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圧倒的な高コスパの秘訣は!? 大人の女性も納得のEC専用ブランドがデビュー

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
大人の高コスパブランドとしてデビューする「N.O.R.C」(公式画像を筆者編集)

・EC専用の「大人の高コスパブランド」で「スタイリング迷子を救う」

・トータルプロデューサーに宮井氏、ディレクターに2人の人気スタイリストを起用

・シーズンレス、ジェンダーレス、非前年踏襲型の大胆MD

婦人服アパレルのクロスプラス(名古屋、山本大寛社長)から2月20日、同社初のEC専用の新ブランド「N.O.R.C」(ノーク)がデビューする。11月下旬に行った展示会には多くのタレントやモデル、編集者らが詰めかけ、その様子をヨンアや山田優、MEGUMIらがインスタグラムに投稿。特に佐々木希が挙げた大政絢、本田翼とのスリーショットは「ザ・テレビジョン」でも記事化され、yahoo!トピックスhttps://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181202-00171128-the_tv-entなどでも拡散され話題を呼んだ。

さらにデビュー前にもかかわらず、テレビ朝日の竹内由恵アナが番組で着用したり、ファッション誌「BAILA」(バイラ)3月号では「ファッション大特集」の中でヨンアや中村アンが旬なトレンチアイテムを羽織って登場したりと露出が増加。すでにインスタグラムのフォロワーは7800人超、クロスプラスのオンラインメンバー新規登録数は1万人を突破と、新ブランドとしては近年聞いたことがないほどの勢いを見せている。

この盛り上がりの仕掛け人であり、トータルプロデューサーを務めるのは、宮井雅史氏だ。「ATSURO TAYAMA」(アツロウタヤマ)、「JUNKO SHIMADA」(ジュンコシマダ)のようなデザイナーズブランドから量販店への卸まで手がけるクロスプラスの生産背景と、福田亜矢子と斉藤くみの2人のスタイリストの感性やネットワークを融合し、「大人の女性のための本当のコスパブランド」を目指すという。展示会を見た限りでは、セレクトショップのプライベートブランド(PB)並みのクオリティで価格は6~7掛けという感触だ。

ちなみに、宮井プロデューサーのキャリアのスタートはオンワード樫山の札幌支店だ。「23区」の営業などで頭角を現し、本社の新規ブランド開発部長に抜擢。NYデザイナーズブランドの姉妹ブランドやガールズ系ブランドなども開発。退社後にはプロデューサーとしてLA発のセレクトショップ「KITSON」(キットソン)の日本立ち上げも担った。独立してからはアパレルのみならず、通販・EC事業やバッグ、メンズコスメのアドバイザーやメディアプロデューサー、アーティストのイメージディレクションなども手がけてきた。筆者のファッションビジネスのメンターの一人で、飲み友達、かつ、ライブ鑑賞仲間でもある。なので、話半分に聞いて(読んで)もらえればと思うが、在庫過多やプロパー消化率の低迷、気候変動、オムニチャネル時代のマーケティング&コミュニケーションなど多くの問題を抱えるファッション業界において、一つの試金石となる取り組みといえるので、ここにデビュー前のインタビューを残しておく。

Q:「N.O.R.C.」の開発のきっかけは?

宮井プロデューサー:オンワード時代からお世話になっていたクロスプラスから、「オンラインストアのリニューアル」「売上げ拡大策」について相談を受けたのがきっかけだ。クロスプラスは数多くのアパレルやブランドのOEMや卸売りの商品を手がけたり、ライセンスブランドを運営していることもあり、品質面を含めて安心してモノ作りができる点が強みだと感じた。一方で、直販の「クロスプラスオンライン」で扱う商品は、テイストやターゲットの幅が狭かったため、サイトをリニューアルしてビジュアル面や使い勝手などでの魅力を高めることに加え、新ブランドを立ち上げ、今までカバーできていなかった層を開拓することを提案させていただいた。

そして、ECを軸にしたD2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)ブランドだからこそできる価値を創出しようと考えた。

Q:「N.O.R.C.」が創造したい価値とは?

宮井プロデューサー:まずは、大人の女性のリアルクローズとなる、「大人の女性のための本当のコスパブランド」という点だ。ECブランドではロープライス商品が主流となっているが、「N.O.R.C」ではホンモノを知る大人の女性たちが着映えするハイクオリティーな素材とデザインを、高いコストパフォーマンスを感じていただける価格で提供する。

もう一つは、「スタイリング迷子を救う」という点だ。「現代の女性のスタンダード」を考察してみると、アイテムもテイストも「トレンドの変化が少ない」ことと、「今のスタイリングには、ベーシックなアイテムが欠かせない」こと、そして、「何を買うかよりも、どう着るか、どう着こなすかのほうが重要になっている」という現実が浮かび上がってきた。特に女性の方々は、ネットや雑誌などを参考にしながら「今、何を買うか」に対しては行動できても、「それをどう着るのか」は実は難しいという声が多く、「スタイリング迷子」が増えていると実感した。だからこそ、着る技、スタイリング力を持ったスタイリストを起用し、「スタイリングから想定してモノ作りをしていく、逆転の発想」でブランドを創り上げることにした。

また、ECブランドだからこそできる、既成概念に縛られない大胆に絞り込んだMD(マーチャンダイジング・商品計画)を実現したい。無駄なモノ作りを削減すれば、サステイナビリティにもつながるし、高品質で本当の意味でコスパ力の高い商品を作ることができると考えている。(主な商品の価格帯は、シャツ・ブラウス5900〜1万3000円、ドレス・ワンピース7900〜1万9000円、カットソー3900〜6900円、ニット5900〜1万3000円、ジャケット1万1000〜1万9000円、アウター8900〜3万6000円、ボトムス6900〜1万5000円など。)

Q:多くのスタイリストが活躍している中で、福田さん、斉藤さんを起用した理由は?

宮井プロデューサー:モードやスタンダード、トラッドなどファッションの経験値が高いことに加え、大人の女性として消費者に近いラフスタイルや感度も持ち合わせている点が魅力だ。妻であり母であり、働く女性でもある。着る技、スタイリング力はもちろんだが、現代女性が求めるネオベーシック、ネオスタンダードの商品がうまく作れる方々だと判断した。

2つのラインを用意しており、福田さんが手がける「N.O.R.C.」(ノーク)では、着回し力とコスパ感に程よい女っぽさを採り入れた、現代女性がときめく究極のネオベーシックアイテムを中心に構成。斉藤さんが手がける「N.O.R.C. by the line」(ノーク バイ ザ ライン)では「スタイリング迷子の女性たち」に向けて、トレンチコートや白シャツなど旬の定番アイテムを、時代の気分で簡単に着こなせるアイテムをミニマルなカラーで展開する。

Q:「既成概念にとらわれないMD」というのは具体的には?

宮井プロデューサー:一つは、「シーズンレスなアイテム」を中心に商品を構成することだ。最近は気候温暖化で猛暑や暖冬、集中豪雨など、以前よりも売上げが天候に左右されやすくなっている。衣替えをしない生活者の増加も踏まえ、シーズンレスなアイテムに特化し、シーズン商品はトッピング的に扱うという考え方にシフトしている。

二つ目は、「前年踏襲をしない大胆なアイテム構成比率」で、「今の気分のアイテムをそろえること」に注力する。シーズンのトレンドスタイリングからニーズを予測し、フレキシブルに人気アイテムをボリュームをもって展開する。たとえば2019年春夏シーズンであれば、ワンピースとスカートだけで7割を超える構成にしている。

三つ目は、「ジェンダーレス」で、「ダイバーシティ性の高いサイズ展開」をすることだ。年を重ねるにつれてゆとりのあるものを着たいと思う大人の女性は増加する。また、若くてスレンダーな女性でも、オーバーサイズやジャストサイズなど、同じアイテムであってもその時々の気分や本人のスタイルに合わせて選ぶサイズは変わってくる。そこで、型数は絞り込み、サイズを豊富にそろえるのがイマドキに求められるブランドだと感じている。

Q:ファーストシーズンから著名ブランドとのコラボもあると聞くが。

宮井プロデューサー:日本を代表するデニムブランド「RED CARD」(レッドカード)をプロデュースする本澤裕治ドクターデニム ホンザワ代表とのコラボデニムや、「LIBERTY LONDON」(リバティ ロンドン)のプリントアイテム、「GUACAMOLE」(ガカモレ)の水着素材を使った水陸両用のスウェット風トップス&ショートパンツも用意した。

Q:今後の事業プランや目標は?

宮井プロデューサー: 2月20日にオープンするオンラインストアが主販路になる。ただし、素材感や価値と価格のバランスなどを実際に見ていただいたほうがより良さが伝わるだろうし、展示会でもメディアやデベロッパー、モデルの方々など多くの方々から好評を得ていろいろなお誘いもいただいたので、ポップアップストアやイベントでの出店なども検討していきたい。初年度の売上げ目標は1億5000万円だが、展示会や、デビュー記念としてトレンチコートの先行オーダーを数量限定で受け付けたBAYCREW’S STORE(ベイクルーズ ストア)でも瞬殺で完売するなどしている状況を見ると、上方修正できそうだ。もちろん売上げも重要だが、高品質・高コスパの商品を高プロパー消化率で提供することで、ファッション業界や女性たちが抱える問題を少しでも解決できるようなブランドのあり方やビジネスモデルを実現したい。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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