席連続敬遠」で知られる試合で、明徳が3-2で勝ったが、甲子園が騒然とした一種の「事件」でもあった。9回の敬遠後にはスタンドからモノが投げ込まれ、星稜の選手たちが片づけに出て試合が中断。さらに明徳の校歌演奏時に「帰れ」コールが起こるなど、甲子園の高校野球では考えられないような異様な雰囲気に包まれた。松井秀喜選手のその後の活躍は言うまでもないが、この5敬遠は松井選手が高校時代からいかにすごかったかを如実に物語る。

「特別な日」に好試合を期待

 今年の8月16日は順延があって3回戦の一日目に当たり、注目は広陵と慶応の対戦。ともに優勝を狙える戦力を有している。順調に消化していても、仙台育英(宮城)と履正社(大阪)の強豪対決が予定されていた。列挙した名勝負は延長のナイターという共通点があったが、現在の延長は即タイブレークであり、以前のようなしびれる展開は望むべくもない。それでも、のちのち語り継がれるような試合になる可能性はある。この「特別な日」に、力いっぱいの好試合を期待している。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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