米元司法長官候補が倫理違反した実質的な証拠とは ハラスメントを公金で示談にした議員名公表を訴える声も
未成年の17歳の少女とセックスパーティーで性交をして金銭を支払った“少女買春疑惑“や“違法薬物使用疑惑”で米下院倫理委員会に調査され、トランプ氏から受けた米司法長官の指名を辞退し、さらには議員辞職をしたマット・ゲーツ氏。
同氏に関する42ページにわたる倫理報告書が、12月23日、米下院倫理委員会から公表された。通常、同委員会は、辞職した議員の報告書は公表しないことになっていることから、ゲーツ氏は報告書を公表されたくないから議員辞職をしたのではないかと指摘する声もあがっていた。
しかし、同委員会が今回、異例とも言える公表に踏み切ったのは、それだけ事態を重く見ているからと考えられる。実際、公表することは公益にかなうことだと過半数の委員が判断している。
“実質的な証拠”とはどんな証拠なのか?
倫理報告書は「委員会は、ゲーツ議員が買春、法定レイプ、違法薬物使用、許可されていない贈答品、特別な好意や特権、議会妨害を禁じる下院規則およびその他の行動基準に違反したことを示す実質的な証拠があると判断した」と述べている。では、“実質的な証拠”とは具体的にはどのような証拠なのか?
その一つとして、17歳の少女が、2017年にフロリダで行われたホームパーティーでゲーツ氏と2回性行為をしたという証言がある。この少女は、ゲーツ氏から現金400ドルをもらったと主張しており、少女はそれが性行為の報酬だと理解していた。ちなみに、この少女は、自分が未成年であることをゲーツ氏に伝えておらず、ゲーツ氏も少女に尋ねなかったと述べている。
また、2017年から2020年にかけて、ゲーツ氏は、委員会が性行為や薬物使用に関連している可能性が高いと判断した女性たちにお金を支払っていた。報告書によると、ゲーツ氏は12人の女性たちに9万ドル以上を支払っている。報告書は「委員会がインタビューした若い女性のほぼ全員が、ゲーツ氏またはその代理人から性行為の対価を支払われたことを認めた」と述べている。支払いは、CashApp、Venmo、PayPal、現金、小切手を通じて行われ、その名目として、チケット、ディナー、車のトラブル、ギフトなどの説明が記載されていた。
では、ゲーツ氏は、女性たちとどのようにして出会ったのか? 報告書は、2022年に未成年者の性的人身売買などの罪で懲役11年の判決を受けた徴税官ジョエル・グリーンバーグ氏の協力を得て、SeekingArrangementというサイトを通じて女性たちと出会ったとしている。
しかし、出会った女性たちの中には、性行為が合意の上で行われたことに疑問を感じてる人もいたようだ。報告書は「少なくとも1人の女性は、パーティーやイベントで薬物が使用されたために、何が起こっているのかを理解したり、完全に同意したりすることができなかった可能性があると感じていた」としている。
報告書はまた、ゲーツ氏がコカイン、エクスタシー、マリファナなどの違法薬物を使用したことも指摘。下院の贈答品規則に違反したとされる2018年のバハマ旅行にも焦点を当て、同旅行中、ゲーツ氏が複数の女性と性行為を行い、そのうちの1人は旅行自体が旅行中のセックスの対価だったと述べている。
もっとも、ゲーツ氏は女性にお金を支払ったことについては「独身時代、私はデートした女性によく送金していた。中には、デートしたことのない女性にも頼まれて送っていた。私は何年もの間、こうした女性数人とデートした。18歳未満の人と性的接触を持ったことは一度もない」と否定、「私が性的接触をしたというどんな主張も、法廷で否定されるだろう。そんな主張は法廷でされたことがないからだ」と訴えていた。
ゲーツ氏は23日、報告書の公表は違憲という理由で、ワシントンの連邦地裁に差し止めを求めて提訴した。
興味深いのは、この報告書が、ゲーツ氏は、フロリダ州の法律では起訴される可能性があると示唆している点だ。報告書には「ゲーツ議員が連邦の性的人身売買法に違反したという実質的な証拠は得られなかった」としつつも、「フロリダ州の法定レイプ法では、24歳以上の者が16歳または17歳の者と性行為を行うことは重罪とされており、この罪で起訴された者は、未成年者の年齢を知らなかったことや年齢を偽っていたことを弁護として主張することはできない」と記されている。もっとも、立証するのは難しそうだ。司法省が同氏を捜査したものの、証人の信頼性に問題を見出し、起訴せずにすでに捜査を終了しているからである。
しかし、この下院報告書は、ゲーツ氏の今後の政治家としてのキャリアに大きな暗雲を落としたと言えるだろう。同氏は、現在フロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員がトランプ次期政権下で国務長官に就任したら、同州の上院議員に立候補する可能性があると述べている。また、フロリダ州のロン・デサンティス知事の任期終了にあたり、ゲーツ氏が2026年に同州知事に立候補する可能性も浮上している。しかし、ゲーツ氏が将来、これらの公職に立候補する場合、この下院報告書に詳述されている証拠が蒸し返されて追及されるのは必至。同氏の勝利への道のりは険しいものになったと思われる。
公金でセクハラなどの訴えを示談にした議員名公表を訴える声も
ところで、ゲーツ氏に関する倫理報告書が公表されたことから、議員がセクハラなどの訴えの和解に支払った公金が注目されている。公金を使って示談で訴訟を解決した議員名の公表を訴える声が、議員の中からあがっているのだ。
ケンタッキー州選出のトーマス・マッシー下院議員は12月26日、「議会は、議員のハラスメント(セクハラや他の形態のハラスメント)に対する告発をひそかに示談にするため、あなた方のお金から1700万ドル以上を秘密裏に支払った。議員の名前を公表すべきだと思うか? 私は公表すべきだと思う」と訴えた。
マッシー下院議員がこんな声を発したのは、1995年に議会説明責任法に基づいて設置されたコンプライアンス局によると、連邦議会が、1997年〜2017年の20年間に、議員の268件の和解金として1,700万ドル以上を支払っていたからだ。もっとも、この和解金には、セクハラに限らず、差別や労働法違反、契約や賃金に関する紛争などのケースに関連して支払った和解金も含まれているが、CNNによると、その和解金は米財務省内に設立されている特別な基金から支払われているという。つまり、納税者がそのお金を負担していることになる。
そのため、ジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員も「議会の性的裏金リストを公開したい。納税者がその金を払う必要などなかったはずだ」とマッシー議員に賛同している。ちなみに、グリーン氏は、第二次トランプ政権で、政府効率化に関する小委員会の委員長として、イーロン・マスク氏やビベック・ラマスワミ氏と共に連邦政府の歳出や人員の削減に取り組むことになっていることから、政界の膿み出しをして、歳出削減に繋げたいところなのだろう。
また、ゲーツ氏自身も「1月3日に議会に戻って、(元議員のものも含め)公金が支払われた“Me Too”の示談金を明らかにするための特権的な動議を提出すること」を提案されたと述べている。
議員としては和解のために支払われた公金について秘密にしておきたいところだろうが、透明性を求めている有権者としては、自分が居住している地域から選出された議員が和解するために納税者のお金を使っていたのかどうか知りたいところだ。どんな訴えに対しいくら支払われたか次第では、次の選挙での有権者の投票判断に影響を与えることになるだろう。ゲーツ氏に関する倫理報告書が公表されたことを契機に、公金を使って示談解決した議員名とその金額を明らかにしてほしいという世論は、今後、高まっていくかもしれない。