ラスマスら3選手が史上初めて受諾した「クオリファイング・オファー」の仕組みと歴史
過去3年間、クオリファイング・オファーを受け入れる選手は一人もいなかった。けれども、今オフは違った。20選手のうち16選手はこれまで同様に拒否したが、マルコ・エストラーダは返答期限前に2年2600万ドルで再契約を交わし、コルビー・ラスマス、ブレット・アンダーソン、マット・ウィーターズの3選手はクオリファイング・オファーを受諾した。
これまでにクオリファイング・オファーを提示された選手は、以下のとおりだ。
FA(フリー・エージェント)になった選手に対し、それまで選手が所属していた球団はクオリファイング・オファーを申し出ることができる。ヨエニス・セスペデスやデビッド・プライスのように、シーズン途中に移籍した選手は対象外だ。
クオリファイング・オファーの内容は、年俸上位125選手の平均と同額の1年契約で、今オフは1年1580万ドル。ワールドシリーズ終了から数えて、球団は5日以内に提示し、選手は12日以内に受け入れるか拒むかを返答する。今年のワールドシリーズは11月1日に終わったので、提示は11月6日、返答は11月13日が期限だった。
選手からクオリファイング・オファーを拒まれた場合でも、それまでの所属球団は他の29球団と同じく、契約交渉を行うことができる。例えば、黒田博樹は2012年のオフにニューヨーク・ヤンキースからFAになり、提示されたクオリファイング・オファーを拒否したが、1年1500万ドルで再契約した。黒田とヤンキースは、2013年のオフも同じ過程を繰り返した。
クオリファイング・オファーを拒否した選手が他球団と契約した場合、それまでの所属球団は次のドラフトで1巡目補完(1巡目と2巡目の間)の指名権を得る。一方、選手と契約した球団は持っている最高位の指名権を喪失する。ただし、全体10位までの指名権は保護されており、失うのは11位以降となる。
2014年のオフ、ボストン・レッドソックスはパブロ・サンドバル、ハンリー・ラミレスの2選手と契約した。そして、2015年のドラフトで全体43位と70位の指名権を失った。レッドソックスが持つ最高位の指名権は全体7位だった。サンドバルが退団したサンフランシスコ・ジャイアンツは全体31位、ラミレスが退団したロサンゼルス・ドジャースは35位の指名権をそれぞれ手にした。
2013年のオフにおけるヤンキースの場合は、もう少し複雑だ。ヤンキースは黒田と再契約した他に、それまで他球団にいた3選手、ブライアン・マッキャン、カルロス・ベルトラン、ジャコビー・エルズベリーと契約した。また、ロビンソン・カノーとカーティス・グランダーソンの2選手はヤンキースを退団し、それぞれシアトル・マリナーズ、ニューヨーク・メッツと契約した。これらの結果、ヤンキースは2014年のドラフトで全体18位の指名権を喪失した。3選手と契約したので失う指名権は3つだが、そのうち2つは、2選手の退団で得た1巡目補完の指名権2つと相殺される形になった。
クオリファイング・オファーを拒否した選手が他球団と契約したものの、ドラフト指名権の喪失も付与も生じなかったケースもある。2013年のオフにマリナーズからFAになったケンドリス・モラレスは、所属球団が決まらないまま翌年の開幕を迎え、ミネソタ・ツインズと契約したのは6月8日だった。この年のドラフトは6月5~7日。よって、ツインズがドラフト指名権を失うことはなく、マリナーズが指名権を得ることもなかった。モラレスがツインズと交わした契約は1年1400万ドルだが、シーズン途中だったため、実際の金額は約741万ドルに過ぎなかった。モラレスと同じオフにFAとなったスティーブン・ドルーも、翌年5月まで無所属で過ごした。
なお、球団が得たドラフト指名権は1巡目の後ろに挿入され、その分、2巡目以降の順位は繰り下がる。失った指名権の順位は繰り上げられる。球団から球団へ、指名権が譲渡されるわけではない。時折、そういう記述を見かけるが、これは過去の仕組みと混同しているのだろう(あるいは譲渡という言葉の意味がわかっていないのかもしれない)。
2012年のオフにクオリファイング・オファーが始まる前には、ドラフト指名権の譲渡が伴うケースもあった。2011年のオフ、アルバート・プーホルスはセントルイス・カーディナルスからFAになり、ロサンゼルス・エンジェルスと契約した。これに伴い、エンジェルスが2012年のドラフトで持っていた全体19位の指名権はカーディナルスへ譲渡され、カーディナルスはマイケル・ワカを指名した(カーディナルスはプーホルスの退団で全体36位の指名権も付与され、こちらはスティーブン・ピスコッティを指名した)。
今オフ、クオリファイング・オファーを受諾した3選手は、延長契約をすれば別だが、2016年のオフに再びFAとなる。この点は、2013年のオフにクオリファイング・オファーを拒否し、別の球団と1年契約を交わしたアービン・サンタナ、ネルソン・クルーズと同じだ。サンタナとクルーズは2014年のオフもクオリファイング・オファーを拒み、今度はそれぞれ4年契約を手にした。ただ、これは2014年に結果を残したからにほかならない。
2012年のオフ、ラファエル・ソリアーノはオプト・アプト条項を行使して3年契約を2年で打ち切り、ワシントン・ナショナルズから2年2800万ドルの契約を得た。だが、その2年後となる2014年のオフは、直前の不調に加えて12月で35歳という年齢もあり、翌年の球団オプション1400万ドルを破棄され、さらに、シーズンが始まっても無所属のまま過ごした。ソリアーノは6月9日に、シカゴ・カブスとマイナーリーグ契約を交わした。