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流行語大賞は流行した語が受賞するとは限らない

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
流行語大賞トップテンを含む画像生成をAIに頼んだ結果(ChatGPT作成)

2024年の新語・流行語大賞の年間大賞が「ふてほど」に決定したそうです.関係者の皆さまおめでとうございます.

しかしながら,例年のごとく「そんなに流行ったっけ?」という疑問の声もネット上では多く見られるようです.そこで,実際に「ふてほど」がどれほど話題になっていたのか,X上での言及数とニュース記事での言及数から調べてみました.

ここでは,2024年1月1日~10月31日までのデータを利用しました.11月に入ると新語・流行語大賞のノミネート語が発表されるため,その影響を避けるためです.XについてはXのAPIを利用,ニュース記事に関してはCeek.jpNewsのデータを利用しました.ここでは.比較のため新語・流行語大賞トップテンの各語についても同様に調べました.

X上での言及数

まず,一日単位でのX上での言及数を見てみましょう.

X上での言及数(筆者作成)
X上での言及数(筆者作成)

一日当たりの言及数で行くと,「界隈」がずっと5万回ほど投稿・拡散があったことが分かります.また,「新紙幣」「50‐50」は鋭いピークがあり一日で30万回ほど言及されていました.「新紙幣」は新紙幣が発行されたタイミングで,「50-50」は大谷選手が50-50を達成したタイミングで盛り上がったようです.

それ以外のトップテンの語はいずれもあまり見えない状況になっていますが,かろうじて「裏金問題」が1月と10月に盛り上がっている様子が見て取れます.

「ふてほど」?見えませんねえ.

そこで,1月1日~10月31日までの言及数のトータルを見てみましょう.

各ワードの総言及数(筆者作成)
各ワードの総言及数(筆者作成)

これを見ると,言及数の数から行くと「界隈」「50‐50」「裏金問題」の順で多かったことが分かります.「ふてほど」はかろうじて見える程度です.「ふてほど」のトップテン内の言及数の順位は6位でした.

ちなみに,略称ではない「不適切にもほどがある」を含めても6位のままでした.

ニュースでの言及数

次にニュースでの言及数を見てみましょう.

ニュース上での言及数(筆者作成)
ニュース上での言及数(筆者作成)

こちらで目立つのは,「新紙幣」のピークでしょうか.それ以外に「50‐50」のピークも目立ちます.また,一年間を通じて「裏金問題」について言及されていることが分かります.

ふてほど?まあ,ニュースにならないというのは想定内ではあります.

そこで,1月1日~10月31日までの言及数のトータルを見てみましょう.

各ワードの総言及数(筆者作成)
各ワードの総言及数(筆者作成)

これを見ると,「裏金問題」が一年を通じて最も言及されており,続いて「界隈」「新紙幣」の順番となります.「ふてほど」のトップテン内の言及数の順位はこちらも6位でした.略称ではない「不適切にもほどがある」を含めても順位に変化なしです.

以上から,少なくともX上での言及数やニュースでの言及数からは「ふてほど」が特に話題になったというわけではないということが分かりました.

なんなら1位になれるのか?

もともと新語・流行語大賞は特に言及数などでは決まっていなかったかと思いますので,6位だったとしても何の問題もないわけですが,何か一つくらい1位にする方法はないものかと思って調べてみました.

ここで,新語・流行語大賞トップテンの中でX上でもっとも言及があった「界隈」について考えてみると,そもそも「界隈」という言葉は今年から急に使われだしたわけではなく,昔から使われていたのではないかという気もしないでもありません.

そこで,2023年1年間のXでの言及数に対して,2024年1月1日~10月31日まででどのくらい言及数が増えたのかを分析してみました.その結果が以下の通りです.ただし,2023年に言及数が0だった「初老ジャパン」と「名言が残せなかった」は抜いています.

2023年からの伸び率(筆者作成)
2023年からの伸び率(筆者作成)

この結果から,2023年からの伸び率は圧倒的に「ふてほど」が高かったことが分かります.2023年の8150倍の言及があったことが分かりました.

というわけで,2023年からの伸び率で行けば「ふてほど」が年間大賞となったのも納得できますね.多分そんな理由で決めていないとは思いますが.

まとめ

というわけで,新語・流行語大賞の年間大賞の「ふてほど」がどのくらい話題になっていたのかを,Xとニュースから調べてみました.他にもGoogleTrendなどで調べた記事などもありましたが,話題性が単に大きかったという理由で選ばれたわけではなさそうです.

基本的には新語・流行語大賞の年間大賞は毎年「そんなの流行ってたっけ?」と言われている気がするので,そういうものとしてみたほうが良いのかもしれません.

ちなみに,「50-50」の方がいいんじゃないか,という意見も多くあったようですが,ここ最近の年間大賞を見てみると,

2021年「リアル二刀流/ショータイム」

2022年「村神様」

2023年「アレ(A.R.E)」

と3年連続で野球関連だったので,今年は避けたのかもしれませんね.知らんけど.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会前編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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