高級生食パンに続くブーム!「キューブパン」の仕掛け人は名古屋のパンマイスター
ブーム発信地のひとつは関西の高級食パン専門店
キューブパンが人気を集めています。6~8cm角の立方体のミニ食パンで、生地やトッピングのバリエーションも豊富な上に、そのまま食べられるのも魅力。手軽な食事にもおやつにもなり、さらには手土産にもうってつけと幅広いニーズに応えています。
約40種ものキューブパンを取り揃えているのが兵庫県姫路市に総本店を置く「熟成純生食パン専門店 本多」。系列店のひとつである高砂北浜店(兵庫県高砂市)で、2020年のテスト販売を経て今年に入り本格的に売り出すとたちまちヒット商品に。以来、グループの他の店舗でもキューブパンの種類を順次増やしています。
名古屋でもニューオープン店のヒットでブームに
今年3月に名古屋でオープンした「コアラのあくび」はやはりキューブパンをメインに取り揃えるベーカリーカフェ。惣菜を盛り込んだり、チョコでコーティングしたり、フルーツをトッピングしたりとバラエティ豊かなキューブパンが常時10種類以上並びます。
「お客様は女性が中心ですが、家族連れから年配の方まで幅広い。人気は自家製の豚の角煮を詰めた角煮パンやチョコレートなど。手土産用と自宅用の2箱をご購入される方が目立ちます」と店主の近藤一訓さん。店の周りには連日長蛇の列ができ、1日の最高販売記録は実に1800個以上(!)といいます。
関西、名古屋のブームの仕掛け人は名古屋のベテランパン職人
実は、先の2店をプロデュースしているのは名古屋のパン職人。「シャルムベーカリーポンシェ」(名古屋市瑞穂区)のオーナーシェフで、パン専門学校の講師も長年務めている内藤昌弘さんです。
「キューブパン自体は昔からある商品で、私の店でも5~6年前から出していますが、何十種も揃えた専門店はこれまでなかったと思います」と内藤さん。東京などでも数年前からキューブパンをメインにすえたベーカリーが登場していますが、内藤さんがプロデュースした専門店はあくまで独自のアイデアといいます。なぜこれをフィーチャーし、なぜ今こんなに人気を得ているのでしょうか?
「第一に見た目のかわいらしさ。生地にチョコやイチゴを練り込んだり、フルーツをトッピングしたりとバリエーションをつけやすく、ショウケースに並べるとカラフルで箱詰めにしてもまたかわいい。普通サイズの食パンだと生地に味をつけると食べ切りにくくなるのですが、キューブパンは小さい分食べやすいのも魅力です」
さらには近年のパン業界のトレンドの変化に対応する狙いもあったそう。
「数年前からの高級生食パンブームは、競合店が急増して飽和状態になってきた。キューブパンであれば同じ食パンの一種なので、既存の食パン専門店がスタイルを変えることなく、新たな中心商品として取り入れやすいのです」
キューブパンは食パンのアレンジなので、当然、食パンとしておいしいことが不可欠。高級生食パンの専門店であれば、その一番のポイントはあらかじめユーザーにも認知されています。また「コアラのあくび」の場合は、名古屋のパン好きには知られた存在である「シャルムベーカリーポンシェ」の看板商品であるゴールド食パンと同じレシピを採用しているので、そのおいしさは折り紙付きです。
ブームでも類似店は出しにくい(?)。人気は今後も先行店がけん引
にわかに注目度が高まっているキューブパンですが、ブームが過熱しすぎると逆にすぐ飽きられてしまうケースも少なくありません。しかし、このジャンルは一気に競合店が広まるようなことにはなりにくい、と内藤さんはいいます。
「キューブパンはひとつひとつ型に入れなければならず、しかも他のパンが主に7~8分で焼けるところ約20分かかる。専門店としてたくさんの種類を用意するには、手間も時間もかかるんです。その上、最近の人気の高まりで型の生産が追いつかず、今からすぐに何十個と確保するのは難しいんです」(内藤さん)。
キューブパン専門店というスタイルはソフト、ハードの両面でハードルが高く、先行店の優位性は容易には揺らがない、というわけです。そんな中で内藤さんプロデュースの「熟成純生食パン専門店 本多」は7月から伊勢外宮店、8月から津みなみ店(いずれも三重県)でキューブパンの販売を開始。8月7日には岐阜県下初のキューブパン取扱店として岐阜茜部店がオープンするなど、仕掛け人である内藤さんのおひざ元ともいうべき東海地方に逆輸入される動きが活発になっています。
新たな商品は?そして新たな専門店の出店は? キューブパンがこの先どんな展開を見せるか、今後もブームの発信源である名古屋のパンマイスターの動きに注目です。
(写真撮影/筆者 ※「熟成純生食パン専門店 本多」の写真は同店提供)