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新・深雪の特徴的な事故に注意 豪雪時危険な屋外活動が盛んになるのが雪国の宿命

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
5日深夜職場からの帰り道。激しい雪で車道の範囲がわからない(筆者ドラレコ下参照)

 2月6日夜半過ぎ現在、新潟県長岡市では強い雪を観測しています。新しい深雪で街が覆われています。新・深雪ならではの特徴的な事故の発生が予見できます。十分に気を付けて、力を合わせてこの豪雪をのり切りましょう。

新・深雪にて活動する時の注意点

 新・深雪の大きな特徴は、ものが深く沈むこと、落雪しやすいことの2点です。そして怖いのは人が新・深雪に巻き込まれた後の窒息です。

1.高いところから転落して埋もれないようにする

2.滑走して埋もれないようにする

3.水路に落ちないようにする

 新潟県内の多いところでは、一晩に1 mの降雪を観測することは、いつものことです。長岡市内でも、それくらいは一生の間に何度も経験します。例年冬になれば向き合うことになるのですが、それでも発生するのが新・深雪に絡む事故です。この週末もその危険性が高いと、本日実感しているところです。今シーズンは2月4日現在、新潟県内にて雪に絡む11件の死亡事故が発生しています。

高いところから転落して埋もれないようにする

 屋根の雪下ろし中、新・深雪があると地面に落ちてケガをするよりはむしろ、身体が雪に埋まってしまう事故が多発しています。落ちた結果、立った状態で雪に埋まったら、腰より深く潜り込むと脚を雪面より上にあげることができず、脱出できません。歩けるのは股下の深さより浅く埋まった時です。動画1をご覧ください。その様子を示します。

動画1 長靴で130 cmの新・深雪を歩く(筆者撮影、1分14秒)

 運が悪くて、転落時に逆さになって上半身が埋まってしまった場合、呼吸ができなくてただちに窒息します。雪の上に手が出なければ手は動かすことができません。つまり、逆さだと自力脱出の手段がなくなるのです。

 こうならないようにするために、雪下ろし中の注意事項については、雪国の皆さんなら何度も聞いている「除雪中の事故にご注意ください」に詳細が書かれています。本日、改めてご覧いただくことをおすすめします。

滑走して埋もれないようにする

 どうか、この一両日を新・深雪の中でスキーやスノーボードを楽しもうとされる方々、コース外滑走はくれぐれも自粛でお願いします。

 新・深雪の上をスキーやスノーボードで簡単に滑降できます。滑走速度は高くてこの雪で動きに難渋するなんてとても思えません。でも、一度失敗し、ツリーホールやV字谷などに板を着装したまま転落すれば、そこは地獄の一丁目。板を外して歩いて窪みから這い上がることはきわめて困難です。救助隊の投げたロープにつかまって歩かないと脱出はほぼ不可能です。そして新・深雪は歩く者の体力を相当な速度で奪っていきます。

 救助隊も同じ目に遭うことをよくわかっています。だから遭難したら救助してもらえると簡単に思わないでください。新・深雪では、長靴も、スキー靴も、かんじきも効きません。何を履いていたって脚はほぼ雪に埋まります。最近、雪国の消防救助隊が装備している現代版かんじきと呼ばれるかっこいいかんじきでも、新雪には歯が立ちません。

 その様子を動画2でご覧ください。筆者が身体を張って、新雪の中を歩いてそれを確認しています。

 雪崩の危険があれば、救助隊による活動は一次的に中断することもあります。隊員の気持ちは「助けてあげたい」なのですが、新・深雪では「要救助者は死ぬかもしれないけれど、どうしようもないこと」と救助活動を諦めざるを得ないこともあるのです。このあたりは荒れた海での水難救助活動の一時中断と同じです。

 滑走はコース外に出ることなく、くれぐれも踏みしめられた雪の上でお楽しみください。

動画2 現代版かんじきで新・深雪を歩く(筆者撮影、1分48秒)

水路に落ちないようにする

 新潟県内では、今シーズンにお二人の方が除雪中の水路転落ですでに亡くなっています。

 新・深雪は、深い水みたいなものですから、水辺の除雪作業で踏み入れたら身体が沈み込んで、そのまま水路にはまることがあります。

 落雪式住宅だと、屋根からの落雪は雪がある程度の重さになってから落ちる場合があります。つまり豪雪だと塊になって屋根から落ちてくることもあります。1月25日に南魚沼市にて50代男性が死亡した事故では、勤務先の除雪中に屋根雪が落下して雪に埋まり、水路に頭から落ちて心肺停止状態となり、その後、死亡が確認されました。

 また、動画3に示すような流雪溝を使った除雪作業でも注意したいところです。流雪溝に流されて溺れて命を落とす事故が例年発生しています。新雪だと、開口部に雪を入れたあと、早く流したいためどうしても足でその雪を踏んでしまいます。流れが強いと、足は流れにすくわれて、いとも簡単に流雪溝に身体が吸い込まれていきます。その様子はまるで密閉された空間内のウオータースライダーの様相です。また休憩中は開口部のグレーチングを必ず閉じます。過去には、休憩中にひらきっぱなしの開口部から子供が流された痛ましい事故がありました。

動画3 流雪溝を使った除雪の例。赤のカラーコーンで流雪溝の位置を示しています。複数人で作業し、開口部の溜まった雪をスコップでつついています(筆者撮影、41秒)

さいごに

 豪雪になればなるほど、屋外での危険な活動が盛んになるのが雪国の宿命です。人が活動すれば事故が発生します。だからこそ、気を付けて活動しなければならず、事故防止のための啓発・啓蒙がこの時期には盛んになります。

 複数人での作業、万が一の緊急通報のための携帯電話の常時携行。こういったことを心掛け、さらに新・深雪の特徴に合わせた屋外活動に心がけましょう。

参考 昨夜の道路映像

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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