「このリングに懸ける」女たちの夢と野心
〈女子格闘技の祭典を支える3つの柱〉
毎夏恒例の女子格闘技の祭典『Girls S-cp』が7月7日、東京・豊洲PITで開催された。今回が8回目となる『Girls S-cp』では、毎回3つのテーマを元に試合カードが編成されている。1つはRENA(25/50Kgクラス)とその妹分MIO(21/48Kgクラス)らをフィーチャーした「シュートボクシング女子エースの奮闘」、2つめは「若手の成長」、そして3つめは「ワールドワイド」だ。
この三本柱を一連のストーリーとして提供し続けていることで、『Girls S-cp』は唯一無二の女子大会ブランドとして定着した感がある。
個人的には、毎年3つめのテーマを楽しみにしている。
第1回大会の韓国人ファイター参戦に始まり、これまで米国、タイ、オーストラリア、オランダ、ブラジル、台湾(出場年度順)の各選手が『Girls S-cp』のリングに挑んできた。これほど国際色豊かな国内の女子大会は他にはない。
実力は玉石混交だが、中には2012、13年大会をおおいに賑わせたロレーナ・クライン(オランダ)など“知られざるツワモノ”を発見することもある。また、「これを足がかりに海外進出を狙いたい」という選手も多く、時に日本人選手以上にこの大会に懸ける思いの強さを感じることもある。
〈「日本で輝きたい」台湾女子大生ファイターの野望〉
今大会にはポーランド、オランダ、台湾から1名ずつが参戦。揃って完敗を喫してしまったが、中でも台湾のYURI(19)は試合後、目に涙を溜めて落ち込んでいた。
「最後まで闘いたかったのにこんな結果になってしまって。距離感を間違えてパンチが全然当たらなかった。悔しいです」
台湾の体育大学でボクシングを専攻する現役女子大生。中学1年から始めたボクシングでは、全国アマチュア大会女子43Kg級王者(2013年)の実績を持つ。
一昨年、同じジムの先輩が出場して以来、『Girls S-cup』のリングに憧れ、ついに今年その夢がかなったものの、キックボクシングのキャリアはまだ1年。48Kg級トーナメント一回戦でUnion朱里(22)のヒザ蹴りを食らい、開始わずか1分でKO負けに終わった。
大志を抱いての参戦だった。
「ボクシングでオリンピックを目指したかったけど、女子の最軽量級はフライ級(51Kg以下)で私に合う階級がありません。日本にはボクシングもキックも48Kg級に強い人がたくさんいるので、これからは日本のプロの世界でトップを狙いたい。だから今回、どうしても勝ちたかったんです」
〈女子が格闘技界を変える?〉
華やかな舞台を盛り上げようと、入場曲にはAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』を選び、振付まで練習したのだそうだ。
「音源を用意できずに他の曲になってしまいましたけど(苦笑)。とにかく、こんなに大きな会場で、たくさんの人が集まっているとは思わなかったので緊張しすぎてしまいました。もし来年チャンスをもらえたら絶対に実力を出したいし、これをきっかけに海外でも闘って成長していきたいです」
大会を主催するシュートボクシング協会のシーザー武士会長は「スポーツでも政治の世界でも、今は世界中で女性が爆発しているし、格闘技でも女性が輝いている。女性が格闘技界を変えてくれるのではないか」と語り、「女子が輝く舞台」の継続を確約している。
今大会では総合格闘技イベント『RIZIN(ライジン)』から女子エースの村田夏南子(23)が参戦。初の総合ルールによる試合も行われた。夢と野心を抱く世界の女子格闘家たちが目指すリングとして、『Girls S-cp』の重要性は来年以降、さらに高まっていくだろう。