「正直面白くない」RENAの偉業に発奮する選手たち
11月11日、東京ドームシティホールで開催された『SHOOT BOXING WORLD TOURNAMENT S-cup2016』は、過去9回の同大会とはガラリと風景が変わった。
老舗格闘技団体・シュートボクシングが主催する『S-cup』は、「立ち技世界最強決定戦」を標榜し、世界各国から強豪ファイターが集うワンデートーナメント。2年に一度の同大会は名勝負の数々を生み、後にK-1MAX王者となるアンディ・サワー(オランダ・34)を輩出するなど、屈指のビッグマッチとして格闘技界に与えた影響、残した功績は大きい。
今大会も65Kg級の精鋭8名が優勝を争い、トーナメントの合い間にはアンディ・サワー出場のスペシャルマッチや日本タイトルマッチなど全12試合の注目カードが並んだが、そのメインイベンターとして女子シュートファイター・RENA(レーナ・25)が抜てきされたのだ。
トーナメント決勝以外のワンマッチがメインとなるのはS-cup史上初、さらに30年を超えるシュートボクシング史にあって、男女混合大会で女子がメインを務めるのも初めてのことだ。
「まさに歴史的瞬間ですよね」と語るのは、大阪から会場に駆けつけた石本文子さん。創成期のシュートボクシングで活躍した元同団体女子王者だ。
「地上波で放送された『RIZIN(ライジン)』で、RENAは二度も素晴らしい試合をしてシュートボクシングの存在を世の中に広めてくれた。その功績からもメインに抜てきされるのは当然だと思います。とはいえ過去のS-cupの歴史を考えたら、本当に凄いことをやってのけたなと」
今回出場した中にも、RENAの成し遂げた“偉業”に刺激を受けた選手は多いようだ。たとえば、姉貴分のRENAを追い、大阪から上京してきたMIO(みお・21)は、第6試合でUnion朱里(22)を延長の末に下してSB日本女子ミニマム級王者のベルトを巻いた直後、リング上でこう宣言した。
「私の一番のライバルは、(対戦した)Union選手ではなくメインのRENAちゃんだと思っているので、いつかRENAちゃんを超える存在になりたいです」
男子期待の逸材、SB日本スーパーバンタム級王者の内藤大樹(20)もその一人だ。第9試合で植山征紀(20)に二度ダウンを奪われながらも大逆転のKO勝利、今大会のベストバウトたる闘いで初防衛に成功した。
直後のインタビューで「シュートボクシングの軽量級は自分が任されているという自覚がある」と語った内藤は、RENAのメイン抜てきが発奮材料になったかとの質問に、「それはもちろんあります」と即答した。
「正直、面白くないです。それ(男女混合大会での女子メイン)ではダメだと思っているんで。自分が取って替わるくらいの気持ちはあります」
時計が夜10時を回った頃、ついにメインに登場したRENAは、打撃を得意とするキンバリー・ノヴァス(ブラジル・25)と対戦。MMA(総合格闘技)ファイターらしい腰の重さで粘る相手に手を焼いたが、終了間際には強烈なボディブローやヒザ蹴りを畳みかけた。試合以上に印象深かったのは、判定勝利を聞いた瞬間のホッとした表情。メインの重圧を物語って余りあるものだった。
前出の石本さん同様、90年代初頭の女子シュートボクシングを支えた初代女子王者の藤山照美さんは、RENAの闘いを見届けた後、こう語った。
「当時の私たちの目標は女子だけの大会を開催することでしたが、RENAそのはるか上を行った。後に続くMIOたちが頑張って、さらに上の夢が実現できたらいいですよね」
試合後、リング上でマイクを握ったRENAは、大晦日の『RIZIN』出場を正式表明。生来の負けず嫌いに加え、「女子格闘技とシュートボクシングを盛り上げたい」という使命感に燃える独走女王は、追われる者のつらさと快感を同時に味わいながら、フロントランナーの座を守り抜く覚悟でいる。
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