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さらば、伊藤竜馬! そして、これから日本テニスの未来を頼むぞ!!(前編)【テニス】

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
現役最後となった全日本テニス選手権で笑顔を見せた伊藤竜馬(写真/神 仁司)

 2024年シーズンに、世界で活躍した伊藤竜馬が現役を引退した。36歳の決断だった。

 すでにコーチとしての活動も始めていた伊藤が、引退を表明したのは2024年4月。現役最後の舞台として決めた全日本テニス選手権(10月上旬)には、「今、結構精神的にはいい状態です。今がいちばんすごい楽しいような感じで、あまり深く考えずに、自分の好きなプレーをやれている」と晴れ晴れとした表情で臨んでいた。

 そして、伊藤の口から引退を決めた理由を語ってくれた。

「僕の中では、ATPの大会でランキングを上げていくことが目標でもあった。それでツアーを回れない体の状態だと、やっぱり自分自身があいまいのような感じでもあった。そこは区切りをつけてという感じで(引退を)決めた。世代交代というか、いろいろ若い選手が入ってきて、その中で僕もスピードについていけないことを肌で感じたりもした。最後を、今年(2024年)と決めて、思いきり楽しみたいな、と感じで、4月に決めました」

 ワールドプロテニスツアーで戦うことにプライドがあったのかと聞くと、すぐに人懐っこそうな柔らかい笑顔を浮かべて謙遜しながら答えが返ってきた。

「プライドはあまりないですけど(笑)。できれば上(ツアーレベル)で戦いたいのもあるし、まだまだ下の大会(ツアー下部大会、ITFサーキット)でもプレーしたいという自分もいた。その中で、昨年ぐらいからコーチングも仕事としてさせてもらって、コーチングも自分の中では面白いな、僕自身の成長につながる、というのもあった。

 試合を見るのも好き。今日の(全日本3回戦で対戦した)住澤大輔くんも、橋本総業で一緒だったし、若い子たちにアドバイスを少ししてあげた。今日対戦をして伸びているのも感じましたし、そういう若い子たちに教えるのも、すごい楽しいと思えたこの2年間だった。いろんな思いがありましたね」

 改めて振り返ると、伊藤は、約18年間に及ぶ現役プロ生活をよく完走できたなと思う。なぜなら、伊藤の性格は、引き分けのない厳しいプロテニス生活を生き抜くにはあまりにも優し過ぎるのではないかと感じられたからだ。そこは、伊藤本人も認める部分がある。

「もともと僕の性格的に、勝負事というのは、あんまり得意ではない方なんですけど……。でも、負けず嫌いでもある。すごいあいまいな感じではあるんですけど……」

 それでも伊藤は戦い抜いた。テニス4大メジャーであるグランドスラムには全大会本戦出場を果たし、オーストラリアンオープンでは、2013年、2014年、2020年に2回戦に進出した。USオープンでは、2014年に2回戦に進出した。そして、世界ランキングは最高60位(2012年10月22日付)を記録した。

 もともと伊藤は、小学生6年生の冬に、右ひじの離断性骨軟骨炎の手術をして、約1年リハビリに費やした。その古傷が、2016年のウィンブルドンの前(6月)に再発。ウィンブルドン後に手術をした。

 術後1年間なかなか痛みがとれず、思い切りプレーができなかったが、2018年に入ってようやく痛みが消えて自分の思うようなテニスができるようになった。そんな中、伊藤は、テニスと向き合う気持ちがさらに確固たるものになり、「どんな状況でも、自分はテニスが好きでやっていることを確認できた。今は、コート上で楽しむように心がけています」というモットーでプレーを続けてきた。

 また、男子国別対抗戦デビスカップの日本代表メンバーとしても活躍し(シングルス7勝7敗、ダブルス1勝5敗)、2012年ロンドンオリンピックにはシングルスで出場を果たした。

 伊藤が一番活躍した2010年代前半では、錦織圭が先頭を走って日本男子選手をけん引するようにして、添田豪や杉田祐一らも活躍した。

「1歳下で錦織くんがいて、当時からトップ50とか、トップ20に入っていた選手で、天才だなと見ていた。4歳上に添田くんや杉田くん、他の選手たちがいたのがすごく大きかった。やっぱり一人では、ランキングとかいろいろな経験はできなかった。やっぱり彼らがいたから、僕も引き上げてもらった。すごい良いライバル関係というか、添田くんを見習って、上り詰めたというのもある。やっぱり僕一人ではできなかった部分はあると思いますね」

 ここでも心優しい伊藤らしく、錦織をはじめとした日本男子選手の存在が大きかったことを強調した。

(後編に続く)

左ひざにテーピングをしてプレーをした伊藤だったが、彼の一番の武器であるフォアハンドストロークで力強いショットを見せた
左ひざにテーピングをしてプレーをした伊藤だったが、彼の一番の武器であるフォアハンドストロークで力強いショットを見せた

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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