東京で「普通の生活」には月54万円必要へのFPとしての違和感 現実的というより理想の数字
東京地方労働組合評議会(東京地評)が最低生計費試算調査をし、東京で普通に子育てするために必要な費用を算出しました。
調査によると、練馬区で子供を普通に育てるためには、30代で月額約54万円(年650万円)、40代で月額約62万円(年740万円)、50代で月額約80万円(年960万円)が税、社会保険料込で必要だということです。
しかし、実際に国税庁の平均給与を見ると、給与所得者の1人あたりの平均給与は年461万円です。平均年齢は42.8歳で男女別では男性567万円、女性280万円です。年齢階層別に分けると、男性の場合も40〜44歳で634万円、45〜49歳で675万円、50〜54歳で717万円などで調査の数字には及びません。
実際に家庭訪問を行ったり、家計相談を受けてきた経験からも年収300万円などの世帯で子供を2人3人育てている場合も多かったです。調査の数字はそれだけあればよい理想的な数字であって現実とはかけ離れているようです。
調査の元のデータを見ると、事細かく、必要な物などが計算されています。しかし、特に食費には違和感を感じてしまいました。練馬区の4人家族での食費の必要額が、11万2558円から14万5283円で計算されています。
「家族で食費2万円は可能なのか?1ヶ月の食費の全国平均はいくら?節約の3つのコツ」でも書きましたが、家計調査によると、2人以上世帯の食費の全国平均は約7万5000円です。食費月2万円はさすがに極端に少ないですが、10万円以上も平均と比べると多いと言えます。
1日30品目など非常に多くの食品を購入している家庭の場合は、調査の数字くらいかかる場合もあるようですが、シンガポールの富裕層の夕食などを見ても数十品目などたくさんの食品が出されている家庭は見たことがありません。
また、家具・家事用品、教養娯楽用耐久財・教養娯楽用品などの持ち物も昭和的で本当に必要なのか、また使用年数が短すぎないか疑問が出ます。例えば、テレビ、レコーダー、カメラ・デジカメ、ビデオカメラ、プリンターなどを5年おきに買い換える家庭がどれくらいあるのか。食器等も2年で買い換える設定となっており、税法上の減価償却の年数と実際に家庭が使う使用年数とでは大きく乖離があると考えられます。ミシンなども家庭にないというケースも多いでしょう。断捨離ブームで必要のない物は持たないという思考の人が増えており、より安いコストで生活ができるように変わりつつあります。
そもそも、一番大きな前提の疑問は会社員と専業主婦またはパート、子供は2人という昭和モデルのままで計算をされていることです。現在は共働き家庭の割合が専業主婦モデルに比べると増え続けており、その差は開く一方です。共働きで夫婦の年収を足し合わせれば調査の数字にかなり近づきそうです。
また、調査では北区在住の若者が普通の一人暮らしを送るには男性で月額24万9642円、女性で月額24万6362円、税と社会保険料込で必要だとしています。しかし、大卒の初任給平均は21万200円です(厚生労働省)。それでも、そこから将来のための貯金を捻出してなんとか一人暮らしをしている人が多いです。筆者も初任給では24万円もなく、東京で一人暮らしでやりくりをしました。
たしかに、一人暮らしや子供を持つことは誰にでもできることではないと思われがちです。しかし、廃棄食料や持ち物を減らす等の努力をし、賢くやりくりをすればこのデータほどお金がかからない場合が多いのです。
このデータによって、最低賃金、生活保護、基礎年金等が上がってくれるのであればよいのですが、年収に届かないので子供をあきらめるという人が増えないで欲しいと願います。