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「できるだけ多くのメキシコ人を撃ちたかった」 米テキサス州銃乱射 ヘイト・クライムが米30都市で増加

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
テキサス州エルパソ高校で、銃乱射の犠牲者を追悼する人々。(写真:ロイター/アフロ)

 米テキサス州エルパソのショッピング・モールにあるウォルマートで、3日午前10時過ぎ(米国現地時間)、無差別銃乱射事件が発生、これまでのところ、少なくとも20人が亡くなり、26人が負傷した。

 カリフォルニア州ギルロイのガーリック・フェスティバルで起きた無差別銃乱射事件から1週間も経たないうちに起きた惨劇に、全米は悲嘆に包まれている。

 容疑者は21歳になったばかりの白人の男性。目撃者によると、容疑者は黒いTシャツなど黒っぽい装いで、AK47のようなライフルを使って、まず駐車場で約60発も銃乱射した後、ウォルマートに侵入したようだ。容疑者は乱射の後、ウォルマートから逃走したが、通りで投降し、逮捕された。状況から、容疑者は逮捕されるのを覚悟の上で乱射した計画犯罪とみられている。

ヒスパニック系移民に対する憎悪が動機か

 8chanという物議を醸す内容を掲載するウェブサイトに、容疑者のものと思われるマニフェスト(犯行声明)が犯行前に投稿されていたようだ。そのマニフェストには、ヒスパニック系移民に対するネガティブなコメントや、共和党、民主党両党のリーダーが国を失墜させているという批判、ニュージーランドのクライストチャーチで起きた銃乱射事件の銃撃犯を支持する内容が記されており、FBIが現在その調査を進めている。

 マニフェストは以下の2つのセンテンスで始まっているという。

「一般的に、僕は、クライストチャーチの銃撃犯と彼のマニフェストを支持している。この攻撃はテキサスに侵入するヒスパニック系移民に対するレスポンスだ」

 マニフェストが容疑者によるものなら、ヒスパニック系の人々に対する憎悪が犯行の動機となるヘイト・クライムといえる。ある報道によると、亡くなった20人の中には、3人のメキシコ人も含まれていたようだ。また、ABCニュースによると、容疑者は拘束された後「できるだけたくさんのメキシコ人を撃ちたかった」と警察関係者に話したという。

 7月28日にカリフォルニア州ギルロイで起きた銃乱射事件も動機は憎悪ではないかと指摘されている。

ヘイト・クライムは30都市で5年連続増加

 カリフォルニア州立大学サン・バナディーノ校ヘイト・アンド・エクストリーミズム研究センターの最新報告によると、ヘイト・クライムはアメリカの30の主要都市で増加の一途を辿っている。ヘイト・クライムは、30の主要都市では、2018年は前年比約9%増加、初めて2000件を超えて2009件を記録した。この数は、2010年と比べると約42%、2013年と比べると約51%の増加となる。また、2013年以降5年連続の増加だ。

アメリカの30の主要都市では2013年以降ヘイト・クライムが増加している。出典:csbs.csusb.edu
アメリカの30の主要都市では2013年以降ヘイト・クライムが増加している。出典:csbs.csusb.edu

 特に、テキサス州では、2018年、ヘイト・クライムの数はこの10年では最多を記録した。テキサス州の主要都市を見てみると、前年と比べた場合、ヒューストンでは191%増、ダラスでは150%増、サンアントニオでは100%増となった。

アメリカの中でも、テキサス州の主要都市では、2018年、ヘイト・クライムが前年と比べると激増。出典:csbs.csusb.edu
アメリカの中でも、テキサス州の主要都市では、2018年、ヘイト・クライムが前年と比べると激増。出典:csbs.csusb.edu

指導者による憎悪の沈静化が重要

 主要都市で増加しているヘイト・クライムについて、カリフォルニア州立大学サン・バナディーノ校ヘイト・アンド・エクストリーミズム研究センターディレクターのブライアン・レヴィン氏がKPBSのインタビューで以下のように話しているが、非常に納得が行くものがある。

「国の指導者が憎悪を沈静化させる必要があります。ジョージ・W・ブッシュ大統領が、9.11の後、“イスラム系の人々をハラスメントする人々は恥を知るべきだ”と主張すると、その翌年、ヘイト・クライムは3分の1に減少したのです。しかし、トランプ氏が大統領候補時代にイスラム系の人々の入国禁止を提案すると、その月、イスラム系の人々に対するヘイト・クライムは3番目に最多となったのです」

 つまり、国の指導者の考え方が国民に大きな影響を与えているということになる。“国境の壁政策”や“不法移民の親子の引き離し政策”などトランプ氏の不寛容な移民政策に、米国民の中には影響を受けている人々もいるのかもしれない。

 特に、先日、カリフォルニア州ギルロイで起きた銃乱射事件の容疑者や今回テキサス州で起きた銃乱射事件の容疑者のような10代後半から20代前半の若者は、心理的にはまだ発達段階にあるため、思想の影響を大きく受けやすいことも指摘されている。

 子供が親の背中を見て育つように、若者も国の指導者をロールモデルにして自身の考え方を発展させるのだろう。

 アメリカはもちろんだが、国を問わず、我々は、子供や若者にその背中を自信を持って見せられるような指導者を選ぶべきなのではないか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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