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「ファイナルのファイナルはファイナルに突入した」あなたは、この一文の意味を即解できますか?【テニス】

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
BJKカップ・ファイナルズに初進出の日本代表メンバーと杉山監督(写真/神 仁司)

「ファイナルのファイナルはファイナルに突入した」――。

 あなたは、この一文を瞬時に理解できるだろうか。もしできるとしたら、あなたは、筋金入りのテニスファンだ。もしかしたら、生成AIでも的確な回答が得られないのではないかと考えている。

 早速答え合わせをしていこう。一つ目のファイナルは、大会呼称を表している。二つ目のファイナルは、決勝のこと。準決勝をセミファイナル、決勝をファイナルと表現するのはもはや一般的になっている。そして、三つ目のファイナルは、セットのことで、もう少し丁寧に表現するならば、ファイナルセットや最終セットということになる。

「ファイナルのファイナルはファイナルに突入した」という言い回しは、実際に見聞きしたものではないが、もし使用されたら、視聴者にとってわかりづらく不親切なものに違いない。また、いろいろなスポーツ競技にもあてはまるものでもあるが、私は国際テニスライターなので、テニスのケースとして掘り下げていきたい。

 視聴者や読者の誤解を防ぐには、一つ目の大会呼称を指すファイナルを、ファイナルズとすることだ。実は、ネットでさまざまなメディアの表記を比べると、ファイナルとファイナルズとでゆらいでいる。

 ファイナルズという言葉が使われるようになり、テニスファンが目にするようになったのは、21世紀になってからで比較的新しい。

 男子プロテニスのツアー最終戦は、2009年に、ATPワールドツアーファイナルズとなり、さらに、2017年からはATPファイナルズに大会呼称が変更された。一方、女子プロテニスのツアー最終戦は、2010年から、WTAチャンピオンシップスからWTAファイナルズに変更されている。

 さらに、男子テニス国別対抗戦デビスカップが、2019年にフォーマットが大幅変更されて、デビスカップ・ファイナルズとなった(2024年大会は、ファイナル8という表記もある)。そして、女子テニス国別対抗戦ビリー ジーン・キングカップ(以下BJKカップ)は、フォーマットが変更され、大会呼称がフェドカップからBJKカップに変更された2021年にBJKカップ・ファイナルズが誕生した。

 英語表記だとFinalsになっており、ファイナルズが正しいといえるのだが、紙面で少しでも文字を減らしたい媒体は、ファイナルと表記しているようだ。

 個人的には、読者が誤解するかどうか、その可能性があるかどうか、で判断しながら文字に起こしている。だから、大会呼称にはファイナルズを使用している。

 テニスをよく知らない人にはピンと来ないかもしれないが、例えば、代表的なSF映画である「STAR WARS」を、「スター・ウォーズ」ではなく、もし「スター・ウォー」と日本語化するとどうだろうか……。

 紙面が限られているという言い訳は、新聞社の都合で、読者からすれば、そんなことは知ったことではない。ましてやスマホ、パソコン、タブレットで主にニュースや記事を読むのが当たり前のご時世に、ファイナルが何を指すのか、誤解を生まないように伝えないのは、受け手側に不親切だなと感じずにはいられないのだ。

 現在、WTAファイナルズが開催中で、11月10日からはATPファイナルズが開幕する。

 さらに、11月13日からは、日本が出場する女子テニス国別対抗戦BJKカップ・ファイナルズも開幕する。

 ファイナルズと表記したのは、テニス専門のネットメディアなどで、通信社や新聞は、ファイナルとか決勝大会とか決勝トーナメントとか表記していた。特に、誤解が生じやすいのが、BJKカップ・ファイナルという表記で、日本がBJKカップ決勝を戦うのかと解釈されてしまう可能性がある。

 無論、日本は、決勝を戦うのではなく、初戦でルーマニアと対戦する。1回戦を勝ち上がると、準々決勝でイタリアが待ち受けている。

 日本代表メンバーには、内島萌夏、大坂なおみ、日比野菜緒、青山修子、穂積絵莉が選ばれていたが、腰のけがにより大坂の代表辞退があったため柴原瑛菜が追加招集された。

 BJKカップ・ファイナルズでは、シングルス2試合とダブルス1試合で行われる。

「十分に上位を狙っていけるチーム力が、われわれにはあると思っています。もちろん出るからには、優勝を目標に置いています」と杉山愛監督は、目標を高く掲げて、選手たちのモチベーションを引き上げようとしている。

 BJKカップ・ファイナルズでの日本チームの健闘を祈りたいが、ファイナルズとファイナルという表記の違いによって、視聴者や読者が誤解しないことも願いたい。

BJKカップ・ファイナルズでの日本チームの活躍が楽しみだ(写真/神 仁司)
BJKカップ・ファイナルズでの日本チームの活躍が楽しみだ(写真/神 仁司)

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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