現役女子サッカー選手が起業!ジェフ千葉レディース十川ゆき選手がABUでの学びを活かしケーキ会社創業
現役女性アスリートの起業、絶品チーズケーキはいつも完売
JFAアカデミー福島を卒業後、単身でスペインへ渡り、スペイン2部でプレーしていたプロサッカー・十川ゆき選手。
現在は日本に帰国、ジェフ千葉レディースに所属し現役アスリートとしてプレーしている。一方で、個人で新しい挑戦を始めている。バスクチーズケーキブランド「Lore」を立ち上げた起業家でもあるのだ。
十川選手はYahoo!記事でも扱ったABUでビジネスを学んだ一人のアスリートだ。今回はその十川選手とABUの代表でもある中田 仁之さんに、彼女がスペインに挑んだ理由やバスクチーズケーキブランドを立ち上げた経緯について伺ってみた。
(*記事中の画像で表記がないものは十川選手本人からの提供)
スペイン人監督との出会い、スペインリーグへの挑戦
ーまず、なぜ高校を卒業してすぐにスペインへの挑戦を考えたのか、経緯を教えてください。
十川 中学生の時です、フランというスペイン人の監督にサッカーを教えてもらったことがきっかけでした。私は大阪府出身で中学からJFAアカデミー福島に行ったのですが、2011年の東日本大震災をきっかけに中高6年間をアカデミーが引っ越した静岡で過ごすこととなりました。
中学2〜3年生の時にフランにトレーニングを教えてもらい、ミーティングの内容を見せてもらったことが私のなかでとても面白かったと印象に残ったのです。「これがサッカーなんだな…」と強く感じた瞬間でした。
ー日本のサッカーと、具体的にどう違いましたか。
十川 日本のサッカーと比べて身体よりも頭を使うトレーニングメニューが多いと感じました。私もスペインに行けばこんなトレーニングがもっと積めるのかもしれないと考えるようになったのです。
スペインを含めヨーロッパはサッカーが進歩していると考えていたので、中学生活の終わりくらいには、そんな先進的な場所で自分も現地のサッカーを体感したいと考えはじめました。高校に上がったあとは、監督に頼んで実際に1週間ほどスペインに行かせてもらい、練習に参加させてもらっていたこともあります。
そして高校を卒業の際です。いろいろな選択肢があるなかで「やっぱりスペインに行きたい!」という気持ちが強く、「この気持ちが変わらないのなら、行ってしまおう」と思って行くことを決断しました。
ースペインではどのチームに所属されていましたか?
十川 最初の1〜2年目は、レアル・オビエドというスペインの北のほうにあるチームでウイングサイドとしてプレイしていました。そこから3年目はラシン・サンタンデールに所属しました。
ー実際にスペインでサッカーをしてみて、日本と大きく違うと感じた部分を教えてください。
十川 最初のインパクトとして球際の強さが日本とはまったく違っていましたね。相手から潰しに来られるというような迫力を、初めて練習させてもらった時に気がついて驚きました。
また、対戦チームによって毎週戦い方が違っていたので、最初は疲れていました。ただ、頭の中で情報を入れ替えて戦ううちにだんだん慣れてきて、自分のなかでも大きな学びになりました。
ー十川選手としての強みは、チームでどのように活かせましたか?
十川 私の強みはボールを受けてから前を向いた時、攻撃のスタートまで時間を作れること、攻撃のリズムを作れるところです。
その部分はスペイン人はあまり持っていないところだったので、強みとして活かすことができ監督もうまく活用してくれました。
シーズン途中は試合に出られない時期もありましたが、それでも試合の後半に出場したり、勝っている試合ではすぐに出してもらえたので、3年を通して試合に出場出できた割合は高かったように感じました。
異文化の体験、そして日本への帰国
ー慣れないスペインでの生活面で驚いたことや、苦労はありましたか?
十川 大きく困ったことはなかったですね、言語はもともとまったく知らなかったのです。でも、出身が大阪であるというのが影響しているのか知らない人に話しかけるのも好きなので、いろいろな人に話しかけているうちに意外にすぐに言語を習得することができたのです。
日本でも本を読んだり、スペイン語版のアニメを見たりして学んでいましたが、実際にスペインに行ってからのほうがずっと早く話せるようになりました。スペインは食事もおいしいですし、思ったよりもすぐに馴染めました。
ーその後、1度帰国されることになった理由を教えてください。
十川 理由は2つあります。1つはスペインのサッカーを知りたいという気持ちで現地に行き、サッカーや街の雰囲気がわかってきて私のなかでスペインにシフトチェンジできてきていると感じたこと。スペインモードになっている今の自分が、日本に帰ったらどんな気持ちになるのか知りたかったのです。
2つ目はワールドカップが開催され、自分も一旦日本に帰ろうと思ったことです。大きなスポーツのイベントに参加したいという気持ちがありました。
ージェフ千葉レディースに入って半年が経ちましたが、現在のチームの印象はいかがですか?
十川 みんな明るくて、選手同士がすごく仲の良いチームだというのが第一印象でした。ジェフ千葉レディースはユースから上がってきた選手も多く、所属歴が長い選手が多いので、自分が入ることに抵抗を感じられるかと思っていましたが、どの選手にも温かく迎え入れていただけました。おかげで現在も楽しくプレイができていますね。
ABU受講を機にバスクチーズケーキブランドの立ち上げへ
ーそんな十川選手が、ABUを受講されたきっかけはなんですか?
十川 私はサッカーはもちろん大好きですが、他のことにも興味があって。なにか新しいことをやってみたいという気持ちが常にあるんです。
これから現役として選手をやっていくなかでも、何か別のことをやるんだろうなという予感がありました。でも、そのためには知識は入れておいて損はないと考え、2022年2月くらいにABUを受講させていただきました。
実際にABUに入る直前くらいに現在やっているバスクチーズケーキの事業に興味があったのですが、やり方がまったくわからなかったんです。
その際にABUで受講したのが、「自分で事業を始めるにはどうすればいいのか」という内容の講座。自分でやりたいと思うことに必要な授業をピックアップできたので、何も知らない状態だったところから、自分の目標を叶えるためのステップアップを着実に踏めた感覚がありました。
ーバスクチーズケーキの事業を始めたきっかけはなんですか?
十川 まず、私自身がバスクチーズケーキが大好きなんです(笑) いろいろなレストランに行ってバスクチーズケーキを食べ歩いた経験から、オリジナルのバスクチーズケーキのレシピを作っていたんです。
でも、レシピがあったところで自分1人では何もできることがなかったのですが、ちょうど中田さんとzoomでお話しをさせていただき「一緒にやろう!」と言ってもらったことが事業を始めるきっかけとなったのです。
「どうすれば事業を現実にすることができるのか?」
と考えました。まず、工場を探して、チーズケーキを製造してもらい、オンラインで販売するのがいいのではないかと考えました。なので、最初は工場探しからはじめました。
ー資金調達などはどのように進めましたか。
十川 最初の資金集めやプロジェクトの拡散のためにクラウドファンディングを実施することを決めました。そこから半年くらいですべての準備をして、私が日本に帰国した段階でクラウドファンディングをスタートさせました。
2ヶ月程度のクラウドファンディングでしたが、50万円の目標達成額を大きく上回る140万円に到達することができました。現在は予約販売のみですでに予約は締め切っており、今後は月に1回程度は受注生産で販売していきたいと思ってます。
ーでは今度は中田さんのお伺いします。十川さんの事業に協力したいと考えた理由を教えてください。
中田 彼女がスペインにいたころにチーズケーキの事業について話を聞いていたとき、彼女はただチーズケーキでお金儲けをしたいのではなく、稼いだお金で少年少女のサッカー普及を支援をしたいという社会性のある思い持っていることを知ったんです。それなら、この事業は広がるだろうと考えて一緒にやろうと話をしました。
彼女は最初から工場任せにするのではなく、スペインにいる間に自分で食べ歩いておいしいと思ったチーズケーキを作っていたんです。何度も材料や作り方を工夫してレシピを生み出したという努力に、この子は自分で頑張れる子だと感じました。
実際に彼女の作ったチーズケーキはとてもおいしいですし、僕も周りの人にたくさんプレゼントしています。皆さん喜ばれているのも、素晴らしいところです。
ー実際に中田さんはこのビジネスでどんなサポートをされていますか?
中田 試食の段階からクラウドファンディングの設定や販売価格の設定などをフォローしました。現在は十川選手の予約販売の拡散や、飲食店へデザートとして卸すことができないかと提案しているところです。
十川 中田さんからはいつも「やってみよう!」という精神を教わっています。挑戦するけれど、しっかり自分の頭で考え、人を巻き込んだり、リスクヘッジする方法については非常に勉強になっています。
「チーズケーキで女子サッカーを盛り上げたい!」
ー十川さんのように事業をされる選手がいるなかで、ABUは女性アスリートに関するプロジェクトをやっていると聞きました。詳しく教えてください。
中田 ABUにはサッカーやラグビー、バスケやソフトボールなどさまざまなスポーツの女性アスリートが在籍しています。そんななかで、女性アスリートならではの課題があるのです。
一つは競技者人口を増やすこと。2つ目は、ファン・観客を増やしたい。そして、3つ目が女子スポーツを盛り上げたいということです。
それぞれがそれぞれのチームで頑張っていますが、横で連携するという動きはこれまでありませんでした。そこで、ABUがその横串となり、ABUの女性アスリートが集まるイベントを開催したり、商品を開発しようとプロジェクトを立ち上げました。
もう一つとして、女性アスリートに特化した化粧品を作ろうという企画が立ち上がりました。疲労回復のためのマッサージクリームなど女性アスリートならではの悩みを解決するプロダクトを考えています。
商品開発をするために、いろいろな方の意見や開発資金を集めようと、今回2月1日からフィナンシェでトークンを発行しています。ABUでトークンを発行するのは、これが初めての取り組みになります。
ー最後に十川さんの今後の目標を教えてください。
十川 おいしいチーズケーキを作れた自信はあるので、たくさんの人に食べてほしいという気持ちがあります。また、それをきっかけに女子サッカーがもっと広がってほしいと思っています。
女子サッカーとチーズケーキはまったく違うジャンルではありますが、別の角度から女子サッカーを知ってもらい、面白がってもらう第一歩になってほしいです。
(了)