攻撃の最重要指標、出塁率。鳥谷と阿部がハイレベルな争い
セイバーメトリクスは出塁率を非常に重要視する。得点は打率よりも出塁率や長打率の方が相関関係が強いからだ。セイバーメトリクスを一躍有名にしたマネー・ボールでも出塁率重視のチーム作りを行った様子が描かれている。
ヤンキース打線を超えた年俸95万ドルのメジャー失格選手
肘に故障を抱え送球に難のある32歳、打率が2割台中盤の控え選手・ハッテバーグは、所属球団から年俸半減を言い渡されると契約を拒否。結局、両者の話し合いは決裂に終わり所属球団の交渉権が期限切れを迎えた。するとそのわずか1分後、真夜中の午前0時1分にハッテバーグの代理人にアスレチックスからの電話連絡が入る。メジャー29球団が全く相手にしなかった選手に、なぜか1球団だけが熱烈なラブコールを送った。
ハッテバーグの特徴は出塁率の高さだった。それに加え、打席にいる時間が非常に長い=1打席当たりの投球数が多い。
初球を振らない率
見送り率
においてはリーグトップクラス。“どちらもささやかな分野の統計だが、ふたつ揃うとそれなりの意味を帯びる。”と原作の中でも表現されている。
また、球にバットを当てるのがうまく、ツーストライクに追い込まれてからでもよく安打を放つ。
「三振を恐れるな。しかし三振するな」
というアスレチックスの理想を見事に体現していると言えよう。
対照的に、初球からガンガン振って行くタイプの選手は、打率が4割を超えていたにもかかわらず干されていた。
ハッテバーグ9人でチームを組めば何点入るかを計算すると、予想される総得点は940~950点。ちなみにこの年、重量打線を誇るヤンキースの総得点が897点だった。
ビリー・ビーンが発掘したメジャー失格の烙印を押されたベテラン目前の選手の攻撃力は、開幕時点のチーム総年俸で3倍以上の開きがあった金満球団を上回っていた。
出塁率の阪神×巨人
現在の日本球界で選球眼の良い選手と言えば、阪神・鳥谷であることに異論は無いだろう。実際、昨季もセリーグトップとなる104四球を選び、ボール球の見極め率87.20%は12球団トップの数字。三振1つ当たりいくつの四球を選んだかを示すBB/Kでも1.60で12球団トップの成績を残している。
もう1人注目したいのが、BB/K1.46で2位につけた巨人・阿部。昨季の四球数は86で鳥谷とは20近い差があるが、フルイニング出場を続けている鳥谷よりも114打席少ない。
PA/BB(Plate Appearances per Base on Balls)
四球を1つ選ぶまでに要する打席数を示し、数値が小さいほど優秀とされている指標を見ると
阿部6.15
鳥谷6.18
とわずかながらも上回る。
IsoD(Isolated Discipline)
出塁率-打率で計算し、四死球によって出塁した割合を示す指標でも阿部は鳥谷の0.125を上回る0.131を記録している。
明らかに勝負を避けた場面でも、投球前に捕手が立ち上がらない限り故意四球ではなく普通の四球と記録されるため、四球の割合を見ても純粋な選球眼が数字に表れていないかもしれない。実際、阿部のボール球見極め率は78.39%で鳥谷より10%近く低い。
ただもちろん敬遠でも出塁率は上がる。敬遠数の多さは強打者の証。また、マネー・ボールの中でアスレチックス傘下のマイナーリーグチームには
打者はすべて、ホームランを放つパワーを養え。本塁打の可能性が高ければ、相手ピッチャーは慎重になるので、四球が増え、出塁率が上がる。
という鉄則が示されていた。
阿部は長打力のイメージが強いが、出塁率もバレンティンに次ぐリーグ2位の.427と好成績を残す。
鳥谷の選球眼はピカイチで、阿部の出塁率も目を見張るものがある。昨季、出塁率が4割を超えた日本人選手は鳥谷と阿部だけ。阪神と巨人、それぞれのチームで主軸を打つ2人が今季も伝統の一戦で塁上を賑わせてくれるだろう。