三代目 J SOUL BROTHERS・ELLY対 秋吉亮の真剣勝負で幕を開けた日本海オセアンリーグ
■ELLY 対 秋吉亮の真剣勝負からスタート
昨年誕生した日本海オセアンリーグ(NOL)が4月2日、開幕した。既存の独立リーグとは違った斬新な取り組みを数々打ち出しているニューリーグだが、その大きな特徴は「セントラル開催」だ。4チームが1球場に集まり、1日に2試合開催される。
この日は滋賀GOブラックスの本拠地である「オセアンBCスタジアム彦根」で幕を開けた。
野球ファン以外にも多く訪れてもらいたいと用意された目玉企画は、開幕セレモニー後の福井ネクサスエレファンツ・秋吉亮投手(東京ヤクルトスワローズ―北海道日本ハムファイターズ)と三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのELLYさんとの1打席対決だ。球場にはELLYファンが数多く駆けつけ、スタンドはさながらコンサート会場のように盛り上がっていた。
イベントとはいえ真剣勝負だ。秋吉投手は初球、自身の代名詞であるスライダーから入って空振りを奪うと、2球目はストレートで見逃し、続いてスライダーで空振り三振に仕留めた。豪快なスイングを見せながら、まさかの3球勝負に敗れたELLYさんは、悔しがりつつも清々しい笑顔を見せた。
■ELLYさん「思い出に残る3球」
対決に向けて「動画、めちゃめちゃ見ましたよ」とイメージトレーニングをし、バットを振り込むなど準備バッチリで臨んだというELLYさんだったが、「打ちたいなと思ったけど、実際に打席で見るとやっぱり動画とはまったく違って、ボールが大きく見えて、すごい曲がりでほんとにビックリした」と目を丸くした。
「僕も全力で、ダメでも思いきり振っていこうと思ってたんで、3球で終わったけど、ほんとにいい3球で、思い出に残る3球でした。僕も野球大好きでプロを目指していた。僕の夢でもあるプロ野球のトップの人と対決できたのは僕の宝ものになった」。
今後も野球とエンターテインメントを融合し、ハーフタイムショーなどで一緒に盛り上げていきたいと意欲を見せるELLYさんは、野球少年に戻ったかのように瞳をキラキラ輝かせていた。
一方、「たぶん全球ホームランを狙ってくると思ったんで、最初は自信のある球で空振りを取りたかった。持ち味がスライダーなので」と意図を明かした秋吉投手。
「パワーがすごいんで、少しでも抜けて(バットに)当たったらホームランいくやろと思ったんで、そこはしっかり投げて、真剣勝負でやった」。
ただ、キレもコントロールも自分でも思った以上だったようで、「2球目のまっすぐもよかったし、最後、空振りを取ったのもストライクからボールになる球で、ビタビタでちょっと申し訳なかったです」と、“予想外の好投”に頭をかいていた。
■第1試合は滋賀GOブラックスVS福井ネクサスエレファンツ
さて肝心の開幕戦、第1試合は滋賀GOブラックス対福井ネクサスエレファンツの一戦だ。
前半、1―4と福井がリードしたが、六回、大﨑太貴選手のグランドスラムなどで6得点のビッグイニングを作った滋賀が逆転。さらに七回に1点追加して、8―4で滋賀が開幕星を挙げた。
逆転勝ちを収めた滋賀・柳川洋平監督は、「あのまま1―4で終わるような展開ではなかったので、まだいけるなっていうのは感じていた。ただ、あそこで満塁ホームランっていうのはなかなか…よく思いきりいったなというのはあります。あそこは大﨑を褒めるしかない。秋から冬に選手たちはかなり練習を頑張ってたんで、だから慌てないというか、逆転できるというのは感じながらやったと思う」と相好を崩した。
「去年はBCリーグを盛り上げようとやってきた。それまで4年連続最下位できていたのを、なんとか選手と一丸となって頑張って西地区優勝という結果がついてきた。盛り上げようという気持ちは、新リーグになった今年も変わらない。ただ、去年がマグレだったんじゃないかと感じる方もいると思うので、選手にも『今年が勝負だよ』っていう話をしている」。
リーグは変わってもやることは同じだと強調する。選手に対してもこれまでと同様だ。
「選手に言うのは、どっちかというとメンタル的なこと。結果が出ないとどうしても落ちちゃうんで、そこは結果が出なかったら使ってるこっち(首脳陣)がダメなんで、こっちのせいにしろ、結果が出たら自分の手柄にと言っている。それで気持ちは楽にできているんじゃないかな。責任を取るのは指導者の役目だと思うんで。あくまでもやってるのは選手。そこは使ってる選手を信頼して送り出している。だから、やってきたことをそのまま出していってもらえれば。NPBを目指してやるのはもちろん、スポンサーさんや県のために全力で戦う。負けていい試合なんてないので、常に上を目指してやっていきたい」。
熱く意気込みを語った。
敗れた福井の南渕時高監督は「選手は一生懸命やっている」と、まずはナインを労い、「結果は俺の責任。いいところもあったし、所詮は60分の1なんで、明日からまた一致団結してやっていく。ミスから点は取られたけど、これはもう一回修正してきちっとやる」と前を向いた。
積極的に足も使い、安打数も13と滋賀の9を上回ったが、後半、加点することができなかった。
「やっぱり走って走って、かき回していく。隙があったら走るという、スカウトにも『こういうこともできるんだな』と見てもらえるように、思いきってやってくれたらいい」。
選手たちの一番の目標であるNPB入りへ向けて、できるだけバックアップしたいと語る。
創設されたばかりの新しいチームだ。「常に『和』『絆』をたいせつにしている。レギュラーの子もいるし、サブの子もいる中で、常にみんなで戦う。全員で一致団結して戦うというのをずっと思ってる」と、チームワークを高め、選手個々には「どんどんトライ、チャレンジしてほしい」と説く。
「無駄なことは何ひとつない。俺もそうだった。指導者に言われたことも、自分で考えたことも、まずはトライした。それでちょっとずつレベルが上がっていった。これをやったらあかんということは何もない。練習の無駄、ゲームの無駄はない」。
トライ&エラーを繰り返すことで成長していくのだという。
「それと、明るく元気にね。これはミーティングでも常に言っていること。選手と一緒に野球小僧になってやっていきたいね。福井県民に元気を届けていきたいなというのが開幕前のみんなの合言葉なんで、それで『お!いいな』『福井、何か違うな』と思ってもらえればいい」。
とびきり明るい監督のもと、ナインは生き生きとプレーしている。
■第2試合は石川ミリオンスターズVS富山GRNサンダーバーズ
第1試合が終了し、1時間半後の午後4時10分に第2試合が始まった。石川ミリオンスターズ対富山GRNサンダーバーズの戦いだ。
石川が3点先制するも富山が追いつき、また石川が勝ち越すも富山が同点にするという展開だったが、七回に富山が一気に5得点して6―9で勝利した。
富山の吉岡雄二監督は「いいスタートが切れてよかった。みんなが積極的にいってくれたので雰囲気がよかった」と満足げに振り返った。
「(コロナ禍の影響で、開幕前に)実戦1試合しかできなかった中で、まず積極的にいこうという話をして、ほんとにみんな…特にバッターはファーストストライクからいってくれてたんで、非常に内容がある打席が多かった」。
課題に挙げたのは、セントラル開催の難しさだ。まず1つ目は試合前練習ができないこと。
「練習しないで試合に入る難しさも伝えながら、準備の仕方も言っていきたい。球場によって動くところも制限がかかる。外でできるところもあると思うので臨機応変に、なるべく選手たちに不備がないよう、バッティング以外のところはしたい。今日は早めに準備はしたけど、グラウンドに入ってからバタバタした。もう少しやらないとリズムもわからないかな」。
もう1つは2時間半を超えると次のイニングで打ち切りという、時間制限のルールがある中での投手運用だ。「ピッチャーの準備の仕方っていうところが鍵になってくるかなと思った。時間が決まっちゃえば落ち着くところがあるけど」と話すように、何回までになるかは試合展開による。残りイニング数によって投手起用は変わってくるのだ。
「球速も出るピッチャーがそろっているので楽しみ。でも後ろで投げるピッチャーがイニングが削られちゃうところがあるので、そこの試合の重ね方はちょっと難しいところはあるのかなと思う」。
タイトなスケジュールが課される中、戦っていきながら、よりベターな方法を探っていくしかないようだ。
実戦としては2試合目で、まだ選手の能力すべてを把握できているわけではない。「良さも含めて、まだ見えてない部分はあると思う。ミスも出ると思うけど、そこも逆に出ていい。ミスを怖れずやらせながら、段階を踏んでいけたら」と、積極性を大事にしていく。
今後も2日間の開催でなるべく全員を起用していきたいと明かした。
石川の後藤光尊監督(兼任選手)は「練習のときとは違う、緊張している選手が多かったなっていうのがあって、動きは硬かった。寒さもあるけど、条件は一緒なんで。それを差し引いても硬い選手が多かった」と指摘した。
そしてやはり初のセントラル方式についても言及する。
「初めてのことなんで、経験したことのないやり方なんで、手探りではあるけど、やっぱりバッティング練習をせずにゲームに入っていく難しさとか、球場の形状を確認する時間がなかなかとれないという難しさっていうのはある。加えると時間制限とかもあるので、ピッチャーの継投とかも…」。
やはりかなり困難なようだ。しかも監督に就くこと自体も初めてなのだ。「ピッチャーの継投に関しては僕も今までやったことないし、すべて僕自身も挑戦と思いながらやっている」と全力で取り組んでいる。
目指す方向性としては「ピッチャーを中心にしっかり守って、長打というよりは繋げて繋げてっていう意識を持ちながら得点していく。それに足も絡めながら得点していく」というチームで、「ある程度の選手は走れる選手ばかりなんで、そのへんをうまく絡めていけたら得点力も上がるかな」と、足が大きなカギを握るようだ。
「去年、BCリーグ12球団で打率最下位か下から2番目だった。っていうところも踏まえると、元々打つことに関しては僕自身も信用してないというのもあるので、しっかりと守備が安定していけば、打つほうにもリズムが出てくるかなというところは感じている」。
また投手陣に関しては「幸いにして先発の数はそんなに要らないので、後ろにレベルの高いピッチャーを置ける。ポテンシャル的にも高い選手も多いので、期待している」と、ほぼ土日の開催であることを生かしていく。
自身も選手兼任監督として新たな挑戦の年となる。
■開幕戦の手応えと今後の課題
日本海オセアンリーグを立ち上げた代表の黒田翔一氏は、711人(第2試合も合計すると902人)を集めたスタンドを見渡して「可能性をかなり感じる」と話した。「野球ファンを飛び越えたファンに来ていただかないといけない。エンターテインメントとして場所を提供できれば」とELLYファンが作ってくれた、これまでの野球場にはない空気感に手応えを得たようだ。
「ELLYさんのファンに『オセアン』『日本海』というのが頭には完全にインプットされたんで、それを今後どうアウトプットしていくか。これをアーティストの方だとかに繋げていくイベントをもっともっと企画したいと思っている」。
そう意気込んだ。
初めての試みである「セントラル開催」にも「ファンの方、スカウトの方も1か所で見られる。1日で全部見られるのは圧倒的なメリット。4球団のファンが集まるので人数が増える」と強調する。
「野球は時間が長いスポーツ。セントラル開催をする目的の一つが2時間半、3時間で終わらせようっていう、これも一つの新しいエンターテインメントだと思う。野球が長くなくて見れるスポーツだっていうのを、僕らが証明したい。それも新しい取り組み。高校野球があれだけ走ってキビキビして…それは我々もやってきたので」。
スピードアップすることで、より野球の魅力を周知させるのだという。
ただ一方で、デメリットも理解している。試合と試合のインターバルの1時間半という長さだ。スタンドで何もなく過ごす1時間半はきつい。しかも、この日のようにかなり風が冷たく寒い日だとなおさらだ。
「ELLYさんもおっしゃっていたように、間にハーフタイムショーができる。これってなかなか野球界ではなかった。これが間にできれば、もっとお客さんも増えると思う」。
これまでは試合前か試合後にしかできなかったイベントをインターバルに開催できることが、逆にメリットに転換できると目論む。
集客は今後も課題だが、イベントだけでなくNPBとの試合など目玉企画は多数あるという。「継続力イコール体力だと思っているので、もちろんお金をかけるとかそういうことではなくて、日々の継続だと思う」と黒田代表。
船出したばかりの日本海オセアンリーグが今後、試行錯誤を繰り返しながらどのように発展していくのか、見ていきたい。
*日本海オセアンリーグの開幕シリーズは次週も続く。
4月9日の石川ホームゲームは金沢市民球場にハンカチ王子こと斎藤佑樹氏(元北海道日本ハムファイターズ)を、10日の富山ホームゲームはボールパーク高岡に石橋貴明氏(とんねるず)、ゴルゴ松本氏(TIM)をそれぞれゲストに招く。
(表記のない写真の撮影は筆者)