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ICT・オンライン授業を求める「保護者有志」の動きが活発化 要望を出すPTAやP連が少ないのはなぜ?

大塚玲子ライター
全国で多くの「保護者有志」がアンケートをとるなどのアクションを始めています(写真:アフロ)

 「PTAやP連は、学校や教育委員会に物申すためにこそ必要だ」という声は、ときどき聞きます。保護者個人や有志でも要望は出せますが、PTAやP連にやってほしいという気持ちもわかります。筆者もPTAは、学校に気前よくお金を差し出す代わりに、自治体や国に「ちゃんと予算をつけてくれ」と要求する団体だったらよかったのに、ということは感じてきました。

 ただ、要望を出すPTAやP連は、現状あまり多くありません(*1)。なぜ少ないのか? いくつかの理由が考えられると思います。

 ひとつは「会員の意見が対立する話が多い」こと。PTAは基本的に、各学校の保護者や教職員(の希望者)で構成されるもので、主義主張や趣味を共有する性格のものではありません。そのため大多数がまとまれる話となると予算の要求くらいで、それ以外はあまり多くないように思えます。

 いまなら、ICT活用やオンライン授業の早期実施を求める要望は、ありかもしれません。自治体間で差が広がり、いまだ何も行われない自治体では、多くの保護者が焦燥を感じています。

 実際、沼津市PTA連絡協議会は児童生徒にメールでアンケートを行ったうえで、オンライン授業の早期実施を市長に要望したということです。

 意見が対立しているとき、どちらか一方を「みんなの要望」として提出してしまうことも不可能ではないですが、それをすれば当然、他方の意見の人は不満を抱きます。一般の団体なら、退会者が続出するでしょう。多くのP連やPTAは現状、入退会が不自由なので、気にせず要望してしまう例もたまに見かけますが、後でトラブルになりがちです(共著の『ブラック校則』でも例をあげています)。

 意見対立はなく、各種要望がある場合には「並べて要望する」方法もあります。たとえば、特別支援学校で保護者の要望をとりまとめてきたPTA会長は、こんなふうに話していました。

 「私たちの場合、要望を出す経験は健常児の保護者より多いと思います。ただし、子どもの障害や性質も違うので、意見がわかれるのは当たり前のこと。ですから、まとまった意見として一つの要望を出すというより、多少優先順位をつけつつ、『こんなふうにいろんな要望があるので、できるところから手をつけてください』というスタンスです。ただ、要望の整合性を取るようには気を付けています」

*そもそも「Tと協力する」団体

 PTAやP連が要望を出しづらい2つ目の理由は、その「立ち位置」ではないかと思います。PTAはその名の通り、保護者と教職員(学校・教育委員会など)との協力を目指す団体ですから、そもそも学校側が嫌がる意見は出しづらいところがあります。特に役員さんは、校長や教委の人と直接話す機会が多くなるため、より学校側の意向を忖度しがちです。

 最近も、「ICT活用やオンライン授業を進めるよう、P連で要望を出してほしいとかけあったが(P連の)役員さんに断られて駄目だった」という話を、あちこちから聞きました。

 いま各地で多くの「保護者有志」が、ICT活用やオンライン授業を早く進めるため、保護者アンケートを実施したり要望を出したりしています。こういった「学校や教委の重い腰を押す」類のアクションは、PTAやP連よりも、保護者有志のほうがやりやすいのかもしれません。

 アンケートを実施したある保護者は、こんなふうに語ります。

 「学校や教育委員会は、アンケートを取ることに対し、普段から及び腰です。P連のトップは教委の人たちとふだんから交流があって、仲良くなってしまっているので、たぶん言いにくいと思うんです。なので、別で動くことにしました」

 もちろん、P連やPTAで要望を出す例もゼロではないので、「役員さんの意識次第」という面もあるのかもしれませんが、全体的に見て、PTAやP連が学校や教委を忖度する傾向が生じるのは、ある程度仕方がないことのようにも思えます。

 もし「保護者の要望」をもっと出しやすくしたいなら、PTAでなく「PA」(実質的にTをはずした団体 *2)が必要なのかもしれません。PTAというひとつの団体が「Tと協力する役割」と「Tが嫌がる要望を出す役割」の両方を担うのは、ちょっと難易度が高いように思えます。

*一般保護者の意見を反映する発想がない

 P連やPTAが要望を出しづらい3つ目の理由として、基本的に「一方通行のつくりだから」ということも考えられます。とくにP連は、上(中央)からの要請に下(末端)が応じる流れが多く、一般保護者の意見を反映する仕組みや発想が、ほとんどありません。

 代表の連絡先を公開していないP連やPTAも多いので、一般会員は意見を伝えづらいですし、いまだに多くのPTAやP連は、会員に入会の意思確認すらしていません。そういった団体が「保護者みんなの意見です」と要望を出しても、説得力に欠けるでしょう。

 もし要望を出すなら、意見の公募やアンケート等で、ある程度みんなの意見を聞いてから行うと、説得力が出るのではないでしょうか。

 こういった現状を考えると、自治体等への要望提出は、PTAやP連より「保護者有志」のほうがやりやすそうな印象はあります。

*お得意の資金援助はどうなのか

 なおオンライン授業を早く進めるため、PTAが(お得意の)資金援助を申し出た、という話も聞きますが、これには筆者は残念ながら賛同しかねます。

 たとえばある県立高校で、通信環境や端末がない家庭のため、PTAが通信機能付きの端末を購入するという提案を、ある役員さんがしたそうです。学校から断られて実現しなかったそうですが、筆者もこれは、PTAがやらないほうがいいように感じました。

 とても心ある提案だとは思うのですが(正直、聞いて嬉しく感じました)、こういった費用は公費(税金)をあてるのがスジでしょう。その学校のPTA会員だけで負担する性格のものではありませんし、会費を払っている会員みんなの同意を得ることも難しそうに思います。この社会状況で、家計が悪化している家庭も多数あります。

 また現状のPTAは残念ながら、互助会感覚(自分の子どものため、という意識)の会員も多いので、「PTA非会員家庭の子どもには端末を支給しない」などという話にもなりかねず、万一そんな展開になるなら、手を出さないほうがベターでしょう。

 エアコンの轍を踏むことも予想されます。公立高校のエアコンも、なかなか予算がつかない状況にしびれを切らして一部のPTAが購入し始め、結果、なかなか公的な予算が組まれませんでした。

 もし会員みんなが「すべての子ども」のためを考え、そのような会費の使い方に納得するのであればいいのかもしれませんが、現状のPTAを考えると、残念ですが、おそらく無理かなという気がします。

 いま国は、児童生徒1人1台の端末を前提とするGIGAスクール構想を前倒しで準備中です。いまPTAがお金を出すよりは、有志なりPTA・P連なりで要望を出すほうがいいのでは、と筆者は考えています。

  • *1 ときどきP連が各単Pの声を取りまとめ、議員さんに要望している、という話を聞きますが、中身を聞くと、予算増額の要望ではなく、「限られた予算のなかでどの学校の要望を優先するかという順番の話し合い」ということもあります。それも大事なことでしょうが、これは「予算の要望」とはやや異なるかと思います
  • *2 名前が「〇〇学校保護者会」でも、実質PTAと変わらないところはたくさんあるので、それとは区別しています(PA)。PTAをPAに変える、あるいはPTAとは別にPAをつくるという、2種類のやり方があるかと思います
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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