都市封鎖中、北欧ノルウェーで今起きている議論
感染者拡大の増加傾向を受けて、ノルウェーの首都オスロでは10日午前0時より3週間にわたり、首都独自の「社会的ロックダウン」対策がとられている。
ノルウェーでは政府が提案・義務化する対策に加え、自治体独自の対策がおこなわれている。
3月の第一回目のロックダウンに続いて、今各地で起きている対策は二回目のロックダウンともいえる。
「ロックダウン」と聞くと、市民が家で多くの時間を過ごすことを余儀なくされる光景を想像するかもしれない。だが、この国の対策には外出禁止令は含まれない。
政府や自治体が不急不要の外出を要請していても、反応は人によって異なり、地域によっても空気は変わる。時間帯や場所によっては驚くほど人が密集している場合もあれば、人の姿がガラリとない場所もある。
オスロでの現在進行中の対策が開始されて以来、市民の移動は減ったようだ。オスロ市の緊急管理局が発表したモバイル端末による移動量データ公表によると、対策が開始された週の市民の交通機関での移動量は前週と比較して43%減少。オスロ中心部での人の動きは12%減少。郊外の自然が多いエリアでの移動量は30%増加した(アフテンポステン紙)。
政府や自治体が恐れているのは、クリスマス時期に状況が悪化し、家族と過ごす1年で最も大切な時期が悲惨な状態になることだ。より厳しい対策で市民の行動を規制することにならないよう、11月の集中的な事前対策でクリスマスの感染者増加を防ぐことが狙いだ。
外出禁止令はなく、場所によっては人が密集したままであるため、現在の各地での対策をロックダウンと呼ぶかは、人や機関によって異なる。「ロックダウン」と言う人もいれば、「ほぼロックダウンのような状態」と言う人もいる。
オスロ市は3週間の現対策を「社会的ロックダウン」と呼んでいる。3月に全国レベルで行われた政府対策と比較して、現在のものは市民の社会的な交流(外出禁止令ではない)、酒を取り扱う飲食店の営業時間などを厳しく規制している。
オスロ市の主な対策
- 家庭以外での全ての社会的集会の禁止(葬式は除く)
- 大人のレジャー活動を禁止(合唱団やスポーツなど)
- 文化・レジャー活動の行事を禁止(図書館、20歳未満の活動は除く)
- 飲食店でのアルコールの提供を禁止。アルコールを提供しない場合は営業可能
- 教育機関では感染レベルに応じて、少人数学級制度などのより厳しい感染防止対策を導入
- 公共交通機関だけではなく、タクシー内でもマスク着用を義務化
- 店、ショッピングセンターなどの施設では客同士が2メートルの距離をとれるようにして、必要な警備員を確保
加えてオスロではこれよりも前に以下の対策も導入されている
- 家庭で集まる場合は10人まで(感染防止対策がとられていることが条件、家族や同居人以外との距離は1メートル)
- 1メートルの距離を保てない場合は公共交通機関ではマスク着用義務
- 屋外でのイベント行事は200人まで
- 可能な限りテレワークを義務化
酒の営業禁止がもたらす飲食店の苦悩
北欧諸国はアルコールに関する考え方が以前から保守的で厳しいため、コロナ対策では飲食店が酒を取り扱う営業権利を規制する傾向がある。泥酔した状態ではソーシャルディスタンスがとられにくい・人数制限などの規制を守らないなどの傾向があると考えられるためだが、「それなら家で集まって飲もう」という人が増えて逆効果だという指摘もある。
飲食店の営業を禁止せずとも、「アルコールの提供を禁止」するだけで、店側は大きな打撃を受けることになる。酒の提供ができなくなると夜の売り上げが減り、物価が高い国でこれまで通りの営業を続けることが難しいためだ。中途半端に営業を続けるよりも全面的に休業したほうが補償額があがる場合もある。ただし、それでも全額が補償されるわけではない。
12月はノルウェーでは「クリスマス・テーブル」とも言われる企業の忘年会がレストランで開催される時期だが、今年は自粛する企業が増えそうだ。現在の2回目の各地での規制強化を受けて、倒産する会社がさらに増えると指摘されている。
カフェの利用率はビジネス街で減り、住宅街で増える傾向
酒の売り上げにそれほど影響を受けない日中営業のカフェでも悩みは深刻だ。テレワークの増加により、ビジネス街に位置するカフェの来客は減り、反対に住宅街では来客数が増える場合もある。
また地域によってはお店同志と市民のつながりが強いと生き残る傾向もある。北欧は「平等」精神を根っこにした考え方がある。もともと競争意識が低めで、情報を透明化し、みんなで仲良く協力していこうという考え方が強い。そのためローカル支援の意識や店同士のつながりをより固くして、「補償制度も利用しながら、なんとか生き延びている」ケースも取材をしていて感じることがある。
誰もが補償制度を利用できるわけではない
ノルウェーでの対策で特に悲鳴をあげているのは、観光・ホテル、飲食・文化業界だ。補償制度があったとしても、全額保証ではないため赤字経営は変わらず、「この先どうなるのか」という不安を抱えながら暮らす日々に加え、業界独自の課題もある。
これらの業界にはフリーランスや個人事業主として収入を得る人が多いが、補償額がより低くなり、現在の補償制度は年内までだ。昨年の納税額が低い・起業したばかりなどの場合は制度自体も利用できない。
音楽業界ではコンサートやツアーが他国で開催される場合だった場合の負債額は補償されないことも。
このように「イスとイスの間から落ちる」と現地で言われているような、補償制度の対象から漏れる場合もある。メディアを通じて発覚し、改善される場合もあるが、誰もが顔と名前を出して声をあげるエネルギーがあるわけではない。このままでは社会保護受給者やメンタルヘルスを崩す人が増えるだけだと、労働組合を通じて補償制度の改善が訴えられている。
若者の行動への厳しい視線や自粛要請がある中、13~18歳の若者の40%が「話し相手を必要としている」という調査もノルウェー保健局は発表している(公共局10月記事)。
「感染率を高くしているのは移民」という言葉遣いに警報も
ノルウェーでは以前から社会で問題が起きると、移民を問題点にする議論が発生しては消えていく。11月、最大手全国紙アフテンポステンは『移民感染が懸念される』という見出しを紙面にした。差別を助長するタイトルだとして批判を浴び、新聞社は謝罪した。
ノルウェー公衆保健研究所FHIは感染者の54%がノルウェー国外で生まれた者だということを明らかにしている(公共局)。考えられる背景には、国外で生まれた場合は文化的な価値観の違いもあり、政府などに対する信頼度が低いこと、「要請」と「義務」の違いが分からない可能性、ノルウェー語がわからないことによる情報不足などがあげられている。政府や各自治体は英語、アラビア語、ソマリ語、ポーランド語、トルコ語など、さまざまな言語による呼びかけを増やしている。
極右政党「進歩党」所属の議員からは移民を責める言論もでているが、ソールバルグ首相はじめとする与野党は移民に責任を問う言論に警報を鳴らしている。
「互いを憎み合うことを私たちはやめなければいけない。感染経路がわからずに多くの人が病気になっている中で、憎しみ合ったり批判しあったりする理由はない。感染者数を抑えることに集中するべきだ」と首相はNTB通信社を通してコメントしている(VG紙)。
北欧諸国のコロナ患者数
- スウェーデン(人口1032万人)感染者数177355/死亡者数6146/人口100万人あたりの感染者数 17561・死亡者数 610
- デンマーク(人口582万人)感染者数61078/死亡者数757/人口100万人あたりの感染者 10544・死亡者数 130
- フィンランド(人口552万人)感染者数19102/死亡者数369/人口100万人あたりの感染者数 3447・死亡者数 66
- ノルウェー(人口537万人)感染者数27226/死亡者数294 /人口100万人あたりの感染者数 5022・死亡者数 54
- アイスランド(人口36万人)感染者数5186/死亡者数25/人口100万人あたりの感染者数 15197・死亡者数 73
- 日本(人口1億2588万人)感染者数116677/死亡者数1883/人口100万人あたりの感染者数 922・死亡者数 14
※人口は各国の統計局、数値はWHOを参考(2020/11/15時点)。 北欧諸国は人口が少ないので、コロナの話をするときはそこに注意しないと問題を見誤りやすい。感染者数の多さは検査数の多さにも関係しているので、死亡者数をどれだけ抑えられているかにより着目を。
オスロでの感染経路(11/2~8)
- 自宅 32%
- 不明 24%
- 職場・大学 12%
- プライベートなイベント行事(家族とのディナー、飲み会など) 10%
- その他(近所、訪問、友人、美容院、ジム、理学療法、店など) 6%
- 幼稚園・保育園、学校 4%
- 報告されていない・不明瞭 4%
- 職場や出張などの移動 3%
- サッカーなど組織化されたレジャー活動 2%
- 公的なイベント行事(コンサートなど) 1%
- 飲食店・バー 1%
- 医療機関(患者) 0.9%
- 公共交通機関 0%
※データはオスロ市の報告書より
マスクの正しい使い方を呼び掛けるオスロ市の動画
※写真は全て11月14日にオスロで撮影
Photo&Text: Asaki Abumi