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台風6号発生か 台風にならなくても前線を刺激して大雨のおそれ

饒村曜気象予報士
日本列島の東西にのびる雲と日本の南海上の円形な熱帯低気圧の雲(7月4日17時)

活発な7月の梅雨前線

 令和3年(2021年)は、7月に入ると梅雨前線が活発となり、静岡県から関東の南岸で記録的な大雨が降り、静岡県熱海市では、大規模な土砂災害が発生しました(図1)。

図1 72時間降水量(7月1日から3日の72時間)
図1 72時間降水量(7月1日から3日の72時間)

 神奈川県箱根では、72時間で803ミリと、7月の降水量の平年値425.3ミリの約倍が降っています。

 ただ、1時間降水量の最大値は43.5ミリと、猛烈な雨(1時間に80ミリ以上の雨)が降ったわけではありません。

 激しい雨(1時間に30~50ミリの雨)が降り続いて、この降水量になったのです(図2)。

図2 箱根の1時間降水量の積算(7月1日から3日)
図2 箱根の1時間降水量の積算(7月1日から3日)

 気象庁では、今年6月より、線状降水帯が出現したときは、線状降水帯が発生した旨を告げる「顕著な大雨に関する情報」を発表することとしていますが、その発表はありませんでした。

 静岡県から神奈川県にかけて線状の降水帯が出現し、記録的な雨となったのですが、非常に激しい雨(1時間に50~80ミリの雨)や猛烈な雨の所が少なかったために、気象庁の定義による線状降水帯には該当しなかったためと思われます(図3)。

図3 解析雨量(7月3日3時30分までの3時間雨量)
図3 解析雨量(7月3日3時30分までの3時間雨量)

 しかし、梅雨前線が活発な状態が続くことが予想され、7月1日~3日の大雨以上の雨、線状降水帯による大雨の可能性があります。

日本海側を中心に大雨のおそれ

 今週の梅雨前線は、西日本から東日本の上に停滞し、太平洋高気圧の縁辺を回るように暖かくて湿った空気が流入し続ける見込みです(図4)。

図4 予想天気図(7月5日21時の予想)と熱帯低気圧の進路
図4 予想天気図(7月5日21時の予想)と熱帯低気圧の進路

 気象庁では、早期注意情報を発表し、5日先までの警報を発表する可能性を「高」「中」の2段階で発表しています。

 これによると、7月5日は西日本から東日本の広い範囲で、大雨警報の可能性が「高」または「中」となっています(図5)。

図5 大雨警報の可能性(7月5日朝~夜遅く)
図5 大雨警報の可能性(7月5日朝~夜遅く)

 7月5日の雨の中心は日本海側の地域ですが、大雨が降った東海や関東地方でも雨の降りやすい状態が続いています。

 東海地方では、引き続き土砂災害の危険度が高い場所がありますので、大雨に対する警戒が必要です。

 そして、7月6日以降も、梅雨前線がほぼ同じ位置に停滞し、大雨の可能性が高い状態が続く予報です。

 前述の図4の天気図には、気になるものがあります。

 それは、日本の南海上から台湾付近に北上してくる熱帯低気圧です。

台風になれば6号

 令和3年(2021年)の台風発生は、ほぼ平年並みとなっています(表)。

表 「令和3年(2021年)の台風」と「平年の台風」
表 「令和3年(2021年)の台風」と「平年の台風」

 日本の南海上の熱帯低気圧は、北西進して台湾付近までやってくる予報ですが、もし、台風になれば、台風6号になります。

 ただ、台風にならなくても、南から暖かくて湿った空気を梅雨前線に向かって送り込む可能性があり、今週は、台風の動向にも注意が必要です。

 今から38年前の昭和58年(1983年)は、7月20日から21日にかけて、低気圧が日本海を進んで梅雨前線の活動が活発となり、23日は本州の日本海側を中心に大雨となりました。

 特に島根県西部の浜田では、1時間降水量91.0ミリ(23日)、日降水量331.5ミリ(23日)を観測するなど記録的な大雨となっています。

 全国では、山がけ崩れや土石流、洪水によって死者・行方不明者117名、住家被害約3000棟、浸水被害1万9000棟などの大きな被害が発生しています。

 気象庁は、7月20日から23日にかけての大雨を「昭和58年7月豪雨」と命名したのですが、この時も、沖縄の南海上を台風4号が北西進して中国大陸に向かっています(図6)。

図6 地上天気図(昭和58年(1983年)7月23日9時)
図6 地上天気図(昭和58年(1983年)7月23日9時)

 今週は梅雨前線の動向に注意し、厳重な警戒が必要です。

タイトル画像、図1、図3、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図4の出典:気象庁ホームページに筆者加筆。

図6、表の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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