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五輪組織委はなぜ迷走した? 橋本新会長の就任までに重ねた4つの失敗と教訓

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

オリンピック・パラリンピック組織委員会は、森前会長の失言で迷走。新会長は橋本聖子氏に決まりました。一段落とはいえ、トップ失言はどの組織にとっても他人事ではありません。教訓について戦略的広報から考えます。

戦略性に欠けた広報

この問題を一通り振り返ります。

・2月3日、森氏が「女性は発言が長いから理事会は時間がかかる」「競争意識が高いから自分も発言しないといけないと思うようだ」「数字目標を立てて女性の比率を上げるのはいかがなものか」とは発言。(その場で誰も指摘せず)

・2月4日、毎日新聞が森氏の取材に応じ「女性を蔑視する意図はなかった」「辞任を求める声が大きくなれば辞めざるを得ないかもしれない」とコメント

・2月4日、14時から森氏の緊急記者会見、辞任を否定。

森氏の女性蔑視発言だけでなく、謝罪会見は「逆ギレ会見」と呼ばれて批判が殺到

・2月7日、オリンピック・パラリンピック組織委員会が「発言は不適切」と公式見解をウェブ上に掲載。

・2月11日、森氏辞任の意向、川渕三郎氏が取材に応じて「森氏から会長を打診され、引き受ける意向」とコメント。

2月12日、川渕氏会長を辞退、組織委員会は、新会長の候補者を選ぶ検討委員会を設置

2月18日、橋本聖子五輪相が新会長に就任

ダメージコントロールは4回失敗しています。一体どこでどうしたらよかったのでしょうか。

1番目の失敗は3日の会議の場で発言を撤回できなかったこと。失言、言い過ぎは誰もがありがちです。しかし、発言はその場で撤回できれば許されやすいのです。周囲が指摘して撤回させる必要がありました。周囲が気づかなかった、あるいは指摘できなかったのであれば、出席者全員が謝罪する選択もあったのではないでしょうか。

2番目の失敗は、森氏が毎日新聞の取材に応じて「辞任」と自ら言ってしまったこと。この時点での辞任発言は当然のことながら不要で、ここでは、ひたすら恥じ入る態度や反省、心からの謝罪コメントをするだけでよかったのだろうと思います。ここで「辞任」の言葉を出してしまったが故に、午後慌てて辞任を否定する会見にひた走ることになりました。謝罪コメントを文書で出す方法もあっただろうと思います。

3番目の失敗は、謝罪会見です。謝罪の気持ちを伝えるために必要な7つの要素が抜けていました。詳しくは、筆者の2月5日記事参照。

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20210205-00221030/

そして、4番目の失敗は、川渕三郎氏が正式に決まっていないのに、押し寄せた報道陣にべらべらと話をしてしまったことです。

いずれも戦略的広報とはいえず、これらの失敗は、トップがメディアトレーニングを受けていれば防ぐことができたと私は考えます。

メディアトレーニングはトップの責務

メディアトレーニングとは、カメラ目線で自分がどう見えるのかを客観視する訓練です。具体的には、厳しい質問にも的確に対応し、記者(やカメラ)の背後にいるステークホルダーに対して、言語・非言語のメッセージを発信する表現力を身につける訓練です。外資系企業では、役員になったら全員が受ける訓練として定着しています。メディアトレーニングを受けていない社員は取材対応してはいけないというルールを設けている企業もあるほどです。ここには人前での発言の重さと組織の見え方への戦略的広報の視点があるといえます。

今回の森氏発言問題では、ロイターとブルームバーグから相次いで取材がありました。いずれも、今回の発言そのものだけでではなく、過去と将来を含めた「組織としての広報戦略のあり方をどう思うか」と同じ質問でした。対応しながら、日本の組織がトップコミュニケーションを軽視していることを指摘せざるを得ないと思いました。日本でも広報戦略といった言葉は頻繁に使われていますが、個人の見え方、スキル訓練が研究も含めて手薄であることは否めません。日本広報学会で個人の表現スキル研究をしているのが私一人であることからも組織の広報戦略としての位置づけの中で意識されていないことを実感しています。

日本では、2000年の集団食中毒事件の記者会見で「オレは寝ていないんだ!」社長発言をきっかけに、「うちのトップも言ってしまいそう」と危機感を募らせ、メディアトレーニングを実施する企業が少しずつ増えてきました。実はここが日本の悲劇だったのかもしれません。危機管理から浸透してしまったために、メディアトレーニング=危機管理、のイメ―ジがついてしまった面があります。本来、メディアトレーニングは、危機管理の視点だけではなく、平時において新製品発表会でのウォーキングプレゼンテーションなど魅力をより効果的にアピールする訓練も含まれます。私は負のイメージを払拭させるため、2015年に外見リスクマネジメントを提唱しました。平時からカメラ目線で楽しみながら戦略的に表現力を磨いてほしいからです。偶然ではありますが、同じ年に、東証と金融庁が取りまとめた「コーポレートガバナンスコード」に役員のトレーニングについて明記されました。

【原則4-14.取締役・監査役のトレーニング】 新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担う 者として期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。

個人の資質の問題だとか、「トップに言えない」といった風土の問題で逃げるのではなく、トップコミュニケーションを重要な組織の広報戦略として攻めの姿勢で取り組む必要があると考えます。

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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