Yahoo!ニュース

グランドスラムで初めてラケットを壊した錦織圭、全仏テニスでの“日韓戦”を制し3年連続のベスト16へ

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
全仏3回戦でチョン(写真右)を破って、ベスト16に進出した錦織(写真/神 仁司)
全仏3回戦でチョン(写真右)を破って、ベスト16に進出した錦織(写真/神 仁司)

パリで初めて実現した“日韓戦”は、思わぬ乱戦となった――。

テニス4大メジャーであるグランドスラムの第2戦・ローランギャロス(全仏テニス)の3回戦で、第8シードの錦織圭(ATPランキング9位、5月29日付け、以下同)は、チョン・ヒョン(67位、韓国)を、7-5、6-4、6-7(4)、0-6、6-4で破って、3年連続でベスト16に進出した。

チョンは、韓国テニス界期待の21歳。13歳から15歳の時にフロリダに海外テニス留学して、錦織と同じIMGアカデミーで練習していた。2015年シーズンに自己最高の51位を記録したチョンは、ATP Most Improved Playerアワードを受賞した。だが昨シーズンは、腹筋のけがで6月から8月まで戦線を離脱し、146位までランキングを落とした。

今季はこれまで結果の出なかったクレーシーズンで好成績を出し、バルセロナ大会ではベスト8、ミュンヘン大会ではベスト4に進出してランキングを再浮上させている。

錦織と初対決となったチョンは、試合序盤にナーバスになっていたせいか動きが硬いうえに、ファーストサーブの確率が悪く、第1、第2セット共に44%にとどまった。錦織は、リターンポジションをベースライン後方3~4mぐらいにとって、チョンの強力サーブをリターンしてからラリーを展開し、深いストロークやタイミングの早いストロークで主導権を握り、ミスを強いられたチョンは苛立ち思わず声をあげずにいられなかった。

2セットダウンになったチョンだが、「圭に簡単に負けたくない」と強く思いながら、ロングラリーをがまん強く続け、ベースライン後方からフットワークを活かしながら、錦織の攻撃的なストロークを我慢強くディフェンスをして反撃の糸口を探った。

一方、2セットアップした錦織だったが、第3セットの第3ゲームと第9ゲームに1回ずつブレークポイントがあったが、共に錦織のミスでチャンスを活かすことができず、結局お互いサービスをすべてキープしてタイブレークに突入した。

タイブレークでは、チョンが4-4から、フォアハンドの逆クロスとバックハンドのダウンザラインへウィナーを決めてセットポイントをつかむと、最後は錦織のフォアハンドストロークがロングになって、チョンがワンチャンスを活かして第3セットをもぎ取った。

第4セットに入ると小雨が降り出し、レッドクレー(赤土)コートが湿って、ボールも水分を含んで球脚が遅くなる中、錦織は、第1、第3ゲームと立て続けにサービスブレークを許した。フラストレーションが頂点に達した錦織は、ラケットをテニスコートに叩きつけて壊し、主審から警告を受けた。

錦織が、グランドスラムでラケットを壊すのは初めてだった。

「シンプルにセットを落としたのと、2回ブレークされたので、それなりのイライラはたまっていました」(錦織)

さらに雨がひどくなって17時04分に試合は順延となった。

試合は翌6月4日の午前11時から再開され、錦織は第4セットを捨ててフィイナルセットに勝負をかけた。

「メンタル的にちょっと回復できる時間があったので、今日はなるべく気持ちを切り替えた。(チョンの)ストロークがすごく安定していて、崩しにかからないと崩せない。思い切って攻撃的にできた」と錦織は、ファイナルセットの第3ゲームで、回り込んでのフォアのリターンエースを決めて先にブレークに成功した。

「圭は動きが速くて、ストロークが良かった」と語ったチョンは、錦織のサービングフォアザマッチの第9ゲームを、得意のバックハンドのダウンザラインを使って、錦織のミスを誘いブレークして意地を見せた。だが、第10ゲームでの錦織のマッチポイントでは、チョンがダブルフォールトをして、3時間51分の激闘にピリオドが打たれた。最後の最後で、チョンは錦織より経験が不足していたことを出してしまった。錦織は、62本のウィナーを決めたが、69本のミスを犯した。やはりミスの多さは気がかりで、今後の戦いで修正しなければならない。

間違いなく雨の中断によって救われたのは錦織だった。

「昨日本当にあのままいったら、たぶん雨が降っていなかったら、100%負けていた」と錦織は認めた。一方、チョンは、穏やかな表情で、分水嶺となった雨の中断を振り返った。

「昨日プレーが続けられたら、たぶん僕にとってはベターだったかな。確かなことはわからないけどね。いずれにしても圭と5セットを戦わなければいけなかったから」

世界のトップ10選手として活躍する錦織と、アジアの新世代を担うチョンとの“日韓戦”は、語り継がれるべき試合の一つになり、パリに鮮烈な印象を残した。

4回戦で錦織は、ノーシードから勝ち上がって来た、ベテラン33歳のフェルナンド・ベルダスコ(37位、スペイン)と対戦する。対戦成績は錦織の3勝2敗。ベルダスコとは昨年のローランギャロスでも対戦しており、5セットの激戦の末、錦織が勝っている。

「(ベルダスコは)クレーでやっぱり強くてしぶとい選手。フォアの攻撃力があったり、辛抱しながら戦わないといけない相手。今日しっかり回復させて明日に臨みたいです」

錦織は連日の試合となり、フィジカル問題と体力の回復に不安が残る。

実は、3回戦で雨による中断の直前に、錦織は、トレーナーから腰の治療を受けようとしていた。雨がひどくなったため、試合自体が中断になり、コート上での治療は行われずに、錦織はコート外へ引き上げたのだった。

もしベルダスコとの4回戦で長期戦を強いられると、錦織は分が悪くなるかもしれない。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

神仁司の最近の記事