「中学校での35人学級」は総選挙を睨んだ自民党のアドバルーンだけで終わってしまうのか
中学校でも35人学級を導入することに、萩生田光一文科相は6月29日の閣議後会見で「正面から堂々と必要性を主張して、必要な手続きをやっていきたい」と積極的な姿勢をみせた。その実現には「大きな壁」があることも事実なわけで、萩生田文科相の姿勢に期待していいものかどうか疑問もある。
|急遽、浮上した中学校での35人学級
中学校での35人学級について6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の方針2021(骨太の方針)」にも、「GIGAスクール構想や小学校における35 人学級等の教育効果を実証的に分析・検証する等の取組を行った上で、中学校を含め、学校の望ましい教育環境や指導体制の在り方を検討する」と明記されている。来年度予算編成に向けた検討項目のひとつにされているわけだ。
実は、この「中学校を含め」の表現は、18日の閣議決定のさいに追加されたものなのだ。「骨太の方針」の原案は6月9日に行われた政府の経済財政諮問会議で示されているが、そこに「中学校」の文字はなかった。
そして今回の萩生田文科相の発言があり、にわかに中学校での35人学級が実現に向けて動きだしているかのようにも思えたりもする。しかし、霞が関の事情通のあいだでは、「実現は難しい」との見方が強い。
小学校での35人学級は今年度から導入がすすめられているが、それが実質的に決められたのは昨年12月17日の麻生太郎財務相と萩生田文科相との予算折衝の場だった。小中学校での「30人学級」を目指していた萩生田文科相だったが、麻生財務相に阻まれて「小学校だけの35人学級」で妥協せざるをえなかなった。
学級編制の引き下げは約40年ぶりであり、まちがいなく「快挙」ではある。それでも折衝を終えた直後に萩生田文科相は、「隣の建物(財務省)の壁は高かったなというのが正直な感想」と悔しさを滲ませた。予算拡大を嫌う財務省の抵抗がいかに強烈なものかを想像させるにじゅうぶんな言い方である。
さらに中学校での35人学級を実現しようとすれば、この「高い壁」を崩さないことには、どうしようもない。それは難題中の難題であり、それを知る人たちからすれば「骨太の方針に盛り込まれたからといって実現の可能性は乏しい」となるのだ。文科省としても、実感したばかりだ。
|文科省が「頼みの綱」を失う可能性も大きい
さらに、文科省としては頼みの綱である萩生田文科相が、いつまで大臣の座にあるかが問題だ。小学校での35人学級導入を実現するなど政治手腕が高く評価されてきている萩生田文科相は、文科省にとっては「頼みの綱」である。彼が大臣であれば「中学校での35人学級も実現できるかもしれない」との期待ももてるのだろうが、大臣が替わることになれば、その期待も一気にしぼんでしまうはずだ。
オリンピック・パラリンピックが終了すれば、すぐに衆議院解散・総選挙となるとの見方が濃厚だ。その結果、自民党が政権を維持することになっても、内閣改造は行われる。そのとき、文科相としての功績が評価されて、萩生田氏にはさらに上のポストが用意されるとみられている。文科相の座から去る可能性が高いのだ。
それでも萩生田文科相が29日の会見で「中学校での35人学級」に積極的な姿勢をみせたのは、「選挙狙い」との見方がある。「骨太の方針」に「中学校での35人学級」が盛り込まれたのも、「選挙狙いのアドバルーン」でしかなく、だから「実現の可能性は乏しい」とみられている。
総選挙を戦うについて菅義偉政権にとっても自民党にとっても、新型コロナウイルス対策やオリンピック・パラリンピック強行など不利な材料ばかりが目立っている。そうしたなかで「中学校での35人学級」に前向きな姿勢をアピールすることは、プラス材料になる可能性がある。それに貢献したとなれば、萩生田文科相の政治的ポジションはさらに上がる。
だから総選挙が終わってしまえば、「中学校での35人学級」に対する自民党や文科省の意気込みもも、急速にしぼみかねない。今後も萩生田文科相からの「中学校での35人学級」についての発言は続くだろうが、総選挙と財務省の高い壁とを横目に見ながら聞く必要があるかもしれない。