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#(自民|立憲民主)党の解党を求めます」ハッシュタグどちらがよりエコーチェンバーか比較してみた

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
これはカイト(写真:PantherMedia/イメージマート)

いわゆるツイッターデモは政権批判(リベラル)系のアカウントによって行われることが多いように思われます.例えば,「#安倍晋三の不起訴処分に抗議します」の拡散の半分は3%のアカウントによって行われているという記事を書きましたが,その拡散のほとんどが過去に政権批判ツイートを拡散していたアカウントによって行われたことが分かっています.

そんななか,年末も差し迫ったクリスマスの夜に「#立憲民主党の解党を求めます」というハッシュタグの拡散が行われ,トレンドに乗るくらいになりました.

一方,次の日には今度は「#自民党の解党を求めます」というハッシュタグが対抗するように登場し,こちらもトレンドに乗ったようです.

政権支持側が「ツイッターデモ」を行うことは少ないですし,批判派,支持派双方がほぼ同じようなハッシュタグを拡散させることも珍しいため,分析対象として興味深いように思います.そこで,双方のハッシュタグを含むツイートを収集し,その内訳を分析してみました.

基礎データ

「#立憲民主党の解党を求めます」

2020年12月18日~27日15時まで80,112件のツイートが収集されました.うち,オリジナルツイートは9,816件,リツイートが70,002件でした.

拡散に参加したのは24,285アカウントで,オリジナルツイートを投稿したのは5,710アカウント,リツイートしたのは20,500アカウントでした.

最もオリジナルツイートを多く行ったアカウントは217回ツイートしていました.最も多く拡散したアカウントは314回リツイートしていました.

「#自民党の解党を求めます」

2020年12月18日~27日15時まで158,914件のツイートが収集されました.うち,オリジナルツイートは25,861件,リツイートが133,053件でした.

拡散に参加したのは24,988アカウントで,オリジナルツイートを投稿したのは9,145アカウント,リツイートしたのは19,933アカウントでした.

最もオリジナルツイートを多く行ったアカウントは164回ツイートしていました.最も多く拡散したアカウントは825回リツイートしていました.

以上より,拡散に参加したアカウント数はどちらも25,000弱であまり違いはないということが分かりましたが,あとから開始された「#自民党の解党を求めます」の方が2倍程度拡散され,オリジナルツイートを行ったアカウントも2倍程度いたようです.

どちらも参加アカウント数的には同レベルのバーストでしたが,より積極的に参加するアカウントは「#自民党の解党を求めます」の方が多かったといったところでしょうか.

時系列データ

次に,時間とともにどうツイートが増加していったかを見てみましょう.

数は12月25日から1時間ごとにツイートと参加アカウントがどのように増えていったかを示しています.

二つのツイッターデモのツイートとアカウントの累積分布(著者作成)
二つのツイッターデモのツイートとアカウントの累積分布(著者作成)

この図より,当初は「#立憲民主党の解党を求めます」のツイート数が増加していますが,26日から「#自民党の解党を求めます」が増加し始め,26日14時には逆転しています.ただし,参加アカウント数の逆転は27日9時でした.

ちなみに,「#自民党の解党を求めます」は12月27日になってもツイート数は増加を続け23,681ツイートほど増えていますが,アカウント数は2,765しか増えていませんので一度ツイートしたアカウントが引き続きツイートを続けていたと推定されます.

次に,どのくらいのアカウントがどのくらいのツイートを拡散したのかを見てみましょう.数は,横軸がリツイート回数で,縦軸がその回数以上リツイートしたアカウントの割合(累積アカウント率)と,その回数以上リツイートしたアカウントによって拡散されたツイートの割合(累積拡散率)を示しています.

累積アカウント数とツイート数(著者作成)
累積アカウント数とツイート数(著者作成)

ここから,半数のツイートを何パーセントのアカウントが拡散したのかを確認しました.

その結果,

・「#立憲民主党の解党を求めます」については,8.6%にあたる1,774アカウントが半数の拡散を担っている

・「#自民党の解党を求めます」については,4.3%にあたる864アカウントが半数の拡散を担っている

ことが分かりました.どっちもどっちといったところでしょうか.

参考までに,最近話題となった『天穂のサクナヒメ』のツイートの場合だと,拡散の半分を担うのは全体の15%のアカウントでした.どんな場合でも一部のアカウントによって大量のツイートがなされるものですが,その度合いは大きいようです.

拡散アカウントの内訳

拡散アカウントの中で,政権批判派と政権支持派がどのくらいいたのかを分析してみました.ただし,それぞれのハッシュタグの利用者の中にも必ずしもハッシュタグの内容に賛成している人だけではないことから,ハッシュタグの内容にポジティブなツイートの拡散をしたアカウントだけに注目してみました.

また,政権批判派,支持派アカウントは過去2年のツイートで政権に対して批判的,支持的なツイートを10回以上RTしたアカウントを抽出したものです.

政権支持派・政権批判派の割合(著者作成)
政権支持派・政権批判派の割合(著者作成)

その結果,

・「#立憲民主党の解党を求めます」については参加アカウントの78.8%がもともと政権支持ツイートを多数リツイートしていたアカウント

・「#自民党の解党を求めます」については参加アカウントの82.9%が政権批判ツイートを多数リツイートしていたアカウント

であることが分かりました.

どちらももともと政治的な嗜好の強いアカウントによる拡散が多かったのですが,「#立憲民主党の解党を求めます」の方が若干政治的活動の少ないアカウントによる拡散も獲得していたようです.

ボットの影響

多数の拡散があった場合,ボットによる拡散が多いのではないかという疑問がわいてきます.そこで,どこからツイートされたかを調べることで,ボットかどうかを推定してみます.

投稿元アプリ(著者作成)
投稿元アプリ(著者作成)

その結果,「#立憲民主党の解党を求めます」「#自民党の解党を求めます」ともに99%の投稿が公式アプリや公式WEBサイトからの投稿であり,ボットからの投稿であると言い切れるものはありませんでした.

となるとボット投稿の可能性としては,投稿元の偽装とアプリを経由した自動投稿ということになります.

ただ,投稿元の偽装は規約違反なうえ,簡単ではありません.少なくとも私は偽装のやり方が分かりませんでした.また,アプリを使った大量の自動投稿もやはり難しそうです.ある程度可能なのはブラウザ経由の自動投稿でしょうか.となるとWebAppが少し可能性がありますが,それらを引いてもツイートの75%以上はボットではないと言えそうです.

というわけで,iPhoneやAndroidのアプリを偽装したり,自動投稿するというかなり高度な技術を使っていない限りボットの可能性は低そうです.また,たとえ高度な技術を使っているとしても,投稿元の分布からは「どちらかのハッシュタグに怪しい投稿元が多い」ということはありませんでした.というわけで,どちらかの陣営だけがボットを多数使っている,という証拠はありませんでした.

新規アカウントの作成

最後に,「新規アカウントを大量生成して偽装している」という説を検証してみます.

アカウントの作成日をもとに,12月25日以降に作られたアカウントによるツイートを分析してみました.

それぞれのハッシュタグをツイートしたアカウントの中で,2020年12月25日以降に作成されたアカウント数と,それらのアカウントによるツイート数が以下の通りです.

新規作成アカウント(著者作成)
新規作成アカウント(著者作成)

・「#立憲民主党の解党を求めます」では15アカウントが作られ21ツイートが行われました.

・「#自民党の解党を求めます」では39アカウントが作られ408ツイートが行われました.

これを見ると,「#自民党の解党を求めます」をツイートするために作られたアカウントがそれなりにあるようですが,全体に影響を与えるほどの数ではなさそうです.ツイートに占める割合で言うと0.2%です.

というわけで,大量の新規アカウントを作ってツイート数を水増ししているということはありませんでした.

まとめ

ほぼ同時期に類似したハッシュタグが異なる政党を対象に拡散されたため,それぞれのデータについて分析を行ってみました.

結果として,参加アカウント数から見るとほぼ引き分けだったといってよいでしょう.ツイート数から見ると「#自民党の解党を求めます」の方が2倍くらいあり,オリジナルツイートを行うアカウントも2倍くらいだったことから,こちらの方が積極的にツイートするアカウントが多かったようです.

一方で,ツイートの大半はごく一部のアカウントが拡散していたのはどちらのハッシュタグでも同じでした.これがツイッターデモの宿命なのかもしれません.

また,どちらのツイートも拡散していたのはもともと政権支持または政権批判のツイートを過去に多数の投稿を行っていたアカウント群がほとんどであり,民意というとちょっと違うかなという印象があります.どちらの陣営もエコーチェンバーの中で盛り上がっている感じでしょうか.

ちなみに,ボットや新規アカウントによる拡散が大半であるという証拠は双方から見つかりませんでした.

以下は個人的な解釈ですが,政治的な話題でバースト現象が起きると,よく「これだから野党は・・・」「これだからネトウヨは・・・」という言説を見かけますが,双方を分析すると本質的にはあんまり違いはないんじゃないでしょうか.

強いて言えば,

・政権批判派の方がツイート数を増やすための努力をしている

・政権支持系の方が元々のコアな支持派以外の拡散が若干多い

といったところですかね.

いずれにせよ,なかなか特定のハッシュタグをバズらせるのは難しいし,特に仲間内から外にリーチさせるのは難しいようです.

そもそも両方合わせて25万ツイートくらいだと炎上としてはちょっと物足りないレベルですね.そう考えると,検察庁法改正案の600万件はやはりすごかったなあと思います.

(2020年12月29日追記)

投稿元を偽装する方法について分かりました.それなりに専門知識があればできそうですが,これが簡単かどうかは難しいところです.少なくとも一般の人が気軽にできるようなものではなさそうです.

あと,「Botmeter使えや」という意見もありましたが,精度がイマイチなのと大量アカウントを調べるのには向いていないので使っていません.(おそらく)人間がスパムのように大量に投稿していると結構ボット判定されちゃうんですよね,あれ.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会前編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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