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元「ビギン」「装苑」編集長がZoffチーフデザインオフィサーに 入社のきっかけ「Galileo」発売

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
「Zoff」を手がけるインターメスティックCDOに就任した児島幹規氏 筆者撮影

「ビギン」「装苑」の編集長を務めた児島幹規氏が7月、眼鏡の「Zoff(ゾフ)」を運営するインターメスティックのCDO(チーフデザインオフィサー)に就任した。同時に、大阪文化服装学院で特別教員としてファッション人材教育に携わっていく。転身先に「Zoff」を選んだ理由や、そのきっかけとなった新アイテム「Galileo(ガリレオ)」とはどのような商材なのか?児島氏に聞いた。

――「装苑」の編集長を辞め、小売り企業に行こうと考えた理由は?

 元々、「装苑」の編集長は3~5年で変わろうと思っていました。外から来た者ができることは、しがらみなく何かを変えること。その後は長年携わってきた者にバトンを戻して、それまでの“らしさ”を見直し継承してもらえばよいと考えていました。

 当時、母体となる学校では学生数の減少が課題だったので、服飾専門学校に興味を持ってもらう施策として、“コスパのいい量産服”ではなく、“目的のある服”“オートクチュール”への興味を高めようと、アーティストやアイドルを起用しながら衣装の特集を開始。カルチャーとファッションが紐づいていることを伝えながら、部数の改善と入学者増を狙いました。その結果、衣装デザイナーを目指す人が増えただけでなく、衣装を手がける作家さんやスタイリストさんが注目されるようにもなりました。

 あっという間に時が過ぎ、コロナ禍もあってタイミングが伸びましたが、さすがに10年続けたら変わろうと決めていました。居座る人もいますが、老害呼ばわりされたくなかったですし(笑)。

 何よりも、各学校で講義をする際、学生たちに「新しいことに恐れず挑め!」と話してきた自分がこのままでいいのか?と考え、新しいことに挑むと決めました。56歳という年齢でその環境をいただけたことにはとても感謝しています。

――なぜ転身先が「Zoff」だったのか?

 6年ほど前から博史さん(上野博史社長)に声をかけていただいていました。「装苑」でボストンという型のメガネフレームに焦点を当てたタイアップをしたことがあったのですが、ボストンと言われても女性読者などはピンとこないですよね。そこで担当と共にボストンテリアとボストンバッグを引き合いに出したコピーを提案したら好評で、出来上がったビジュアルは店内のキービジュアルにも。そこから年に何度か食事をするなど交流してきました。昨年、ある出版社からお誘いもいただき悩みましたが、博史さんから教えていただいた「ガリレオ」の企画が大きなきっかけになりました。

 「メガネが理由で思い切り運動ができない子どもたちもいる。年々紫外線が強くなり、小学生がサングラスをかけて通学しなければならない時代も目の前にきている。そんな子どもたちに、ファッションやカルチャーを入り口にして自由をあげることはできないだろうか」。そうした思いがきっかで、3年前から開発しているオールラバーのメガネが、そろそろできると。そのお話に、ワクワクしたんです。自分は学校で講義をする際に、「デザインは色や線などのことではなく、問題を解決するためのものである」と話してきたのですが、まさにそれを実践している会社だと。メガネのフレームといえばメタルかセルの二択でしかないことが、メガネがそれほど変わらない最大の理由であり、新しい素材を提案し、定着させていこととができれば、メガネの可能性は広がるという考えにはとても共感しました。

オールラバー素材の独創的なフォルムで柔らかくてストレスレスの着け心地を実現した「ガリレオ」のイメージビジュアル Zoff提供
オールラバー素材の独創的なフォルムで柔らかくてストレスレスの着け心地を実現した「ガリレオ」のイメージビジュアル Zoff提供

 大阪文化服装学院に特別教員として月に2回通うことに加え、名古屋ファッション、中部ファッション、香蘭ファッションデザイン専門学校などからいただく特別講義や審査依頼なども認めていただきました。学生と繋がっていられることは嬉しいですし、服飾の専門を選んだ子たちが、その選択を誇れる人でいてもらうための一助であり続けられることもあり、インターメスティックにお世話になることを決めました。

 若い頃、たくさんの「ちょっとおかしい大人」たちの話にワクワクしました。夜中に呼び出されて武勇伝を聞いたり、その場を目撃したり。そして、あと数年で60歳になる自分が、今から何ができるだろうと考えた結果が「SPA企業に勤めながら、個性的なことを求められる学校で指導する」ことでした。そんなサンプルがないからこそやってみようと。若いクリエイティブを目指す学生たちとの繋がりは、「Zoff」にとっても必ず将来のプラスになるとも思っていますし。

――ちなみに、大阪文化服装学院では特別教員兼戦略スーパーバイザーに7月1日付に就任。ファッション・クリエイター学科の2・3年生の年間の講義を持つとともに、戦略スーパーバイザーとして、他校との差別化を含めた経営戦略立案や業務支援を行い、価値向上を図るという。どのような講義を行っているのか?

 大阪文化の面白いところは、欧米式と日本式の良いところを取り入れ、デザインやパターンはそれぞれ専門性のある先生が教えるというものです。生徒とは早速、1on1形式で15分、長い子では30分ほど対話し、自身の考え方や生い立ち、何がしたいのか、何が作りたいのかなどに徹底的に向き合わせ、そこからオリジナルの表現をアウトプットさせることに参加しています。スマホで見たものとか何かに似たものではなく、自分の中から湧き上がってきたものを創らないとオリジナルになりませんから。それまで何かを“選ぶ”だけで進んできた若者が、結論がないものに初めてぶつかったからか、見透かされたからなのか、話しながら泣いてしまう子もいますが、一度吐き出せると、次に進めるようになります。その他大勢ではなく、個人として向き合う大人の存在で変わってきた学生を何人も見てきましたから、それができればと。最近は、以前にも増して大人や社会を信じない若者が多いので、デザイン云々だけではなく、彼らの未来にとっても、大人からの表層的ではない言葉は大事だと思っていますので、こちらも恥ずかしがらずにさらけ出しています(笑)。今後は、スタイリストやデザイナーを大阪文化に連れて行く特別講義もしていきますし、東京の企業と学生との間を取り持つこともできればいいですね。

――「ビギン」「メンズEX」「装苑」などの雑誌編集長としてヒット企画やヒット商品を多く生んできた。

 若い頃は、「ビギン」がお洒落な雑誌じゃないからとブランドに相手にされなかったりしました。それが悔しかったので、とにかくプレスルームを回り、自分で借りて書き続けることで、狭い世界ではありますが「児島に貸したモノは売れる」と言ってもらえるようになって。その後は、当初は売れなかった「グローブトロッター」に「荷物をゴロゴロ引っ張る姿をお洒落に変えましょう」とサイズや色を変えるアドバイスをしたり、時代の着こなしに合わせて「モンクレール」の着丈を短くする提案をしてみたり、ブーツカット全盛時代にデニムをロールアップさせて「オールデン」「クラークス」「ニューバランス」を提案したらヒットしたり。「ビギン」ではいろんなことをやりましたね。「メンズEX」ではスーツ振興のために丸の内仲通りでメンズストアやセレクト、メゾン各店に声をかけて無償で協力していただきながらイベントを行ったら、休日の仲通りが全国から集まったスーツスタイルの大人たちでいっぱいになったのもいい思い出です。問題を伸びしろと捉えて、ポジティブに提案することで何かが動いていくことを見ることが楽しかったんです。

 「ビギン」も「装苑」も深さはあるけど幅は狭い中で、外と中の間の“堀”ぐらいのところで情報の出し入れをしていました。「Zoff」は眼鏡という領域の中で、幅広い対象顧客を有しています。アイテムが限られるとはいえ、もっといろいろな仕掛け方ができると思います。また、どこか特定のファッションブランドではなく、「Zoff」ならどんなジャンルとも絡めていけるフラットさと可能性があり、自分の経験や思考も役に立つのではないかと考えました。

――「Zoff」は年間販売本数が約400万本で、毎月新商品も投入されている。軽くて柔らかくて折れにくい「Zoff SMART(ゾフスマート)」も人気シリーズになっているが、改めて入社のきっかけとなり、10月に発売された「ガリレオ」とはどのような商品なのか?

 眼鏡は視力矯正具で、かけたら外すことが前提ですが、この「ガリレオ」は着けたまま動いても寝ても違和感がなくて、「外さなくていい眼鏡」という新しいアプローチができる面白くて役に立つものです。オールラバーなので、軽いのに衝撃にも強く、クルマに例えるなら高級車よりも気軽に使えるセカンドカーばかり愛用してしまう方がいるように、外出時はブランドのメガネを愛用する方にとっても、日常使いしてもらえる民主的なアイテムになると思います。編集者あるあるですが、パソコンに向かっていて着けたまま寝落ちしてしまっても邪魔にならないし、外してポイっと置いても壊れないので安心ですし。なにより、走って汗をかいてもズレないので、運動する人には必ず試していただきたいですね。今後、ニーズに応じて進化するはずですし、デザイナーやスポーツブランドなどと組むこともできるなど、たくさんの可能性を秘めています。高級品ではありませんが、何年かかけて傑作品と呼ばれるように成長していくと思いますので、ぜひ期待していてください。

オンオフ問わず、就寝時にも着けたまま寝られる画期的なアイウェア「ガリレオ」 Zoff提供
オンオフ問わず、就寝時にも着けたまま寝られる画期的なアイウェア「ガリレオ」 Zoff提供

落としても踏んでも壊れない安心の機能性。レンズ以外はオールラバーで成形し、斜めに仕切った抜き穴が緩衝材として機能する特殊構造と合わせて、特許出願中 Zoff提供
落としても踏んでも壊れない安心の機能性。レンズ以外はオールラバーで成形し、斜めに仕切った抜き穴が緩衝材として機能する特殊構造と合わせて、特許出願中 Zoff提供

スタイリッシュなデザインで、スポーツ時やオフだけでなく、ドレスアップシーンにも使える汎用性あり。24時間365日、生活に寄り添う新しいアイウェアの価値を提供していく Zoff提供
スタイリッシュなデザインで、スポーツ時やオフだけでなく、ドレスアップシーンにも使える汎用性あり。24時間365日、生活に寄り添う新しいアイウェアの価値を提供していく Zoff提供

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次世代新アイウェア「Galileo(ガリレオ)」とは

・金属を一切使用せず、安全性を強めた構造。オールラバー素材で内郭と外郭でラバーの柔らかさを変え、柔らかく、軽く、かけ心地が良い、これまでのメガネのネガティブを解消した設計に

・斜線で仕切った抜き穴は、衝撃を和らげる緩衝材として機能。この特殊構造と、硬度の異なるラバーを使用しレンズ以外をオールラバーで成形している仕様は、現在特許出願中

・Zoffのメガネ開発にかける強い探求心と好奇心から、従来のメガネには無い商品として誕生し、「Galileo」と名付ける

・キーメッセージは「自由を発明せよ。」。販促ビジュアルでは機能美×快適なかけ心地を、9歳の少年(ガリレオくん)から見たパパやパパの彼女との物語にしてグラフィカルに表現。俳優の松田翔太がクリエイティブディレクションを手がけた。フォトグラファーはPiczo(W)、アートディレクションは小杉紘一

種類:4型(キッズ2型、メンズ、ユニセックス)、各3色展開、全12種

価格:キッズ1万1100円、メンズ、ユニセックス1万3300円(セットレンズ代込)

発売日:2024年10月10日(木)

取扱店舗:Zoff 全店舗(アウトレット除く)、Zoff公式オンラインストア他

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なお、インターメスティックは10月18日に東証プライムに上場を予定。国内305店舗(9月末現在)、海外は20店舗を展開。商品の企画・開発・販売まで一気通貫に手がけるSPA(製造小売り)のビジネスモデルと、リーズナブルな均一価格を中心としたわかりやすい売り方、当日持ち帰りができる気軽さなどが支持されている。連結売上高は2023年12月期に398億円、今期は434億円(前期比9%増)を見込む。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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