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ドイツ旅客機を墜落させた副操縦士は「深刻なうつ病」だった:事故防止のための「心の整備」と「安全文化」

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)

事故の詳細は不明ですが、、うつ病による自殺の可能性も出てきました。うつ病の人との接し方、対応のあり方を学ぶことは必要です。ただし、偏見を強めることは逆効果です。小さな問題も出せる社会、職場にすることが大切ではないでしょうか。

*自宅から「破られた勤務不可能の診断書」が発見された報道を受けて、文末に加筆を行いました(22:40)。

■副操縦士は「深刻なうつ病」だった

乗客乗員150人全員が犠牲となった格安航空会社ジャーマンウィングスの旅客機事故で、故意に機体を墜落させたとみられている副操縦士が、6年前に「深刻なうつ病」を患い、精神療法を受けていたと報じた。

出典:独墜落機の副操縦士、過去に「深刻なうつ病」で精神療法=報道 ロイター 3月27日

報道によると、副操縦士は1年半治療を受けており、その後もサポートを受けていました。

アンドレアス・ルビッツ(Andreas Lubitz)副操縦士(28)が2009年に「深刻なうつ病」で精神医学的な助けを求め、その後も医師からのサポートを受けていたと伝えた。ルビッツ副操縦士は治療を受けており、ジャーマンウイングスの親会社ルフトハンザ航空(Lufthansa)がこの情報をLBAに報告していたという。

出典:独機墜落、機長おので扉破ろうとした 副操縦士は過去に「うつ病」 独紙 AFP=時事 3月27日

■うつ病と自殺と犯罪

一般的に、「深刻なうつ病」で自殺をする方はたくさんいます。また自殺方法を選ぶときに、身近にある確実に死ねる手段が選ばれてしまうこともあります。たとえば、あってはならないことですが、警察官が拳銃を使って自殺してしまうこともあります。精神的に不安定と見なされると、拳銃を持たない仕事にまわされることもあるようです。うつ病の人との接し方をみんなが学ぶことは大切です。

うつ病の人との接し方:家族、友人、同僚のために

航空機事故においても、自殺目的で意図的に墜落させたのではないかと思われている事故は、過去にもありました。

「深刻なうつ病」で一家心中を考える人もいます。私が自殺して子どもだけが残されるのは不憫だと感じる、一般的な親子無理心中の心理もあります。また客観的には家族みんなで死ぬ理由は何もないのですが、非現実的にとても悲観的な思いにかられた結果の心中もあります。そして、自分が生き残れば殺人罪となります。

妄想的とも言える考えに取り付かれ、何の根拠もなく、子どもの将来を強く悲観してしまうこともあります。あるいは、たしかに困難はあるのですが、うつ病によって、さらに悲観的になり、殺害にいたる事件もありました(うつ病と精神鑑定と責任能力:知的障害の長女殺害、介護の母に無罪は正しいか)。

今回の事件の詳細は、まだ不明です。うつ状態のために自殺を考え、確実な方法として墜落を意図し、大勢の人が巻き込まれることを考える余裕もなくした結果の行為だったとも、一つの可能性としては考えられます。

自殺者が周りの迷惑を考えられなくなることは、珍しいことではありません。飛び降り自殺をして、地上にいた人とぶつかり、大ケガを負わせてしまうこともあります。電車に飛び込む人は、電車が遅れて迷惑をかけることを考える余裕はありません。アパートで自殺する人も同様です。

■事故防止のために

操縦士の心の健康を守ることは、機体の整備と同様にとても大切です。今回はとても悲惨な事故でした。ただし、このような出来事によって精神疾患への偏見を強めてしまうのは、防犯防災のために逆効果であることも忘れてはいけないと思います。

精神疾患への偏見が強くなると、本人も家族も病気を隠そうとしますし、治療を受けることへの抵抗感も増してしまいます。自殺問題も、自殺が恥ずかしく隠すべきことと考えすぎると、SOSが出しにくくなります(自殺は不名誉ではない:世界自殺予防デー・自殺予防週間に考える私たちにとっての自殺問題

事故防止のためには、機械面の整備や、ヒューマンエラーの防止を考えなくてはなりません。そして、小さな失敗を隠さず、みんなで共有する「安全文化」が必要です。それは、私達の「心の整備」も同様なのなのだと思います。

自殺犯罪の予見は、なかなかできません。しかし、小さな変化を誰かが見つけることはできるでしょう。そのとき、誰かが一声かける。だれかが適切な対応を取る。それが、結果的に自殺、事故、犯罪の防止につながることもあると思うのです。

前の記事:「ドイツ旅客機は副操縦士が意図的に墜落させた?:拡大自殺か、テロか、精神疾患か、格安航空会社の問題か」:過去の飛行機事故には、精神疾患による事故もある。コスト削減による無理な乗務が引き起こした事故もある。また、自殺の思いの中で、周囲を巻き込む拡大自殺もある。

〈補足21:05〉

偏見を減らすことを考えるなら、この見出しもやめた方が良いのではないかとのご意見をいただきました。とても貴重なご意見だと思います。ありがとうございます。しかし、すでに大きく報道されていることにふたをすることが偏見防止になるとは、私は考えていません。今回は記事の言葉そのままをかぎかっこつきで、「深刻なうつ病」と見出しとしました。

〈補足22:40〉

副操縦士の自宅から、「勤務不可能」の診断書が破られた状態で見つかりったとの報道がありました(独旅客機墜落 副操縦士の家から「勤務不可能」の診断書 破られた状態で見つかる:産経新聞 3月27日)。操縦士になれたことを喜んでいた彼は、この診断書送付で絶望したのかもしれません。

事故防止のためには、操縦士の心身の健康管理は必須です。しかし、精神疾患への社会的な理解と、何があっても希望が持てる社会であることが、結局は事件事故防止になるのだと思います。難しいことではありますが。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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