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我が街から消える百貨店 ~ インバウンド消失の直撃も影響

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
2021年7月15日に閉店したマリーン5清水屋(筆者撮影)

・次々と街から消える百貨店

 山形県酒田市の中心街にある百貨店マリーン5清水屋が、7月15日に閉店した。1950年に清水屋として創業、その後、福島市に本店のある中合と合併したが、2012年に中合が経営から撤退。その後は、マリーン5清水屋として経営が継続されてきた。しかし、郊外型店舗やショッピングモールなどの開業や地域経済の低迷から、売上げが減退。2021年5月に、前経営者が死去し、7月に入り自己破産に向けた手続きを進め、15日で閉店した。酒田市の飲食店経営者は、「2012年に一度、閉店するという話だったのが、ここまでよくもったと思う。市の中心の衰退は、ずいぶん前から深刻だったし、これからは再開発が進んでいるJR酒田駅の方に集客力も移るかも知れない」と話す。

 2020年1月以降、閉店した百貨店は全国で19店舗に上る。(*1)さらに、2021年内に閉店が発表されているものが3店舗あり、合計すると22店舗になる。

 もちろん、これらの中には、さいか屋横須賀店のように跡地で営業再開したケースや、東急東横店のように再開発による閉店などもある。しかし、その多くが売り上げが低迷し、経営継続が困難となっての閉店である。もともと百貨店というビジネスモデルに限界が来ていたところに、一時的にインバウンド需要がカンフル剤となっていたが、新型コロナ感染拡大によるインバウンド需要の消失が止めとなり、今後も百貨店は閉店が進みそうだ。

インバウンド需要の消失が百貨店経営にとどめを刺している。
インバウンド需要の消失が百貨店経営にとどめを刺している。

 ・インバウンド需要消失が直撃

 日本への訪日外国人旅行者は、この10年間、急増してきた。首都圏をはじめとする百貨店各店舗は、こうしたインバウンド需要の取り込みに舵を切った。

 都内や大阪市内には、多くの外国人観光客が訪れ、百貨店のインバウンド需要取り込み策は成功した。さらに、リピーターが増加するにしたがって、外国人観光客は地方圏にも足を延ばすようになり、地方の百貨店でもインバウンド需要獲得への取り組みが行われた。

 開催が決定した東京オリンピック・パラリンピックによって、訪日外国人観光客は増加し、観戦後に地方に旅行に出かけることが予想されたたために、インバウンド需要は地方圏でも大きな期待を持ったのである。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は、インバウンド需要を消失させてしまった。

この10年間、急増した訪日外国人旅行者は、地方の小売業にも好影響を与えたが
この10年間、急増した訪日外国人旅行者は、地方の小売業にも好影響を与えたが

・一人負けの百貨店

 2020年の商業販売額で見ると、小売業全体では-3.2%と新型コロナ感染拡大の影響が出ており、消費行動が低調であったと分析できる。しかし、その内訳を見ると、百貨店が一人負けの状況である。

 在宅勤務や大学のオンライン講義などの実施の影響を受けて、コンビニエンスストアが-4.4%となったほかは、スーパー、家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンターなどは、「引きこもり需要」を取り込んで前年比プラスを記録している。

 そんな中で、百貨店だけが-25.5%と大幅に売り上げを下げている。百貨店の売上げ減が深刻化している原因は、緊急事態宣言によって営業自粛や営業時間の短縮も大きな影響を及ぼしているが、それに加えてインバウンド需要の消失、さらには、地方経済の低迷も大きな影響を与えている。

百貨店だけが、マイナス25.5%と大幅に売り上げ減
百貨店だけが、マイナス25.5%と大幅に売り上げ減

・再開発しても百貨店は戻ってこない可能性も

 百貨店の売り上げは、第二次世界大戦後、日本経済の成長と歩みを同じにし、1990年にピークを迎える。その後、一時的に売り上げ高を戻した時期もあったが、右肩下がりの低迷が続いてきた。

 そうした低迷に歯止めがかかったかに見えたのが、2010年頃からである。ちょうどインバウンド需要が急拡大した時期に当たる。

 「インバウンド需要は、低迷に苦しんでいた百貨店にとっては救世主だった。長期的には、インバウンド需要が戻ってくる可能性はあるだろうが、再開発などで閉店した場合も、百貨店という業態で再開される可能性は低いのではないか」と大手流通企業の従業員は話す。実際、首都圏の再開発に伴う百貨店の閉店の場合も、再開発後については「商業施設」とだけ発表されており、百貨店が再開されるかは不透明だ。

百貨店の売上げ高は、長期低迷が続いていた。
百貨店の売上げ高は、長期低迷が続いていた。

・我が町から消える百貨店

 百貨店の多くは、1960年代から1980年代に建設された建物で営業している。老朽化が進み、耐震化工事には巨額の費用が掛かるため、経営を断念するケースも出ている。また、金沢市の百貨店エムザのように経営悪化に加え、耐震化工事に巨額の費用が掛かることから、経営権を名古屋鉄道からディスカウントスーパー経営のヒーローに譲渡して再建を図るというケースも出ている。一方で、地方の百貨店経営の救世主として取り上げられた投資会社による経営再建は、残念ながらうまく行ってないケースが多い。

 「問われれば、無くなったら寂しいと答えるが、40歳代から下の世代では、百貨店そのものへの思いが薄いと思うし、実際、買い物にもほとんで行っていない。百貨店が無くなると、街の格がとかいうのもの高齢者層だけなんじゃないでしょうか」とある地方都市の30歳代の公務員は話す。別の地方の中小企業経営者は、「百貨店を救えと騒ぎ、ファンド会社などがやってきて経営立て直しだと言うが、結局、地元企業から出資を募ってという話。今まで、いろいろやってきてうまく行かなかったものが、同じ業態でうまく行くとは経営者目線からしても、思えない」と批判する。

 高齢化と人口減少が急速に進んでいる。さらに、新型コロナ感染拡大によって、ネット通販が急増していることも、百貨店には逆風となっている。スーパーを経営してきた大手流通企業が、ショッピングモールを郊外型ではなく、都市中心部の駅直結型として展開していることも、百貨店としての独自性を失わせつつある。

 今後、地方部の百貨店だけではなく、首都圏の百貨店でも、さらなる閉店が続くものと予想される厳しい状況である。「我が町から百貨店が消える日」は、もう近くまで来ているようだ。

(*1)新聞記事や企業HPより筆者が作成。なお、サテライト店などは含んでいない。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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