小泉進次郎環境相で、カーボンプライシングは進むか
第4次安倍晋三内閣は、9月11日に内閣改造を行う。その中で、環境大臣として初入閣する小泉進次郎氏が注目されている。
環境省は、地球環境問題を所管している。わが国は、温暖化対策では先進国の中でも遅れを取っており、どう挽回するかがいま問われている。特に、民間の自発的な取組みはよいとしても、政府が温暖化対策のために何をするのかが問われている。
環境省の中で、内閣改造直前までに議論が進んでいたのが、カーボンプライシングである。カーボンプライシングとは、炭素の価格付けのことである。温室効果ガス、とくに二酸化炭素(CO2)に価格をつけ、企業や消費者に対して排出量に応じた負担を求めることを通じて、CO2の排出削減を促す施策である。
環境大臣の諮問機関である中央環境審議会の地球環境部会カーボンプライシングの活用に関する小委員会は、約1年間の議論を経て、つい先月、今年8月末に「カーボンプライシングの活用の可能性に関する議論の中間的な整理」(PDFファイル)を公表した。
まだ中間的な整理だから、明確な方針が固まったわけではない。事実、この中間的な整理では、カーボンプライシングについての賛否両論が併記されている。
この中間的な整理では、カーボンプライシングに関する政府による施策として、排出量取引と炭素税を具体的に挙げている。カーボンプライシング、特に炭素税の議論は、消費増税を2度先送りした安倍内閣の下でも、封印されることなく容認されていた。
なぜ、カーボンプライシングが取り沙汰されるか。それは、温暖化対策のパリ協定があるからである。日本もパリ協定に批准しており、温室効果ガス排出量の削減目標を達成するために国内対策をとることが義務づけられている。政府による施策なしに削減目標が達成できればよいが、どうも難しいようだ。
そこで、一策として注目されているのが、カーボンプライシングである。カーボンプライシングについてのさらなる詳細は、拙稿「安倍政権で静かに進む『もう1つの増税計画』 温暖化対策税の大幅増税か炭素税導入を検討」を参照されたい。
炭素税は、実はわが国でもわずかばかり導入されている。炭素税は、課税によって排出削減を促すことを狙いとして、二酸化炭素の排出量に対して課す税である。税率は、CO2排出量1トン当たりの金額で表示される。わが国には、地球温暖化対策のための税(温対税)が既にあり、炭素税といえるものである。
ただ、温対税の税率は、CO2・1トン当たり289円で、税収は約2600億円。この税率は、主な炭素税導入国の中では低い水準にある。前掲の中間的な整理では、炭素税を本格的に活用するなら、もっと税率を上げる必要があるという賛成論が記されている。
他方、経済界はこぞって炭素税に反対である。特に、石炭を使う製鉄業と石炭火力発電所を持つ電力業の反対は強い。
温対税だけなら、前述のように税率は低いが、温対税以外にも、石油石炭税や揮発油税(ガソリン税)などのエネルギー諸税がある。これらのエネルギー諸税の税収を炭素排出量で割って換算すると、わが国ではCO2・1トン当たり約4000円となるとの試算もある。その状況で、炭素税を上乗せするように課すと、電力料金が上がって、生産コストが上がって国際競争力を失うという主張が出ている。
炭素税をいきなり大幅増税ということはないとしても、炭素排出量比例の課税になっていない石油石炭税や揮発油税などのエネルギー諸税を炭素排出量比例にする(これを税制のグリーン化ともいう)ことでも、カーボンプライシングは一歩前進だろう。
地球環境問題で、もう1つ注目されている使い捨てプラスチックの廃止に向けた取組みは、多くの人が賛成し、企業も前向きに取り組んでいるところだから、進めることは大事だが、大臣としてこれを推進することは容易だろう。しかし、カーボンプライシングはまだ賛否が拮抗しており、どう折り合いをつけてゆくかが大臣としての腕の見せ所となる。カーボンプライシングに対して、逃げずに「手柄」をあげられるか否か、大いに注目されるところである。