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リーグ二連覇から訪れたターニングポイント。大敗のF・マリノス戦で突きつけられた川崎フロンターレの難題

河治良幸スポーツジャーナリスト
1対1の局面では負けていなかった田中碧もリーダーシップの課題を認めた。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

J1リーグは第33節を迎え、2004年以来となる優勝まで目前に迫った首位の横浜F・マリノスと三連覇の消滅した4位の川崎フロンターレが対戦し、4ー1でF・マリノスが勝利。他会場で2位のFC東京が浦和レッズと引き分け、優勝に大きく前進しました。

前半8分にマテウスの突破から仲川輝人が押し込んでマリノスが先制すると、後半には左サイドを起点に中央でボールを持った右サイドバックの松原健がFWのエリキに見事なスルーパスを通して貴重な追加点をあげます。さらに右サイドからの完璧な崩しをエリキが決めて3−0にリードを広げると、川崎も相手のミスを突いて途中出場のダミアンが豪快なヘッドで1点返しますが、マリノスがエリキのボール奪取から遠藤渓太のゴールで駄目押し。川崎フロンターレにとっては結果、内容ともに多くのことを考えさせるホームのラストゲームとなりました。

最終的にボール支配率は50%、シュート数も14本と14本でしたが、90分観ればマリノスの完勝、フロンターレの完敗であることは明らかです。ただ、数字の通り全てにおいてマリノスが圧倒していたと言うわけではなく、チームの狙いをしっかりとゴールに結びつけたマリノスと自分たちのリズムでボールを握れた時間帯をゴールに結びつけられず、逆に付け入る隙を与えてしまったフロンターレの差が明確に出たと言えます。

この試合で見えた川崎フロンターレの課題に関してディテールをあげればキリがないですが、突き詰めれば二つの大きな課題が提示されたように思います。1つはゲームコントロールを左右するリーダーシップの不足、もう1つは風間八宏前監督が植え付けた”止める・蹴る・外す”というフロンターレの強みが良い時より明らかに落ちていることです。

ゲームコントロールの部分は中村憲剛というJリーグでも屈指のゲームビジョンを具現化できる”ピッチの監督”がフルシーズン稼働することが難しくなり、現在は怪我で長期離脱している状況で、そのバンディエラに頼れない状況をどう乗り越えて行くかという課題です。ボランチとして大島僚太とともに中盤を支える田中碧はマリノス相手に「個人としてみれば別に負けていると思わない」と感じながらも「チームとしてどうやるか、どう守るかには差がありました」と振り返ります。

「フロンターレにも素晴らしい選手がたくさんいるし、マリノスにもすばらいし選手がいる。ただ特徴が違うだけで、だからこそグループでそういう相手にどう戦って行くのか。より組織的なチームがJリーグでも増えてくる中で、自分たちも個に頼るより、どうやってゲームを進めて行くか、どうやって守るかはやっていかないといけないとここ最近は感じているので、難しいことはありますけど、チームとしてもう1回やらないといけない」

マリノス戦で言えば、左サイドバックのティーラトンがインサイドに入って組み立てに参加してくるというスカウティングが川崎側にあり、その準備をして入ったはずが、フロンターレに対してティーラトンがワイドに開いて、サイドでウィングのマテウスと2対1を作ってきたことで、右サイドの対応が難しくなり、先制点もそこからやられたというのがありました。

前半の途中からはボランチがワイドの守備をサポートすることで守備が安定し、攻守でほぼ互角の流れに持込ましたが、後半の立ち上がりに攻守の切り替わり直後、左のスローインからフロンターレのディフェンスが同サイドに寄った状況で、逆に中央を見事に破られるという形で2失点目を喫しました。

そのゴールをアシストした松原健は前半の途中からフロンターレの守備が右サイドに偏ってきていることを観察で認識していたと言います。そこで生じやすくなった中央のスペースをいつ使って崩すかということで、見事に狙いがゴールに結び付いた形でした。それでも全体としては後半のフロンターレはほどんと引かされることなく押し返しており、ボール保持率も前半が45%だったところから後半で押し戻しています。

「1対1を作る場面を前半できなかったし、逆に前半途中からは僕らが主導になって動けていた部分もあったので、より自分たちがボールを持つ時間も増えましたし、思った以上にボールを握られなかったと言うのもあるので、そこはよかったかなと思いますし、だからこそ2失点目も含めて勿体無かったと思うし、自分たちの攻撃のしつもよりあげていかないといけない」

こう振り返る田中碧ですが、ボランチとして攻守の1対1に勝つだけでなく、周りに対してどうゲームコントロールでの影響力を発揮して行くかは大きな課題で、マリノス戦でも改めて突き付けられたと感じているようです。

「いま憲剛さんがいない。だからこそ自分がやらないといけないと思いますし、いつまでも憲剛さんがプレスに行って、それに付いて行けばボール取れる、憲剛さんに渡しておけばゲームをうまく作れるではいけない。そういうゲームをコントロールするというのはまだまだ足りないし、そこを自分の中で言語化して、どれだけ頭の整理ができて、どうやってゲームを進めるのかをより追求していかないといけないのかなと思いました」

確かに中村憲剛という偉大なバンディエラがいない時に、その仕事を誰か一人が代わるのは難しいですが、東京五輪の有力候補でもある21歳のボランチは「いい意味で憲剛さんを乗り越えるじゃないですけど、今までチームを引っ張ってっきた選手を超えるような選手にならないといけないと思うので、まだまだ力が足りない」と前向きに語っていました。その田中碧はもちろんリーダー候補の一人ですが、大島僚太や守田英正などチームに影響力を与える資質のある選手が何人もおり、相乗効果になっていけば解決できる課題かもしれません。

それにも増して、今フロンターレに突き付けられている難題が”止める・蹴る・外す”のクオリティと精度がここ数年でも明らかに落ちていることです。二連覇中のフロンターレに対して相手が分析してくること、さらにAFCチャンピオンズリーグ(ACL)での戦いも想定し、新戦力のレアンドロ・ダミアンを生かす戦い方も踏まえて、ロングボールやアーリークロスを攻撃のバリエーションに取り入れて、より勝てるチームへの進化を目指したシーズンでした。

しかし、これまで川崎フロンターレの絶対的な強みだったスモールエリアで、相手のちょっとした隙を突いてゴールまで行ってしまう”止める・蹴る・外す”のクオリティが落ちているためか、これまでなら狙えている状況でもワイドのより広いスペースに逃げてしまうシーンも目立って来ています。マリノス戦でも何度かあったバイタルエリアでのチャンスで間合いやタイミングが合わずシュートに持ち込めない、ブロックされてセカンドボールの勝負になるシーンが見られました。

FWの小林悠は「途中からは慣れて押し込む時間もあったし、それでも押し込んだ後の崩しですね。もう1個中から崩せるシーンもあったので。チャンスのシーンで(ボールを)上げちゃうのも分かる。ただ結局、点にはつながらなかったので、そう言うところかな」と振り返ります。

ーーマリノスは一発で裏を取られて失点というケースがほとんど無くなりました。ただし、そこでラインを下げた時にバイタルでスペースが生じますよね。

小林「先頭の僕が裏に抜ける難しさはあって、でも自分が裏を狙うことで手前のスペースを突けると思っていたので、そこをもうちょっとうまく使えるとよかったです。でも、いいシーンも結構あったので、そこから得点につなげられなかったと思います」

ーーいいシーンを得点に結び付けられなかった?

小林「結果論ですけどやっぱり最後のボールが少し前だったらとか、クロスを上げる前に足下にしっかり入っていればというシーンは何度もあったので、そこを突き詰めるしかないと思います」

ーーそこはもともとフロンターレの強みだと思います。そこが落ちてきている?

小林「今年はやっぱり年間を通してそこの精度は正直、落ちてきているとは自分も思います。その分、他の攻撃ができている部分もありますし、守備で良くなっている部分もありますけど、その緻密さとか正確さは・・・風間さんがいた時のメンバーがどんどんいなくなっているけど、そこが最後に大事になってくる難しさがありますね」

2012年の途中から2016年まで前任者の風間八宏監督が構築した”止める・蹴る・外す”のクオリティで相手を押し込んで行くスタイルは大きな注目を浴びたが、タイトルを獲得するための勝負という意味では一貫したスタイルゆえの”脆さ”も隣り合わせでした。風間体制でコーチだった鬼木達監督はそのベースを継承しながら攻守のバランス、切り替え、ボールを奪うだけでなく守りきるディフェンスなどをミックスさせ、Jリーグ二連覇に導きました。

つまり”風間サッカーの遺産”と鬼木監督の勝負師としての手腕が見事にミックスされたのが2017年、2018年だったとすれば、より対戦相手にマークされ、勝つことを義務付けられる環境の中で、選手の入れ替わりも相まって、ベースのクオリティとバリエーションのバランスが崩れてきていることが結果にも影響したのが今シーズンとも言えます。それでも最終節を残して3位の可能性も残している川崎フロンターレがJリーグ屈指の強豪チームであることに変わりはありません。

ここからどういう方向性を取って、さらなる成長をして行くべきか。それは川崎フロンターレの強化部や鬼木監督が決めて行くことであり、選手が実践するものですが、クラブを支えるファンサポーターがピッチ上に何を求めて行くかも大なり小なり川崎フロンターレの来季以降に影響して行くのではないかと思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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