1300日超の拘束、精神崩壊、自殺未遂―難民男性ら「入管自体が違法」「国連のルール守れ」と提訴
難民その他、帰国できない事情を抱える外国人に対し、出入国在留管理庁(入管)がその収容施設に無期限に長期間、拘束(収容)している問題で、入管の法制度自体を問い直す裁判が始まろうとしている。難民申請中の外国人男性2人が自身が長期間収容され、精神的・身体的な苦痛を受けたことについて、今月13日、国に計約3000万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴。司法審査が無く、入管の裁量のみで長期収容を行なっている日本の入管制度そのものが、国際人権規約に反する違法なものだと訴えている。
○難民男性2名が提訴
今回、訴訟を起こしたのは、イラン出身のサファリ・ディマン・ヘイダーさんと、トルコ出身のクルド人であるデニズさん(安全のため名字は非公開)。2人とも祖国から迫害を逃れて来日、難民申請を行なったが、入管側は難民として認めず、収容施設に2人を収容した*1。サファリさんは2016年6月から2020年4月まで収容と仮放免、再収容を繰り返され、合計の収容日数は1357日にも及んだ。体重が激減し吐血するなど健康状態が悪化。精神面でも、うつ病を発症し、自傷行為を繰り返すようになったという。デニズさんも、2009年12月から2010年8月および、2016年から2020年4月にかけ、計1384日間、収容・再収容が繰り返された。デニズさんは、難民認定申請を行なったものの認められず、2011年に日本人女性と結婚したにもかかわらず、在留資格を得られず*2、収容されてしまった。精神的に追い詰められたデニズさんは自殺未遂を繰り返すようになり、また2019年の1月に入管職員達により集団暴行を受けた。現在は、サファリさん、デニズさん共に仮放免されているが、収容中の精神的なダメージは深く、現在も食欲不振や不眠などに苦しめられているという。
○入管収容は国際人権規約に反する
今回の訴訟が極めて大きな意味を持つのは、サファリさんとデニズさんらの収容のみならず、そもそも日本の入管が行なっている収容自体が、自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)に反するものではないか、と問うていることだろう。サファリさんとデニズさんの長期収容について、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会(以下、国連WG)が2020年9月25日付で意見書をまとめている。同意見書は、サファリさんとデニズさんの長期収容は、「合理性、必要性、比例性のない拘禁」であり、自由権規約の第9条1項で禁じられている「恣意的な拘禁」にあたると指摘。個人の身体的な自由を奪うことは極めて重大な人権の制限であり、毎回、入管側の出頭に応じるなど逃亡の恐れがないサファリさんとデニズさんを収容する必要性や合理性がない上、1300日以上という長期間、その自由と心身の健康を奪うことは、比例性*3という点でも大きな問題があるというわけだ。
さらに、国連WGは、入管が裁判所の審査なしに、その裁量で長期収容を行なっていることについて、自由権規約第9条4項に反すると指摘している。
自由権規約第9条4項:
逮捕又は抑留によって自由を奪われた者は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する。
つまり、現在の入管行政及び入管法自体が自由権規約第9条4項に反しているというわけだ。なお、自由権規約第9条5項では「違法に逮捕され又は抑留された者は、賠償を受ける権利を有する」とあり、今回、サファリさんとデニズさんは主に、この条約に基づいた賠償請求を行うのだという。
13日、都内で行なわれた会見で、サファリさんとデニズさんの弁護団の浦城知子弁護士と高田俊亮弁護士らは「条約は国内法の上位法であり、自由権規約は入管法を上回る」と指摘。自由権規約に反する入管収容は違法なものだと裁判で訴えていきたいとの意欲を示した。また、同弁護団の鈴木雅子弁護士は「裁判所は条約について判断を避ける傾向があるが、今回は恣意的拘禁作業部会の意見書という具体的なものがある。しっかりと判断してほしい」と語った。
○入管は国連のルール守れ
会見では、サファリさんとデニズさんも発言。サファリさんは「日本の司法を信じています」「自分たちもそうだが、他の外国人の人権も守ってほしい」と呼びかけた。デニズさんも「入管のスタッフは『ルール守って』といつも言うけど、なんで国連のルールを守らない。(私達を)いじめて、精神的暴行やってる人もいる。それはルール違反です」と入管こそがルールを守るべきだと指摘した。
サファリさんとデニズさんの提訴について、入管庁は筆者の取材に対し、「現時点ではまだ訴状が届いていないが、届き次第、内容を確認して適切に対応したい」とコメントするにとどまっている。
本来であれば、昨年9月に国連WGからの意見書を受け、日本として、入管法や入管行政のあり方を見直すべきだったのだろう。だが、昨年、政府与党が国会に提出し、結局、成立を断念した「入管法改正案」は、裁判所による収容の審査も、収容期間の上限も盛り込まないなど、国連WGからの意見書を無視したものだった。相次ぐ入管施設での人権侵害が国内外から問題視される中、サファリさんとデニズさんの裁判を機に、真の入管改革が行われるべきだろう。
(了)
*1 国連WGは、その意見書で「日本においては(難民として)庇護申請をしている個人に対して差別的な対応をとることが常態化している」と指摘。
*2 本来、在留特別許可の審査において、日本人の配偶者であることは、『特に考慮する積極要素』とされているが、近年、正式に日本人と婚姻関係にあり、結婚の実態もあり偽装結婚でないのは明らかであるにもかかわらず、配偶者である外国人に、法務省/入管が在留許可を与えないケースが相次いでいる。
*3 比例性とは、「実現しようとする目的の重要度に比して、そこで用いられる手段により発生する害悪が均衡を失するものでないこと」を意味する。例えば、仮に駐車禁止違反の罰則を反則金の納付ではなく死刑にするとしたら、比例性で問題があるということとなる。