Yahoo!ニュース

日本代表は「サッカーを捨てる」べきではない!鎌田、久保、旗手、堂安など世界と互角に戦えるだけの陣容

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 森保一監督の性格上、カタールW杯では4-3-3を組むつもりだろう。アジア最終予選、4-3-3への変更で勝ち抜いた。その自信は大きい。

 しかし世界のトップには十中八九、打ち負かされるだろう。4-3-3というシステムは構造上、相手を戦力で上回るか、拮抗している時に機能する布陣だからだ。守備的に戦えばディフェンスが厚みを増し、攻撃的に戦えば手数を増やせるが、その運用が難しい。中盤でのプレーエリアが混乱しがちで、相手の力が上の場合、綻びを作られやすく、弱点が見えやすい。

 初戦のドイツ、第3戦のスペインと戦う場合、最善とは言えないだろう。

 そもそも森保監督は少なくとも、二つ、三つの布陣は用意すべきだ。

 短期決戦のW杯、3試合続けて同じ面子で戦うことは不可能である。南アフリカW杯、ロシアW杯とベスト16に進出した大会では、2試合目のメンバーを大きく変えている。相手との実力差を考慮し、戦い方を変えるべきだろう。ドイツと全力で戦った後、仮想コスタリカをどう戦い、スペインにいかに挑むか。筋道を立てるべきだ。

 今回の欧州遠征、23日アメリカ、27日エクアドルとの連戦で、グループリーグを勝ち上がる手掛かりをつかみたいところだが…。

レアル・ソシエダ式の4-4-2

 第2戦のコスタリカを相手に攻撃的に戦うコンセプトの場合、4-3-3は一つの選択肢になる。戦力を比較した場合、コスタリカには優勢を取れる可能性が高い。ボールを支配し、運び、崩す。

 今年6月のパラグアイ戦のように、鎌田大地をインサイドハーフに用い、右に堂安律、左に三笘薫で攻めまくる。いずれも、欧州を舞台にプレーの幅を広げつつある。断言するが、指揮官の才覚次第で、彼らは世界と互角に戦えるアタッカーたちだ。

 久保建英も、その一人だろう。レアル・ソシエダでは4-4-2のトップの一角、トップ下で高い技術を発揮し、サイドでのプレーの質も目に見えて向上している。マンチェスター・ユナイテッドをも撃破した攻撃力だ。

 例えばレアル・ソシエダのイマノル・アルグアシル監督式に、日本代表を編成した場合、実に魅力的に映る。

       久保     古橋

          鎌田

   旗手          堂安

          遠藤    

中山    板倉    冨安     酒井

          権田

 コスタリカを蹴散らせるだけの攻撃力と言える。

 日本に人材がいないわけではない。

 フランクフルトのオリバー・グラスナー監督は鎌田をボランチとしても用い、柔軟に力を引き出している。スポルティング・リスボンのペドロ・アモリムは攻撃的編成の中、守田のフィジカル的な非力さよりもボールプレー能力を高く買い、ボランチで先発を与え、成果を出しつつある。セルティックのアンジェ・ポステコグルー監督は、古橋、旗手、前田のストロングポイントを生かすための起用で結果を残している。

 選手の「短所」ばかりに目を向けていると、チームの力は萎んでいくものだ。

ドイツ、スペインには守勢も怯まず

 さりとて、ドイツ、スペインは世界ランク1位に近い強豪で、簡単に勝機を見つけられない。やはり、劣勢を覚悟すべきだろう。どれだけ守り切れるか、はどうしても問われる。

 その点、4-3-3は命取りになる。4-2-3-1の方がバランスはとりやすいだろう。各選手が均等にスペースを守れるし、カウンターにも入りやすい。ただ、相当な圧力を受けるはずで、できるだけ守備を分厚くすべきで、各拠点を守るような形にすべきで…。

 その点、推奨されるのが5-4-1だ。

 5バックで、相手の攻撃を受け止める。拠点で守る形で、スライドは最小限、スペースも明け渡さず、守備の乱れは出にくい。5枚の前で4枚が防壁となって、間に入った敵はすかさず圧縮。攻撃は手数がかけられなくなるが、カウンターは準備できる。少しでも前でボールを収め、FKでも取れたら一息付ける。センターバックタイプが多いだけに、ゴール前に放り込み、高さでゴールを狙えるだろう。

 以下は一つの布陣案だ。

        古橋(上田)

   鎌田(三笘)   久保(堂安)

旗手              酒井(伊東)                          

       守田    遠藤 

    板倉(伊藤) 吉田(長谷部) 冨安

      シュミット・ダニエル

 そしてこの5-4-1で切り札になり得るのが、長谷部誠の存在だ。

 長谷部は、フランクフルトで今もリベロとして健在。チャンピオンズリーグ、マルセイユ戦でも完封に貢献している。いわゆる精神的支柱などではない。戦術的な一つの軸として、チームに必要な存在と言える。3試合を同じメンバーで戦い抜くことはできないだろう。ドイツを知り尽くした長谷部を、ドイツ戦にぶつけることは論理的だ。

 長谷部はロシアW杯後に代表引退をしている。当然、今回の欧州遠征では訪問しただけで、メンバーではない。しかし危機的状況だけに、どうにかならないか。森保監督が三顧の礼を尽くし、迎えることができたら、就任以来、最大の手柄になるはずだが…。

旗手が問題を解決

 ここで言う5-4-1は専守防衛ではない。守りに入った時に、ブロックを組めるが、システムは可変。常にボールを持ち、ゴールに迫る選択肢を捨てないことが大事である。

 セルティックで6得点の古橋は起死回生のゴールを狙える。ボールを受け、キープもできる鎌田や久保などを揃える。遠藤、守田のボランチは、欧州のトップリーグの実力。右サイドの酒井宏樹も円熟に達し、3枚のセンターバックはコンディション次第だが、最強の面子だ。

 現代表では、長友佑都の左サイドバックだけがどうしても弱点に映る。そこで5バックにすることで、左ウィングバックにポリバレントな旗手怜央を起用し、左に起点を作りたい。

 旗手はチャンピオンズリーグ、レアル・マドリード戦でもボランチとしてプレーし、ルカ・モドリッチに堂々と対抗。ターンやパス出しに知性が漂った。もともとストライカーだけに、ゴールへのプレーも迫力がある。事実、シャフタール・ドネツク戦では、左足で先制点を記録。大きくないがコンタクトでもパワーがあるだけに、守備でも後手に回らない貴重な選手だ。

 選手層は増した。

 ブライトンでプレー時間を増やしつつある三笘、フライブルクで躍動する堂安、セルクル・ブルージュで気鋭の動きを見せる上田、スタッド・ランスで適応した伊東も切り札になる。コンディション次第で、ドイツ、スペイン戦と使い分けもできるし、システム変更で戦うこともできるはずだ。

 各選手は、欧州を舞台に戦うことでメキメキと成長を遂げている。過去のイメージに囚われず、チームを刷新できたら…。

「男子三日会わざれば刮目して見よ」

 森保監督がチームをアップデートし、選手の力量、特徴を見極めることが、カタールW杯での命運を握る。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事