カンヌ受賞監督が描く「カースト制」、発達障害の娘と母の「葛藤」ーードキュメンタリーの映画フェスが開催
2年に1回、山形市で開かれる「山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)」。そのはざまの年に東京で催される映画フェスが「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー」だ。今年は10月19日から11月20日まで、新宿とお茶の水の2つの会場で、約50作品が上映される。
ドキュメンタリー・ドリーム・ショーは、山形で上映されたドキュメンタリー映画の秀作を、東京近郊の人々にも鑑賞してもらおうというイベントだ。
「山形映画祭で作品を見逃した人に見てもらおうという趣旨ですが、映画祭を知らない人に知ってもらいたいという期待もあります」(ドキュメンタリー・ドリーム・ショー宣伝担当の原田徹さん)
世界注目のパヤル・カパーリヤー監督が描く「インドの光と影」
今回は、昨年のYIDFFで大賞に輝いた『何も知らない夜』や最優秀賞に選ばれた『訪問、秘密の庭』など、インターナショナル・コンペティションの出品作の多くがラインナップされている。
また、アジアの気鋭の作家を紹介する「アジア千波万波」プログラムからは、日本映画監督協会賞を受賞した『平行世界』や小川紳介賞の『負け戦でも』、奨励賞の『ベイルートの失われた心と夢』を始めとする力作がスクリーンに登場する。
さらに、「パレスティナ−−その土地と歩む」という特集プログラムも予定されている。
※参考記事:パレスチナの「体験と記憶」を伝えるドキュメンタリー映画、東京で一挙上映
秀作が並ぶが、なかでも注目すべき作品はどれか。YIDFF東京事務局の加藤初代さんが挙げたのは、インドのパヤル・カパーリヤー監督の作品で、昨年のYIDFFで大賞(ロバート&フランシス・フラハティ賞)を受賞した『何も知らない夜』だ。
「パヤル・カパーリヤーさんは、今年のカンヌ国際映画祭で新作の『All We Imagine as Light』がグランプリ(最高賞パルム・ドールの次点)を受賞した監督です。昨年のYIDFFのとき、彼女はちょうどその新作を撮影中で、山形に来られなかったんですが、その作品がカンヌで受賞して、私たちも嬉しく思っていました」(加藤さん)
『何も知らない夜』では、ある学生の悲恋の背景にあるカースト制の現実と、公権力と結託した集団による学生運動弾圧の記憶が、モノクロームの映像によって表現される。カンヌ映画祭で世界的に注目されることになった新鋭作家がインドの光と影を描き出す。
アスペルガー症候群の娘との「12年間の葛藤」を記録
ドキュメンタリー・ドリーム・ショーのパンフレットの表紙に、インパクトのあるスチール写真が使われているのは、台湾の蕭美玲(シャオ・メイリン)監督の『平行世界』だ。
発達障害の一つであるアスペルガー症候群をもつ娘と母の葛藤を、12年間にわたって記録した長編ドキュメンタリーで、YIDFFでは日本映画監督協会賞に選ばれた。
スクリーンに映し出されるのは、蕭監督自身とその娘エロディ。6歳から18歳まで、年齢を重ねるごとに対人コミュニケーションをめぐる苦悩が深くなる娘に寄り添いつつも、自立を促すために、海外にいる父のもとにあえて娘を送り出す母。その二人のヒリヒリするような交流をカメラが捉えている。
「印象的なスチール写真ですが、作品の本質をよく表していると思います」(加藤さん)
表舞台から姿を消した有名画家が語る「芸術の本質」
加藤さんがもう一つ、推奨するのは、イレーネ・M・ボレゴ監督の『訪問、秘密の庭』だ。
かつてスペイン有数の女性画家として注目されたが、表舞台から姿を消したイサベル・サントロ。その姪にあたるボレゴ監督が、年老いた彼女のもとを訪れ、なぜ孤独な生活を選んだのかを問うていく。「病に侵された老婆」という風貌からは想像できない、イサベルの力強い語りと芸術の本質をついた鋭い言葉に圧倒される。
加藤さんは「YIDFFで最優秀賞(山形市長賞)を受賞をした魅力的な作品ですが、特にドキュメンタリーを制作している人には響くのではないかと思います」と指摘する。
「ドキュメンタリー映画では、自分の身近な人を撮影するという手法がよくありますが、被写体へのアプローチの仕方によって全然違う映画ができるというのが、この作品を見るとよくわかるでしょう」
コロナ禍の影響で、昨年のYIDFFは4年ぶりのリアル開催となった。「久々のため非常に盛り上がって、たくさんのお客さんが山形に来てくれました。東京でもその熱気を再現できるといいなと思います」(原田さん)
「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京 2024」は10月19日から11月8日まで、東京・新宿のK’s cinemaで開かれる。その後、11月9日から20日まで、お茶の水のアテネ・フランセ文化センターで映画が上映される。