英語表記に観光が入っている国土交通省は、Go Toトラベルを行い、外局の気象庁と共同して洪水予報
国土交通省の誕生
平成13年(2001年)1月6日、中央省庁再編に伴い、運輸省、建設省、北海道開発庁、国土庁の4省庁を統合して国土交通省が誕生しました(表)。
国土交通省の英語表記は、国土(land)、建設・インフラ(infrastructure)、交通・運輸(transport)から、「Ministry of Land, Infrastructure and Transport」となりました。
この時の中央省庁再編は「政治主導」が看板で、目玉は内閣機能の強化でした。
また、政策の企画・立案を政治主導で進めるため、新たに「副大臣」と「大臣政務官」を各省庁に配置しました。
そして、国土交通省のほか郵政省・自治・総務の3省庁が統合した総務省が発足するなどして1府22省庁体制が1府12省庁に整理・統合となり、独立行政法人が発足して国家公務員が大幅削減となっています。
初代国土交通大臣
第2次森内閣で建設大臣・国土庁長官として初入閣した林寛子(芸名は扇千景)保守党党首は、中央省庁再編をにらんだ平成12年(2000年)12月6日の第2次改造森内閣では、運輸大臣と北海道開発庁長官も兼務しています。
そして、国土交通省発足と同時に、初代の国土交通大臣になっています。
当時、筆者は気象庁企画課や予報課に在籍しており、国土交通省とのやりとりには直接関与しない部署でしたので、林寛子(扇千景)国土交通大臣にお目にかかったことはありません。
ただ、気象庁幹部の次のような話から、発足したばかりの大所帯をまとめるすごい力があったと思いました。
・視察に出かけた時は、視察先の責任者の名前を素早く覚え、挨拶では、名前を織り込んで大切な仕事をしておられると労をねぎらい、ご活躍はご家族の支援があってのことと思いますと述べています(視察先でフアンを増やしています)。
・幹部職員に対しては、「頭の良いあなた達だからできると思うけれど、私がわかるように分厚い資料には分かりやすい分かり易い概要の紙を1枚つけてちょうだい」と要求し、以後は1枚の図入りの概要をつけるのが定番となっています(分かり易い資料に変わりました)。
・幹部職員が説明した内容は、全面的に信用し、マスコミ等からの非難に対しては「優れた人たちがしっかり考えてのことなので間違いはない」と全力で守っていますが、幹部職員が説明した内容はそのまま公表しています(ごまかした説明ができなくなっています)。
国土交通省の英語表記とGo Toトラベル
平成20年(2008年)1月8日から国土交通省の英語表記が「Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism」に変わっています。
同日、観光振興の担当部署を統合した「観光庁」が発足したことから、「観光」を意味する「tourism」が加わったためです。
平成18年(2006年)12月に観光立国推進基本法が成立した際には、衆参両院とも観光政策の充実に向けて観光庁設置の実現を求めて決議が行われていました。
国土交通省の日本語表記はそのままで、国土交通観光省になったわけではありませんが、観光が国土交通省の重要な政策であることが英語名の変更にあらわれています。
新型コロナウィルス感染症の流行によって疲弊した経済を立て直すため、政府は令和2年(2020年)4月7日に16兆8057億円にのぼる令和2年度(2020年度)補正予算案を閣議決定しています。
この内、1兆6794億円が旅行・飲食・イベントなどの需要喚起事業としての「Go To キャンペーン」です。
農林水産庁の「Go To Eat」(飲食キャンペーン)、経済産業省の「Go To イベント」(エンターティメントキャンペーン)と「Go To 商店街」(地域振興キャンペーン)とともに、国土交通省の「Go To トラベル」(観光キャンペーン)が柱でした。
国内旅行の費用を補助する「Go To トラベル」を国土交通省が行っているのは、外局に観光庁があるからです。
冬柴鐵三国土交通大臣の閣議後の会見要旨(平成20年(2008年)1月8日)
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。…本日から国土交通省の英語による表記に「トゥーリズム(Tourism)」を加えることとさせていただきました。…これまで、私も観光行政等で外国を8回訪問させていただいていますが、観光行政は諸外国への積極的な対応を行う機会が非常に多いにもかかわらず、国土交通省の英語名称に「トゥーリズム(Tourism)」が含まれておりませんでした。今般観光庁の創設が政府レベルで認められたことを契機として、この機会に名称を改めることとしたものです。…
国土交通省以外でも、日本の官庁組織を英訳した時、意味が違う例が総務省です。
総務省の英訳は「Ministry of Public Management, Home Affairs ,Posts and Telecommunications」で、直訳すると、「公営、内務、郵便と遠距離通信省」となります。
「河川を指定した洪水予報」は気象庁と国土交通省が共同で
表記だけでは内容が分からないのは、国土交通省の「観光」だけではありません。
国土交通省の行う「河川を指定した洪水予報」も同じです。
国土交通省が発足するまでは、水防活動用の「河川を指定した洪水予報」は、建設省が気象庁の属する運輸省に申し入れる形で両省の共同業務としてスタートしています。
このため、気象庁は国土交通省の外局ですが、水防活動用の「河川を指定した洪水予報」については、過去の経緯から、法律上は、別の組織として扱われています。
つまり、「河川を指定した洪水予報」に関しては、気象庁と国土交通省は同格です。
気象業務法
第14条の2 気象庁は、政令の定めるところにより、気象、津波、高潮及び洪水についての水防活動の利用に適合する予報及び警報をしなければならない。
2 気象庁は、水防法(昭和24年法律第193号)第10条第2項の規定により指定された河川について、水防に関する事務を行う国土交通大臣と共同して、当該河川の水位又は流量(はん濫した後においては、水位若しくは流量又ははん濫により浸水する区域及びその水深)を示して洪水についての水防活動の利用に適合する予報及び警報をしなければならない。
表の出典:国土交通省ホームページをもとに筆者作成。