コロナワクチンのデマ対策、Facebookに司法長官が問いただす
フェイスブックが新型コロナウイルスのワクチンに関するデマにしっかり取り組んでいるという証拠を出せ、と特別区司法長官が問い詰める――。
ウェブメディア「アクシオス」は、そんな動きを報じている。
アクシオスによれば、米コロンビア特別区(ワシントンDC)の司法長官がフェイスブックに対して、ワクチンの誤情報拡散防止への取り組みを示す文書の提出を要求。ところが、フェイスブックが提出を拒否したため、文書提出命令を出したのだという。
ソーシャルメディア上の誤った情報が、新型コロナの抑え込みが期待されるワクチン接種への忌避の雰囲気を作り出しているのではないか。そんな強い懸念が背景にあり、3月にはコネチカットなど12州の司法長官も、フェイスブックとツイッターに対処を求める公開書簡を送っている。
新型コロナワクチンに関する誤った拡散は、実際のワクチン忌避につながるのか。英国の研究チームが2月に発表した英米での調査結果によると、そのような影響が見られた、としている。
正確な情報が不足するところに、誤情報と不安が広がる。
日本国内でも、誤った情報への懸念が指摘されている。正確な情報を地道に広げる必要がある。
●証拠の文書を提出せよ
ワシントンDCの司法長官、カール・ラシーン氏の広報担当者は、アクシオスなどのメディアに対して、そう述べている。
ポリティコの報道によると、文書提出命令が出されたのは6月21日付。
提出を命じているのは、フェイスブックによるコロナワクチンをめぐるフェイクニュース抑え込みの取り組みを示すデータなどだ。
具体的には、フェイスブックのユーザーにおけるワクチン忌避の広がりについての内部調査、新型コロナに関する規約違反となったグループ、ページ、アカウントを示す文書、ワクチン誤情報についての規約違反で削除や表示抑制となった投稿件数、ワクチン誤情報対策のために投じているリソース、などだ。
これに対して、フェイスブックは声明でこう述べているという。
●フェイスブックの内部調査
ワシントン・ポストのエリザベス・ドゥオスキン氏は3月、フェイスブックがワクチン忌避に関するユーザーの大規模調査を内部で行っていた、と報じている。
それによると、ごく一部のグループが、幅広いユーザーのワクチン忌避を引き起こしている可能性があることが明らかになっていた、という。
調査では、対象として米国のユーザー、グループ、ページを638の人口区分に分類。その規模は、少なくとも300万人に上ったという。
調査の結果、638の分類のうち、わずか10の区分が、全体の半数にのぼるワクチン忌避コンテンツに関わっていたという。さらに、最も忌避傾向の強い区分を見ると、ワクチン忌避コンテンツの半分は、わずか111人によるものだった、という。
また、ワクチンに懐疑的なコミュニティは、陰謀論グループ「Qアノン」とかなりの重複があった、としている。
ラシーン氏がフェイスブックに提出を命じている「ワクチン忌避の広がりについての内部調査」とは、このドゥオスキン氏が報じた内部調査結果を指す。
●12のアカウント
ソーシャルメディアで拡散する反ワクチンのプロパガンダの65%は、わずか12の個人に行き着く――。
米英に拠点を置くNPO「デジタルヘイト対策センター(CCDH)」は2021年3月、そんなレポートをまとめている。
レポートでは、同年2月1日から3月16日までの1カ月半に、フェイスブック、ツイッターで計81万2,000回にわたって投稿・共有された反ワクチンのコンテンツを分析した。
すると、フェイスブックで68万9,000回にわたって投稿された反ワクチンのコンテンツのうち、73%がこの12の個人と夫婦、さらにその関連組織を起点とするものだったという。
この中には、ロバート・ケネディ元米司法長官の息子で、反ワクチンの主張で知られるロバート・ケネディ・ジュニア氏らが名を連ねる。
同センターが2020年12月に発表した別の調査では、反ワクチンのコンテンツを発信するフェイスブック、インスタグラム、ユーチューブ、ツイッターの主要アカウント425のフォロワー数は、合わせて5,920万人に上ったという。
また、インペリアル・カレッジ・ロンドン、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院などの研究チームが2021年2月に「ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア」で発表した調査によると、新型コロナワクチンに関するネット上の誤った情報に接することで、ワクチン接種への意図が低下するとの結果が示されている。
調査は2020年9月、英国と米国で計8,001人を対象に実施した。
それによると、新型コロナワクチンに関する「ワクチン接種がDNAを変える」などの誤った情報を見たことで、英国で6.2ポイント、米国で6.4ポイント、ワクチン接種の意図の低下が見られた、という。
●12州の司法長官らも対処求める
新型コロナワクチンに関する誤情報への対処を求めているのは、ワシントンDCの司法長官だけではない。
2021年3月24日には、コネチカット州司法長官のウィリアム・トン氏ら12州の司法長官の連名で、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏とツイッターCEOのジャック・ドーシー氏に対し、公開書簡を送っている。
公開書簡では、「デジタルヘイト対策センター」のデータを引きながら、両社の対策が不十分だと指摘し、こう述べている。
フェイスブックは2020年12月、それまでの新型コロナに関する誤情報に加えて、新型コロナワクチンに関する虚偽の主張を削除する、表明している。
またツイッターも同月、新型コロナワクチンに関する有害で誤解を招くツイートの削除と、誤解を招く可能性のあるツイートへの警告表示を行うことを明らかにした。
だが、その対策が徹底されていない、というのが各州司法長官の受け止め方だったようだ。
●地道な説明を続ける
ネットに広がるフェイクニュースの中で、新型コロナワクチンに関するものは、その存在感を増しているようだ。
「国際ファクトチェッキング・ネットワーク(IFCN)」が主導するファクトチェック団体のグループ「コロナウイルスファクツ同盟」が、それぞれのファクトチェックの判定結果を収容したデータベースを公開している。
このデータベースは70カ国、90を超すファクトチェック団体の40を超す言語での検証結果1万2,000件以上を保存している。
IFCNのハリソン・マンタス氏が2021年3月分のデータを調べたところ、新たに収容された455件の検証結果のうち、49%がワクチンに関する内容で、その割合は増加しているという。
一方、新型コロナのワクチン接種に関する各国の意識調査を継続的に行っている「イプソス」が、2021年1月に15カ国で行った調査結果を、翌2月に発表している。
それによると、「接種を受ける」が80%を超す国は英国(89%)を筆頭に、ブラジル、メキシコ、中国、イタリア、スペインなど6カ国に上り、前月に比べていずれも増加傾向にあった。ただ、日本は64%にとどまった。
ワクチン忌避の理由として多くの国で目立ったのが、副反応への懸念だ。中でも日本は、66%が副反応を理由として挙げており、調査対象国で最も多かった。
新型コロナワクチンをめぐる誤情報は日本国内でも出回る。
新型コロナワクチン接種推進担当相の河野太郎氏は6月24日、「デジタルヘイト対策センター」のデータなどを引きながら、ワクチンをめぐる誤情報を否定するブログ投稿も行っている。
誤情報対策に取り組む米NPO「ファーストドラフト」は、2020年11月にまとめた報告書の中で、新型コロナワクチンに関する情報不足の問題を指摘している。
プラットフォームによる地道なコンテンツ管理とアカウント管理、そして、政府や自治体、メディアを含めた正確な情報発信。
当面はその取り組みをさらに強化することが求められるようだ。
(※2021年7月4日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)