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世界水泳AS 最後の種目でメダル獲得のウクライナ代表「生きてこの大会に参加できることは嬉しい」

沢田聡子ライター
(写真:ロイター/アフロ)

世界水泳選手権福岡大会で、アーティスティックスイミング(以下AS)のウクライナ代表は新ルールに苦しんでいた。

ウクライナは、2021年に行われた東京五輪ではデュエット・チームの両種目で銅メダルを獲得し、初めて五輪の表彰台に立った。2022年世界水泳選手権ブダペスト大会でも1つの金メダル、5つの銀メダルを獲得したウクライナだが、新ルールの下で行われている今大会ではなかなか表彰台にたどり着けなかった。

曲線的な美しさを強みとしてきたウクライナの演技は、正確な角度を要求される新ルール下では評価されにくいのかもしれない。だがそれ以前に、ロシアの侵攻による厳しい状況下で今大会に臨んだウクライナに、新ルールに対応する余裕があっただろうか。

昨年2月に拠点を置いていた東部ハルキウが砲撃の標的になったため、ウクライナ代表チームはイタリアに移動して練習を続けていた。昨年6月に行われた世界選手権ブダペスト大会後には母国に戻りキーウに拠点を移したが、空襲警報に脅かされながら練習する日々だったという。今大会に向けては開幕二週間前に兵庫県尼崎市に入り、準備をしてきた。

ウクライナのデュエット代表は、世界選手権ブダペスト大会にも出場しテクニカルルーティン(以下TR)・フリールーティン(以下FR)で銀メダルを獲得している双子のアレクシーワ姉妹(マリナ、ウラディスラワ)が務める。TR予選はベースマーク(申請した技を正確に行えず難度が最小になる)なしで3位通過した二人だが、TR決勝ではベースマークを2つとられて10位に終わった。

7月16日に行われたTR決勝後のミックスゾーンで「予選の時と同じように行ったと思うのですが、今回ベースマークになってしまったものもあって『何故こういう結果になったのか』と受け止めきれないところがあります」と語った二人だが、取材には終始明るい表情で応じた。

「日本の皆さんからはウクライナにいる時も応援のメッセージなどをいただいていて、ここに来てからも皆さん本当に親切で、大きな声援を送って下さるので力になっています。東京五輪の時も日本でパフォーマンスできたのですが、その時は無観客だったので、このような形で歓声を聞くことができなかった。今回はこうして皆さんの前でパフォーマンスできて、とても嬉しいです」

東京五輪にもチーム種目のメンバーとして出場した二人は、日本滞在を楽しんでいる様子だった。ウクライナを介して福岡に入るのは難しかったため、ヨーロッパの大会に出た後に直接来日し、二週間尼崎で練習していたという。尼崎では抹茶や書道といった日本文化にもふれたそうだ。福岡がラーメンの聖地と言われていることを知っており、試合後に食べることを楽しみにしているという。

TR決勝の観客席でウクライナの国旗が振られていたことに気づいたか尋ねると、「もちろん気づいていました」という答えが返ってきた。

「本当に(ウクライナ国旗を)見ることで自分達の士気も上がるというか、力になっています」

「生きてこうしてこの大会に参加できるということはとても嬉しいですし、ウクライナ軍で今実際に戦っている方達に感謝を忘れずに、ここで演技をしていきます」

二人は、この大会での目標を聞かれると「なんでもいいから、メダルがほしいです」と答えている。

「自分達が練習でしているようなパフォーマンスをして、ベストな演技を見せることで、メダルがとれればいいなと思っています」

しかし、その後もウクライナ代表は厳しい戦いを強いられる。17日のアクロバティックルーティン決勝ではベースマーク1つで7位、18日のチームTR決勝ではベースマーク3つで11位、20日のデュエットFR決勝ではベースマーク1つで6位。ウクライナに対しては観客席からも心なしか大きな声援がとんでいるように感じただけに、表示された得点を見て硬い表情で立ち去るウクライナの選手達を繰り返し見るのは辛かった。

ウクライナ代表が出場する最後の種目、チームFR決勝は21日に行われた。アレクシーワ姉妹を含むウクライナチームの8人は、大歓声の中演技を終えた日本の直後となる10番目に登場。東京五輪から継続して泳ぐルーティンのテーマは、「勇敢なチーム」だ。結果的にベースマークは2つとられたものの、高さのあるリフトや美しい足技といったウクライナならではの魅力をみせる泳ぎで、銅メダルを獲得した。最後の種目で表彰台に立ったウクライナの戦いぶりに、諦めない強さと誇りを感じた。

念願のメダルを獲得したウラディスラワは、ベースマークについてコメントしている。

「ベストを尽くそうとしましたが、ベースマークが2つありました。何が原因なのか、正確にはわかりません。後でチームと一緒に確認するつもりです」

ミスをそのままにしない姿勢をみせると同時に「今のところ、自分達の結果には満足しています」と充実感を漂わせ、さらに成長できるという自信もにじませた。

「もっと良くなる可能性はありますが、それはこれからです」

ウクライナ代表は、2024年パリ五輪に向けて泳ぎ続ける。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。2022年北京五輪を現地取材。

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