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NHKが「ジャニー喜多川氏の問題」を10分間も放送 ただし「政見放送」で

亀松太郎記者/編集者
NHK総合テレビで放送された映像のワンシーン(撮影・亀松太郎)

4月20日の早朝、NHK総合テレビで、ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川氏の性加害の問題が10分間にわたって放送された。選挙の「政見放送」という形だが、地上波の電波でこの問題が放送されるのは、極めて異例のことだ。

テレビがほとんど報じない「ジャニー喜多川氏の問題」

ジャニー喜多川氏の問題は英国のBBCが3月から4月にかけて、ドキュメンタリー番組を配信し、反響を呼んだ。4月12日には、元ジャニーズJr.の岡本カウアンさんが外国特派員協会で記者会見。週刊誌やネットメディア、新聞がその模様を報じた。

朝日新聞は4月15日の社説で「ジャニーズ事務所の対応はきわめて鈍い」と批判するとともに、「メディアの取材や報道が十分だったのか。こちらも自戒し、今後の教訓としなければならない」と論じた。

この問題に対する社会の関心は高く、たとえば、弁護士ドットコムニュースが公開した岡本さんの会見動画は、1週間で260万回も再生されている。

しかし、ほとんどのテレビ局はこの記者会見を報道していない。一部がネットで短いニュース動画を配信するだけにとどまっている。

公共放送であるNHKも同様だ。会見翌日に、午後のニュース番組で簡単に報じ、ウェブサイトに簡潔な記事を掲載したのみ。看板の報道番組「ニュースウォッチ9」や「クローズアップ現代」で取り上げるなど、突っ込んだ報道はしていない。

テレビのインタビュー番組のようなスタイル

そんななか、4月20日の午前6時から約10分間にわたって、NHK総合テレビが「ジャニー喜多川氏の問題」を放送した。

「NHKでジャニー喜多川の話しをずっとしてるんだけど」

「朝からNHKでジャニー喜多川問題の特集やってて、まさかとチャンネルを確認したが間違いない」

ツイッターには、NHKの放送を見た視聴者の驚きの声が投稿された。

そこで流れた映像は、テレビのインタビュー番組のような見せ方で、岡本カウアン氏の告白を紹介する内容だった。

画面の右上には「元ジャニーズ カウアン・オカモトが明かす故ジャニー喜多川氏の“素顔”」というタイトルが表示され、岡本さんがジャニー喜多川氏から受けた行為を淡々と説明していく。

映像の中では、ジャニー喜多川氏に関する裁判の結果も紹介されていたが、民事訴訟なのに「有罪判決」と表示するなど、事実関係に不正確な点も見られた。

「報道番組」ではなく「政見放送」

しかし、これはNHKの「ニュース番組」が報道したものではない。政治家女子48党(旧NHK党)による「政見放送」だ。

衆議院千葉5区の補欠選挙に、政治家女子48党の織田三江氏が立候補している。その政見放送として、「ジャニー喜多川氏の問題」に関する映像が流れたのだ。

「ジャニー喜多川氏の問題」に関する映像が、衆議院補欠選挙の「政見放送」としてNHKで放送された(撮影・亀松太郎)
「ジャニー喜多川氏の問題」に関する映像が、衆議院補欠選挙の「政見放送」としてNHKで放送された(撮影・亀松太郎)

「この放送は公職選挙法にもとづいて、候補者届出政党の政見をそのままお伝えするものです」

「この政見放送は、政治家女子48党が自ら制作して提出したものをそのまま放送します」

映像の冒頭には、このようなアナウンスが流れた。

つまり、NHKが独自の判断で編集した「ジャニー喜多川氏の問題」に関する映像を放送したわけではなく、「政見放送」として提出された映像をそのまま流したにすぎない。

しかし、これまでジャニー喜多川氏の問題を正面から扱ってこなかったNHKの総合テレビで、このような映像が放送されたのは、異例なことだったと言える。

公職選挙法150条には、こう記されている。

「日本放送協会及び基幹放送事業者は、その録音し若しくは録画した政見又は次に掲げるものが録音し若しくは録画した政見をそのまま放送しなければならない」

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者を経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長として報道・言論コンテンツを制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースを配信。さらに、朝日新聞運営「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを買い取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営。在住する東京都杉並区のニュースを取材している。

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