夜間外出禁止のパリの日常
フランスの新型コロナ感染拡大が加速しています。
公衆衛生局が毎日告知している直近24時間での新規感染者数は、27日14時の発表で33,417人。前日26日同時刻発表では26,771人、亡くなられた方の数は、27日発表で523人、前日が288人となっています。
国民の3分の2に夜間外出禁止令
10月17日からは、首都圏と8つの都市圏で夜間外出禁止令(21時から翌朝6時)が施行されましたが、24日には、この措置が54県に拡大。国民のおよそ3分の2が対象になりました。けれどもこれで収まる気配がないというのが今週になっての風潮です。
夜間外出禁止令拡大が発表になった先週の首相、健康大臣らの記者会見では、措置の結果が数字としてあらわれてくるまでには2週間くらいかかるというコメントをしていましたが、そこまで待てない事態になっているということなのでしょう。28日水曜20時に、大統領会見が行われることになりました。
「20時の大統領会見」というのは、とても大事なことが発表されるというサインです。春のロックダウンの時もそうでしたが、昨年のパリのノートルダムの火災の後にも行われたように、大統領が国民に直接メッセージを届け、国民の結束をはかる象徴的なものです。
ちなみにフランスのテレビのキー局では20時にニュースを放映するのが常ですが、ロックダウン中は特に国民の多くが20時にテレビの前にいるということで、それを教会のミサのような習慣になっていると例えた人もいたほど。医療従事者への感謝の意味を込めて、人々が窓から一斉に拍手をしたのも20時でした。
ともあれ、目下の巷の関心事は、外出禁止の時間帯が拡大されるだろうということで、もしかすると2度目のロックダウンも視野に入ってきたと報道するメディアもあります。
パリの生活実感
パリでは夜間外出禁止令が施行になって10日ほど経ちましたが、人々の生活ぶりはどうなのか?
日々そこで暮らしている筆者の個人的な実感としては、ほとんど変化なしというのが正直なところです。
春のロックダウンでは、夜間だけでなく日中も外出は制限され、認められていたのは自宅から1キロ圏内、1時間以内というものでしたが、これまでの10日間は、外出時にマスクは必須ということを除けば、日中の行動を規制するものは何もありませんでした。仕事、買い物、友達と会うのも、散歩をするのも自由でしたし、他県への旅もまったく問題なし。そういう点でいうと春のロックダウンとは雲泥の差です。
10月のこの時期、パリの日の出は7時半(先週末までの夏時間なら8時半)、日の入りは17時半(夏時間なら18時半)くらい。朝6時からフル活動をしている人は少数派です。夜10時になっても空が明るい夏と違い、秋には冷たい雨の日が多いことも手伝って、日が落ちてから外を歩きたくなるような開放感は激減していますから、その点でも自由を制限されていると感じずに済んでいる人は多いはずです。
ただし、この感覚には個人差があることは確か。若い年代ならば夜遊びがまったくできないのは辛いでしょうし、何より夜にこそ仕事をしたい飲食店関係者にとっては切実な問題です。
夜間外出禁止のレストラン事情
18時から夕食というのが珍しくない日本の感覚だと、21時までなら十分に食事ができるのではないかと思われるかもしれません。
けれども、フランスでは夕食は20時スタートというところが多く、レストランの夜の営業開始もほぼ20時。近年は外国のツーリストに配慮して19時台からというところも増えてきてはいますが、それより早くから食事ができるところは、カフェなどノンストップサービスのところ以外ではまず見かけません。
となると、19時台に開店したとしても、お客さんが21時に帰宅できているようにするというのはかなり困難で、ゆっくりと時間をかけて食事を楽しみたい高級店になればなるほど、無理があります。
夜間外出禁止令が発表になると、レストランは苦渋の選択を迫られることになりました。三つ星レストランの「Guy Savoy(ギィ・サヴォア)」、「Pierre Gagnaire(ピエール・ガニエール)」などは、夜のサービスはやめて昼だけの営業。
パラス級ホテル「ル・ブリストル」内の三つ星「Epicure(エピキュール)」、「プラザ・アテネ」内の三つ星「Ducasse(デュカス)」、さらに「Arpege(アルページュ)」でも、夜ばかりでなく昼の営業も取りやめています。
いっぽう、今年三つ星を獲得した日本人シェフ、小林圭さんの「KEI」では、夜のサービス開始を18時からにして、2時間で完結できるコースメニューを提供するという英断に踏み切っています。
新型コロナでレストランと並んで大打撃を受けているのがホテル業界。春からずっと休業というところもパリには少なくありませんが、こんなチャレンジをしているところもあります。
モンマルトルの丘の麓にある「TERRASS HOTEL(テラス・オテル)」は、エッフェル塔がよく見えるルーフトップレストランバーがあることでも人気の4つ星ホテルですが、そこで21時以降でもゆっくりと食事をして、そのままホテルに泊まるというプランを一人135ユーロで提供。
つまり21時以降に外に出ないで朝まで同じ場所にいることを前提としたサービスで、しかも135ユーロというのは夜間外出禁止令に違反したときの罰金と同じ額というウイットが効かせてあるのです。
さて、この続きは28日20時の「ミサ」の後でまたお伝えしたいと思います。